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第13話 猫に嫌われる女 前編

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『傭兵王』に捕縛されたものの、1度人脈の恐ろしさを知れば手を引くだろう。そう思ってエクムントは逃げもせずに堂々と彼の城下町で仕事を探していた。

 今回もギルドに掲載されてから1年以上経つクエストを探していて、それを見つけた。公爵令嬢の依頼で「猫に嫌われるのをどうにかしたい」というものだ。

 この国の王族公爵の令嬢……という事はおそらく、あの『傭兵王』のめいと言う事になる。

 まぁそれでも1年以上クリアーされてないクエストを受けるというんだ。迎え入れてくれるだろうと踏んでいた。

 いつものように彼は石板のような通信機器で通話を開始する。



「マーク、元気か?」

「おお! エクムントか! いやあ久しぶりだな! こっちは「ぼちぼち」って所だ。それで何だ? 仕事の依頼か?」

「ああそうだ。お前にとっては物足りないかもしれないが、猫に嫌われるのを治したいという公爵令嬢直々の依頼だよ」

「ふーん。確かに平和な依頼で物足りねえが、公爵令嬢直々の依頼ってことは相手はカネを持ってるってことだよな? よし分かった。受けるぜ。召喚はいつにする?」

「明日の昼でよろしいですか? 今日公爵領地に向かう予定です」

「よーし分かった。大船に乗ったつもりでいなよ」

 そう言って通信を終えた。



 乗合馬車を拾って公爵領地へと向かい、1泊。昼になるのを見て召喚を行う。本を取り出し魔法陣を起動させる。

「召喚……マーク=トゥエイン!」

 光が辺りを包む。それが静まると魔法陣の中央には1人の男が立っていた。

 年齢はエクムントと同程度の、この辺では割と珍しい黒い髪をし、小銭入れを多く持っていた。



「よおエクムント、こうして顔を合わせるのは久しぶりだな」

「久しぶりだなマーク、物足りない依頼で呼び出して済まない」

「いいって事よ。相手は公爵令嬢なんだろ? たっぷりカネを持ってるだろうから気前よく払ってくれそうだからな」

「じゃあ館に行くからついてきてくれ」

 エクムントに先導されるマークが歩くたびに人並み以上に多く持つ小銭入れからチャリン、チャリンという銭の音が聞こえる。

 わざと音が大きくするように魔術が施された特別製の小銭入れからの音だった。



「相変わらず小銭を鳴らす癖は抜けないんですね。泥棒に狙われると思いますよ?」

「いいのいいの! この音が良いんじゃないか」

 マークはカネを何よりも愛し、カネの音が最高に心地いい音だという。カネに対するがめつさが大いに出るが、こればっかりはどうしようもないとエクムントも諦めている。



 領主の館に着くと2人は応接室に通される。中には『傭兵王』に似た男が待っていた。

「エクムント=バルミング、ただいま参りました。彼は知り合いのマーク=トゥエインというテイマーです」

「マーク=トゥエイン……!? ま、まさか世界で初めてヘルハウンドのテイムに成功した伝説のテイマー、あのマーク=トゥエイン!?」

「ほほぉ、ご存じですか。その通りです、そのマーク=トゥエインです。以降お見知りおきを」

 話題はマークからエクムントへと移る。



「ところで、エクムント=バルミングと言えば先日兄上が欲しがっていたという、あの?」

「ええそうです。大したことでは無いんですけど色々ありました」

「申し訳ありません。兄上と来たら『野望や欲望が服を着て歩いている』ようなもので何を手に入れても満足しないというどん欲な性格でして……」

「あなたが謝る事なんて何一つありませんよ。それより、話の本題に入ってもよろしいでしょうか?」

「ああ、分かった。エスティ、入ってきなさい」

 公爵がそう指示すると中に淡いレモン色の髪をした少女が華やかなドレスをまとって現れる。伯父おじである『傭兵王』やその弟である父親にはこれっぽちも似ていない、かわいらしい少女だ。



貴女あなたが依頼主のエスティ様ですね? 依頼の詳しい内容をお聞かせいただきたいのですが?」

「分かったわ。私は後2年したら嫁ぐことになっているんだけど、嫁ぎ先で飼っている猫と仲良くなりたいのにどうしても懐いてくれないのよ。

 私は猫が好きなんだけど猫に嫌われる体質らしくて練習用に家で飼っている猫からも嫌われているのよ。この体質を治してちょうだい」

「猫に嫌われる体質を何とかできないか?」いかにも平和な困りごとだ。とはいえ彼女からしたら最も重い悩みであることは確か。男2人は真剣なまなざしで応える。



「分かりました。では報酬を倍額払っていただけるのならお受けしましょう」

「!? 何だと!?」

 エスティの父親が声を荒げる。

「ギルドの報酬は1年前の額なんですよね? 1年経った今では仕事の内容にふさわしくない額ですな」

「ちょっと待て! 3ヶ月前に更新したばかりだぞ!」

「そうですか。では指名料として1.3倍にしましょう。他でもない世界トップレベルのテイマーからのアドバイスが受けられるんですから、安い買い物でしょ?」

「……足元を見やがって! 分かった! 指名料は払おう。その代わりしっかりやってくれなければギルドに遠慮なく通報するからな!」

 賃金交渉は無事……と言えばいいのだろうか? とにかく終わった。



「わかりました。では普段どんな接し方をしているのかお見せいただけますか?」

「え、ええ。じゃあこちらへ」

 マークがエスティの普段の猫との触れあい方を見たい。と申し出ると彼女の先導でエクムントとマークの2人は居間へと通された。



「フーーーー……」

 居間にはエスティの母親、それに飼っている黒猫がいたが、その猫は彼女の姿を見るやいきなり警戒態勢を取り、低い声でうなり声をあげる。

「ほーらトニちゃん! トニちゃん! 遊びましょ!」

 エスティはオモチャや鈴で黒猫のトニの気を引こうとする、だが……。

「シャーーーーッ!!」

 トニは全身の毛を逆立てて威嚇いかくする。



「ハァ。今日もダメか……トニが家に来てからというものずっとこうで、なぜか私にだけ懐かないのよ。いったい何が原因なんですか?」

「エスティ様、見させてもらいましたけどこんなんじゃ嫌われて当然ですよ」

「え……?」



【次回予告】

エスティのやったことを見て「それじゃ嫌われて当然」とダメ出しをするマーク。彼による授業が始まった。

第14話 「猫に嫌われる女 後編」
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