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激闘 ヴェルガノン帝国
第121話 帝都決戦 前編
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夏の暑さの中、マコト率いるハシバ国軍は3つあった関所を全て蹴散らし、帝都前まで迫っていた。
「閣下。帝都に不死者達が集結しています。その数、およそ9000。城にはこもらずに野戦を仕掛けてくる模様です。いかがいたしましょう?」
「9000……? 妙に少ないな。ハシバ国首都侵攻軍でさえ少なくても10000はいたと聞いてるぞ。それに、兵が少ないのに野戦だって?」
道中はもとより帝都に集結した軍勢ですら想定していた規模よりはるかに少ない敵の数。
いったい何をするのであろうか? そんな数で勝てると思っているのだろうか? 相手の勝算は何なんだろう? 謎だ。
「まぁいい。合戦の準備を進めてくれ」
「ハッ」
「……閣下、相手は何か普通でない事をしでかそうと思っているようです」
準備しろと伝えた兵士と入れ替わるようにエルフェンがマコトの元へとやってくる。彼はおぞましい何かを見たかのように冷や汗をだらだらと流している。
「エルフェン、何かあったか?」
「訓練を受けていない閣下のような人間には可視化できないのでわからないと思いますが、恐ろしいまでの密度の瘴気が帝都にあふれています。
下手に近寄ろうものなら並みの人間なら即死するほどの、今まで見たことも無いような凄まじい密度と量の、です」
「それだけの瘴気で何をしようというんだ?」
「……分かりません。ただ普通の事じゃないのは確かです」
「わかった。一応こっちでも気を付けることにするよ」
マコトはその怯えぶりからただ事ではないのを感じ取っていた。
「……そうか。まだ瘴気が足りない、か」
「はい。あと少し、あと少しあれば足りるのですが」
「ちょうどいい。ハシバ国の兵を殺して瘴気を回収せよ。私自ら出る。ティアラも出ろ。1人でも多くの兵を殺せ」
「ハッ!」
「皆の者、この戦が世界浄化のカギを握っている。各自一人でも多くの人間を殺して瘴気を帝都へと集めよ。以上だ」
皇帝デュークはそう言って配下に指示を出す。ここが踏ん張りどころだと部下に発破をかけた。
ヴェルガノン帝国軍は寡兵ではあるもののあえて野戦を仕掛けてくる。
「閣下! ヴェルガノン帝国は皇帝デュークが自ら兵を率いて来る模様です!」
「わかった。各員最大限の注意を払えと伝えてくれ」
「ハッ!」
死者の群れが進軍し、戦闘が始まる。聖別された弾丸に僧兵たちの光の魔法が次々と放たれ、死者の群れを削り取っていく。
その中に動きが並みの兵士と明らかに違う動きをする女がいた。
「あの女は……!」
アルバートは戦場でティアラを見た瞬間、彼の頭にあの日の出来事がよみがえる。彼の住む町にヴェルガノン帝国が侵攻してきた際、部隊を率いている女だった。
「あの女は絶対に逃がすな! 俺たちの手で仕留めるぞ!」
「アルバート、加勢するぜ!」
「アルバート、お前だけでは危険だ! 援護する!」
ミノタウロスのウラカン率いる部隊とエルフェン率いる弓兵隊が援護する。
「総員、指揮官の女を狙え! ……放て!」
エルフェン率いる弓兵隊が矢を放つ。ある程度ははじき返したが彼女の身体に何本もの矢が刺さり、そこから瘴気を打ち消す光の魔力が流し込まれる。
「くっ!」
既に死んだ身でただの刃物で身体を切り裂かれても痛みは無い。だがそこに光の魔力が流し込まれると浄化による苦痛を感じる。
次いでウラカン率いるミノタウロスの部隊が自慢の大型の獲物を抱えて斬り込んでくる!
ガギィン! と大きな音が戦場に響く。ティアラは筋骨隆々としたミノタウロスの大斧の一撃を剣で真正面から受け止めきった。
それとほぼ同時にアルバートが剣で彼女の腹を切り裂く。血こそ出ないがパックリとした大きな切り傷が刻まれる。が、それに一切ひるむことなく攻めの手は緩まない。
(やはりアンデッドは頭を狙わねば致命傷にならないか!)
