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領土平定
第105話 ヴァジュラ 試乗
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冬の寒さも緩み春の訪れを感じられるようになった頃、マコトはギズモ率いるエンジニアたちの工房へと向かう。
工房から「ヴァジュラの車体が出来上がって試運転してはいかがか?」という連絡を聞いてやってきたのだ。
「システィアーノさん、車体部分はできたと聞いたが?」
「おお、マコトか。うむ。動かせるまでには出来上がっておるぞ」
マコトはこの世界の技術で地球の戦車を可能な限り再現した兵器であるヴァジュラをみる。
まだ砲身はついてないものの、乗って動かせる程度には出来上がっていた。
マコトはそれに乗り込むと運転席は地球でいう自動車に似たような機構をしており、ハンドルに前進後退のレバー、それにアクセルとブレーキというシンプルな構造だった。
ギアはこの世界では再現するのに複雑な機構だったのか、無かった。
「よ、よし。ヴァジュラ、起動!」
マコトは運転席に座って少し緊張しながらヴァジュラを起動し、動かしてみる。
さすがに地球の乗用車に比べれば視界は狭いが運転するにはまぁ大丈夫な程度には確保されている。
幸い、彼は車の運転経験があったので多少危なっかしいものの初めてにしてはだいぶ慣れた運転だった。
「ほほお。マコト、初めてにしてはだいぶ慣れた動きよのぉ。もしかして地球とやらで経験ありなのかえ?」
「まぁな。似たような乗り物の操縦やってた経験はあるからな」
「ほう、そうか。通りでうまいわけじゃな」
同乗していたシスティアーノにそう返す。操縦の感覚は地球の車にだいぶ近かった。
違いといえばハンドルを切っている間は「方向転換」で前進も後退もしない。というのはネックだがすぐに慣れるだろうと思える程度だった。
街中を我が物顔で走るヴァジュラを国民たちは物珍しそうに見ている。時々車体の上から顔を出し国民たちに手を振るサービスも見せていた。
1時間ほど経って、マコトたちは試乗を終えて工房へと帰ってきた。
「きちんと動くようになってるんだな。後は砲をつければ完成ってところか?」
「うむ。最後の詰めの段階じゃの。抜かりはせぬから安心してまっておれ」
システィアーノからの報告を聞いたあと、マコトは改めて工房を眺めるがそこに製造中だと思われる車輪のついた砲のようなものを見つけた。
「ところで、これはいったい?」
「うむ。それは『ヴァジュラヘッド』とわらわが名付けたものじゃ」
「ヴァジュラの頭部だから『ヴァジュラヘッド』か、そのまんまだな。使えるのか?」
「いかんせんヴァジュラの開発製造に時間も材料も手間もかかってるからあまり進んではおらぬが、ヴァジュラの主砲と同じ威力があるぞ。砲の構造も使う砲弾も同じじゃからの」
彼女がヴァジュラヘッドと名付けたそれは、システィアーノの技術があったからこそ可能になったヴァジュラの簡略版で、この世界初の「自走砲」と言える代物だ。
砲身はヴァジュラの物と同じものを使い、砲弾は共通規格の元使いまわしも可能だ。
「ヴァジュラだけでは力不足なのか?」
「あの設計図にはヴァジュラ1台で理論上は『渇き』に勝てるとは書いてあったが万一という事もある。じゃから予備として、な。戦力は多くて損することなどないじゃろ?」
「そりゃそうだけど。まぁそっちも仕上げてくれ。頼んだぞ。あと、完成したら操縦訓練もするからスケジュールの調整もしておいてくれ」
「うむ。わかった」
10年後から来たマコトが遺した資料によると『渇き』とは巨大なドラゴンらしい。
RPGでは主人公である勇者たちがゴテゴテした飾りのついた剣でバッサバッサ斬ってるけど、本当に人間が倒そうとしたら戦車でも持ち出さない限り倒せないだろう。
今のマコトには守るべき国民、妻、子供たちがいる。そのためにも戦うことになったら絶対に倒さなければと思った。
