上 下
7 / 26

第7話 新たな知り合い

しおりを挟む
 国王からの依頼を無事成し遂げた翌日、エクムントはグラッドの工房を訪ねていた。

 中は暦の上では春になったばかりでまだ肌寒い日が続くというのに蒸し暑く、職人たちが汗を拭きながら熱い鉄をハンマーで叩く音がそこかしこで聞こえていて、

 活気のある所だというのが素人目で見ても分かる位だ。

 その鍛冶職人の中に混じって作業をしているドワーフの肩を叩き、話を始めた。



「お仕事中の所、失礼しますよグラッドさん」

「よぉお前さんは……たしかエクムントだったな! お前さんあの国王を説得してくれたようだな。

 急にガレッガ鉱山産の鉄鉱石を持ってきたのにはビックリしたがアイツもようやく鉄の事が分かったみたいで良かったよ」

 そこには初対面の際に見せた険しい表情はどこへやら。それとは正反対の終始穏やかな顔をしていた。

「ちょっと話したいことがあるんですがお時間はよろしいですかね?」

「ああ構わん。お前さんの頼みならいくらでも聞いてやるぞ」

 グラッドは汗を拭きながらエクムントと一緒に応接室へと向かった。



「……で、話というのはどういうものなんだ?」

「まぁ手続きとしては数分で終わるような内容なんですが、あなたの同意が必要な事なので今回声をおかけしました」

 そう言ってエクムントは持っていたみがき抜かれた石板のような魔導器具と、辞書のように分厚い本を取り出す。

「こいつは……何だ?」

「この石板みたいなものは契約した人と私が通話するために使う魔導器具で、この本は契約した人を呼び出すための召喚術が書き込まれた本です。

 単刀直入に言えばグラッドさん、あなたと契約を結びたいと思って今回まいりました」

 エクムントはそう説明する。



「ふーむ。通話に召喚ねぇ。お前さんと話ができるというのは別に構わんが、召喚っていうのが引っかかるな。俺は魔法に関してはド素人だからな」

「召喚する前に通話をしてあらかじめいつ呼び出すかは決めますし、された後も仕事が終われば自らの意思で召喚された場所に帰ることもできますから呼び出されたらそのまま。というわけではありませんのでご安心ください」

「なるほど、つまりはお前の人脈になれってわけか?」

「察していただいてありがたい限りです。要はそういう事です。

 契約さえしてくれれば私が持っている仕事や人脈の紹介なども致しますので、グラッドさんにとっても良い話だとは思うのですがいかがいたしましょうか? もちろん強制はしません」

「うーむ……」

 グラッドは腕を組み黙る。しばらくして……。



「よし分かった、契約しよう。他でもないお前さんの頼みだ。断るのも悪いからな」

「ありがとうございます。では……」

 エクムントは石板のような魔導器具を操作し、グラッドの前に出す。

「では石板に手を当ててください。それで契約は成立します」

「ん、分かった」

 グラッドは言われるがまま石板に手を当てる。石板が淡い白色の光を放った。



「では次に召喚術の契約ですね。この本にあなたの名前をサインして下さい」

 エクムントはそう言って本の既に何人かの名前が書かれたページを開き、それと同時に携帯型のペンと墨壺すみつぼを差し出す。グラッドは言われるがまま無骨な文字でサインをした。

「これで終わりか?」

「ええ終わりです。これであなたとはいつでも通話できるようになったし、召喚にも応じられるようになりました。時々話をしますのでその時はどうぞよろしくお願いしますね」

「ん、分かった。話はこれだけか?」

「ええ、これだけです。ご対応いただき本当にありがとうございます。では失礼します」

「お前さんは冒険者だからまた旅に出るのか? その年で大変だなぁ。まぁいい困ったらいつでも連絡よこしてくれよ、力になるからな」

 そう言って2人は別れた。



【次回予告】

王国に隣接するとある領主が治める地、そこでも事件は起きていた。解決のためエクムントが動き出す。

第8話 「緊急クエスト 息子の捜索 前編」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

パーティー追放された者同士で組んだら、全員魔剣士だったけど割と万能で強かった件

微炭酸
ファンタジー
勇者見習い職とされる“冒険者”をしていたハルトは、ある日突然パーティーを追放されてしまう。 そして同じくパーティーを追放されたマナツ、モミジ、ユキオの3人とパーティーを組む。 しかし、4人の職業は全員“魔剣士”であった。 前衛も後衛も中途半端で決して良い待遇を受けない魔剣士だけのパーティー。 皆からは笑われ、バカにされるが、いざ魔物と闘ってみるとパーティーボーナスによって前衛も後衛も規格外の強さになってしまい―― 偏った魔剣士パで成り上がりを目指す冒険ファンタジー! ※カクヨム様・なろう様でも投稿させていただいています。

外れスキル【転送】が最強だった件

名無し
ファンタジー
三十路になってようやくダンジョン入場試験に合格したケイス。 意気揚々と冒険者登録所に向かうが、そこで貰ったのは【転送】という外れスキル。 失意の中で故郷へ帰ろうとしていた彼のもとに、超有名ギルドのマスターが訪れる。 そこからケイスの人生は目覚ましく変わっていくのだった……。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。 【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】 地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。 同じ状況の少女と共に。 そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!? 怯える少女と睨みつける私。 オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。 だったら『勝手にする』から放っておいて! 同時公開 ☆カクヨム さん ✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉 タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。 そして番外編もはじめました。 相変わらず不定期です。 皆さんのおかげです。 本当にありがとうございます🙇💕 これからもよろしくお願いします。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

処理中です...