ハシバ国軍はある程度不死者と戦い、彼ら独特の特徴を把握している。手か吹き飛び足がちぎれても止められず、頭や胸といった急所を叩かないと止めることはできない。
「総員構え、放て!」
再びエルフェンが矢を放つ。首なし騎士の足に4本、肩に2本の矢が刺さる。
それに続けとミノタウロスのウラカンが大斧をふるう。相手は飛び退くつもりだったが……
「!! 足が!」
先ほどの矢を食らって感覚が無くなりつつある足が自分の動きについていけなくなる。足が動かない! まごついていたため避けるはずだったミノタウロスの大斧で右腕が切断されてしまう。
「もらった!」
アルバートは機会を逃さない。剣を持つ腕をはね飛ばされて無防備な女の頭を持っていた剣で叩き斬った。いかにアンデッドと言えど、致命傷だ。
「!! デューク様……申し訳……あり……ませ……」
彼女はその場に倒れ込み、2度と動くことはなかった。
【次回予告】
ティアラを討って活気づくハシバ国軍。ついに総大将に肉薄する。
第122話 「帝都決戦 後編」
「閣下。帝都に不死者達が集結しています。その数、およそ9000。城にはこもらずに野戦を仕掛けてくる模様です。いかがいたしましょう?」
「9000……? 妙に少ないな。ハシバ国首都侵攻軍でさえ少なくても10000はいたと聞いてるぞ。それに、兵が少ないのに野戦だって?」
道中はもとより帝都に集結した軍勢ですら想定していた規模よりはるかに少ない敵の数。
いったい何をするのであろうか? そんな数で勝てると思っているのだろうか? 相手の勝算は何なんだろう? 謎だ。
「まぁいい。合戦の準備を進めてくれ」
「ハッ」
「……閣下、相手は何か普通でない事をしでかそうと思っているようです」
準備しろと伝えた兵士と入れ替わるようにエルフェンがマコトの元へとやってくる。彼はおぞましい何かを見たかのように冷や汗をだらだらと流している。
「エルフェン、何かあったか?」
「訓練を受けていない閣下のような人間には可視化できないのでわからないと思いますが、恐ろしいまでの密度の瘴気が帝都にあふれています。
下手に近寄ろうものなら並みの人間なら即死するほどの、今まで見たことも無いような凄まじい密度と量の、です」
「それだけの瘴気で何をしようというんだ?」
「……分かりません。ただ普通の事じゃないのは確かです」
「わかった。一応こっちでも気を付けることにするよ」
マコトはその怯えぶりからただ事ではないのを感じ取っていた。
「……そうか。まだ瘴気が足りない、か」
「はい。あと少し、あと少しあれば足りるのですが」
「ちょうどいい。ハシバ国の兵を殺して瘴気を回収せよ。私自ら出る。ティアラも出ろ。1人でも多くの兵を殺せ」
「ハッ!」
「皆の者、この戦が世界浄化のカギを握っている。各自一人でも多くの人間を殺して瘴気を帝都へと集めよ。以上だ」
皇帝デュークはそう言って配下に指示を出す。ここが踏ん張りどころだと部下に発破をかけた。
ヴェルガノン帝国軍は寡兵ではあるもののあえて野戦を仕掛けてくる。
「閣下! ヴェルガノン帝国は皇帝デュークが自ら兵を率いて来る模様です!」
「わかった。各員最大限の注意を払えと伝えてくれ」
「ハッ!」
死者の群れが進軍し、戦闘が始まる。聖別された弾丸に僧兵たちの光の魔法が次々と放たれ、死者の群れを削り取っていく。
その中に動きが並みの兵士と明らかに違う動きをする女がいた。
「あの女は……!」
アルバートは戦場でティアラを見た瞬間、彼の頭にあの日の出来事がよみがえる。彼の住む町にヴェルガノン帝国が侵攻してきた際、部隊を率いている女だった。
「あの女は絶対に逃がすな! 俺たちの手で仕留めるぞ!」
「アルバート、加勢するぜ!」
「アルバート、お前だけでは危険だ! 援護する!」
ミノタウロスのウラカン率いる部隊とエルフェン率いる弓兵隊が援護する。
「総員、指揮官の女を狙え! ……放て!」
エルフェン率いる弓兵隊が矢を放つ。ある程度ははじき返したが彼女の身体に何本もの矢が刺さり、そこから瘴気を打ち消す光の魔力が流し込まれる。
「くっ!」
既に死んだ身でただの刃物で身体を切り裂かれても痛みは無い。だがそこに光の魔力が流し込まれると浄化による苦痛を感じる。
次いでウラカン率いるミノタウロスの部隊が自慢の大型の獲物を抱えて斬り込んでくる!
ガギィン! と大きな音が戦場に響く。ティアラは筋骨隆々としたミノタウロスの大斧の一撃を剣で真正面から受け止めきった。
それとほぼ同時にアルバートが剣で彼女の腹を切り裂く。血こそ出ないがパックリとした大きな切り傷が刻まれる。が、それに一切ひるむことなく攻めの手は緩まない。
(やはりアンデッドは頭を狙わねば致命傷にならないか!)
ハシバ国軍はある程度不死者と戦い、彼ら独特の特徴を把握している。手か吹き飛び足がちぎれても止められず、頭や胸といった急所を叩かないと止めることはできない。
「総員構え、放て!」
再びエルフェンが矢を放つ。首なし騎士の足に4本、肩に2本の矢が刺さる。
それに続けとミノタウロスのウラカンが大斧をふるう。相手は飛び退くつもりだったが……
「!! 足が!」
先ほどの矢を食らって感覚が無くなりつつある足が自分の動きについていけなくなる。足が動かない! まごついていたため避けるはずだったミノタウロスの大斧で右腕が切断されてしまう。
「もらった!」
アルバートは機会を逃さない。剣を持つ腕をはね飛ばされて無防備な女の頭を持っていた剣で叩き斬った。いかにアンデッドと言えど、致命傷だ。
「!! デューク様……申し訳……あり……ませ……」
彼女はその場に倒れ込み、2度と動くことはなかった。
【次回予告】
ティアラを討って活気づくハシバ国軍。ついに総大将に肉薄する。
第122話 「帝都決戦 後編」
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