【次回予告】
マコトが西大陸南部をほぼ掌握したことで、彼らは食い扶持を失っていた。
第106話 「奴隷商人の末路」
工房から「ヴァジュラの車体が出来上がって試運転してはいかがか?」という連絡を聞いてやってきたのだ。
「システィアーノさん、車体部分はできたと聞いたが?」
「おお、マコトか。うむ。動かせるまでには出来上がっておるぞ」
マコトはこの世界の技術で地球の戦車を可能な限り再現した兵器であるヴァジュラをみる。
まだ砲身はついてないものの、乗って動かせる程度には出来上がっていた。
マコトはそれに乗り込むと運転席は地球でいう自動車に似たような機構をしており、ハンドルに前進後退のレバー、それにアクセルとブレーキというシンプルな構造だった。
ギアはこの世界では再現するのに複雑な機構だったのか、無かった。
「よ、よし。ヴァジュラ、起動!」
マコトは運転席に座って少し緊張しながらヴァジュラを起動し、動かしてみる。
さすがに地球の乗用車に比べれば視界は狭いが運転するにはまぁ大丈夫な程度には確保されている。
幸い、彼は車の運転経験があったので多少危なっかしいものの初めてにしてはだいぶ慣れた運転だった。
「ほほお。マコト、初めてにしてはだいぶ慣れた動きよのぉ。もしかして地球とやらで経験ありなのかえ?」
「まぁな。似たような乗り物の操縦やってた経験はあるからな」
「ほう、そうか。通りでうまいわけじゃな」
同乗していたシスティアーノにそう返す。操縦の感覚は地球の車にだいぶ近かった。
違いといえばハンドルを切っている間は「方向転換」で前進も後退もしない。というのはネックだがすぐに慣れるだろうと思える程度だった。
街中を我が物顔で走るヴァジュラを国民たちは物珍しそうに見ている。時々車体の上から顔を出し国民たちに手を振るサービスも見せていた。
1時間ほど経って、マコトたちは試乗を終えて工房へと帰ってきた。
「きちんと動くようになってるんだな。後は砲をつければ完成ってところか?」
「うむ。最後の詰めの段階じゃの。抜かりはせぬから安心してまっておれ」
システィアーノからの報告を聞いたあと、マコトは改めて工房を眺めるがそこに製造中だと思われる車輪のついた砲のようなものを見つけた。
「ところで、これはいったい?」
「うむ。それは『ヴァジュラヘッド』とわらわが名付けたものじゃ」
「ヴァジュラの頭部だから『ヴァジュラヘッド』か、そのまんまだな。使えるのか?」
「いかんせんヴァジュラの開発製造に時間も材料も手間もかかってるからあまり進んではおらぬが、ヴァジュラの主砲と同じ威力があるぞ。砲の構造も使う砲弾も同じじゃからの」
彼女がヴァジュラヘッドと名付けたそれは、システィアーノの技術があったからこそ可能になったヴァジュラの簡略版で、この世界初の「自走砲」と言える代物だ。
砲身はヴァジュラの物と同じものを使い、砲弾は共通規格の元使いまわしも可能だ。
「ヴァジュラだけでは力不足なのか?」
「あの設計図にはヴァジュラ1台で理論上は『渇き』に勝てるとは書いてあったが万一という事もある。じゃから予備として、な。戦力は多くて損することなどないじゃろ?」
「そりゃそうだけど。まぁそっちも仕上げてくれ。頼んだぞ。あと、完成したら操縦訓練もするからスケジュールの調整もしておいてくれ」
「うむ。わかった」
10年後から来たマコトが遺した資料によると『渇き』とは巨大なドラゴンらしい。
RPGでは主人公である勇者たちがゴテゴテした飾りのついた剣でバッサバッサ斬ってるけど、本当に人間が倒そうとしたら戦車でも持ち出さない限り倒せないだろう。
今のマコトには守るべき国民、妻、子供たちがいる。そのためにも戦うことになったら絶対に倒さなければと思った。
【次回予告】
マコトが西大陸南部をほぼ掌握したことで、彼らは食い扶持を失っていた。
第106話 「奴隷商人の末路」
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