95 / 127
領土平定
第95話 公務再開
しおりを挟む
「さて、やるか」
マコトは執務室にこもって書類の山と格闘する。
始まりの島での1週間の滞在、さらに船での移動に往復で8日程度。
丸々半月の休みを取ってリフレッシュし、無事にハシバ国まで戻ってきたのは良いが、その分王の判断でなくては処理できない仕事が溜まっていた。
だいぶ昔にディオールに宰相の地位を与え(代わりに戦場からは完全に引退させた)、
特に優秀な部下たちに王の権限の一部を与え、王であるマコトがいなくてもある程度は国が回るよう設計はしていたが、
それでも国王の判断でなければならない書類は山のようにあった。
(ふーむ……銀行からの融資案件が多いな)
マコトの国、ハシバ国は西大陸南部の統一支配が現実的に見えてくるくらい大きな国になった。
そうなると銀行が「優良な投資相手」と思うようになり、今までは「カネを貸してくれ」とマコトが頼む側だったが、ついには「カネを借りてくれ」と銀行側から頼まれるようにまでなった。
無論、マコトも国益のために借りてはいるが、もし万が一のことがあっても返済できるように2重3重の対策は取っており、それ以上の融資は断っている。
(ん?)
そんな中気になる案件を見つけた。グレムリンの技術士であるギズモからだ。それによると、
「ヒヒイロカネの試作が完了したけど、言われていた兵器を作るには今までの炉よりも火のマナを使った炉を新たに作ったほうが結果的に安く済むし、兵器の製作後も使えるから得なので建設許可と融資が欲しい」のだという。
(ふーむ……いいだろう。許可を出すか)
「ちょうどいい、アズール。手が空いてるならギズモたちに火のマナ炉の製作を許可すると伝えてくれないか? 前金も渡すから持って行ってくれ」
「ハッ。承知いたしました」
彼は前金としてマコトが振り出した小切手を持ってエンジニアたちの工房へと向かっていった。
(後は……神学校の増築か、間に合わないかもしれないが許可しよう)
「十分な数の僧兵を確保できなかった」
10年後の未来からやってきた47歳のマコトがヴェルガノン帝国と戦い、悔いたことの1つだ。
そのためヴェルガノン帝国の侵攻に備え、1人でも僧兵として戦力を確保しようと3年前に神学校を設立、開校していた。
3年間で1人前の僧侶を輩出するという一般的な訓練期間の学校で、今年の3月末に1期生が卒業する見込みのこの学校は、
西大陸でも有数の実力のある僧侶を講師をとして招いて教育を施してもらっている上に学費も大陸で最も安いものとなっている。
その分経営的には大赤字を垂れ流すのだが、ヴェルガノン帝国との戦力が確保できるのなら安い投資だ。
(他には……そうだ。あいつらを騎士にでもするか)
あとはミノタウロスの傭兵部隊、とは言え実質的にはハシバ国軍の軍隊と化している彼らを騎士にすることにした。
ウラカン達ミノタウロスはかつて勘違いとはいえハシバ国を攻め落とす1歩手前まで追い込んだ相手である。
それを今までは損害が出たからその補填として働かせていた(もちろんきちんと雇用契約を結んだうえで互いに納得がいく額の給料は出していたが)のだが、度重なる戦争でもう十分と言える位には戦果をあげてくれていた。
彼らをねぎらう意味でも、騎士として召し抱えてもいいだろう。そう思ったのだ。
夕刻になり……書類の山の半分は片付いた。まぁ上々だろう。
「あなた」
執務室にメリルがやってくる。
「もうすぐ夕飯できるから」
「わかった。もうそんな時間になるのか。じゃあ一緒に……あたた、こ、腰が」
イスに座りっぱなしだったせいか腰が痛みを訴える。歩けば楽になるだろうとそれを無視して2人で廊下を歩き、居間へと向かう。
「お前と結婚してもう3~4年がたつのか。結婚したての時はもっと小さかったのにずいぶん背も髪も伸びたな」
「そうね。今年で私は16になるのよ。それくらいたてば成長するわよ。さすがにもう子供じゃないからね」
「ああそうだな。お前が今年で16ってことは俺はもう40、今年で41か。不惑からは程遠いや。迷ってばっかりだな」
「『ふわく』って何?」
問うメリルにマコトは滑らかに返す。
「学び続ければ40歳になれば迷うことがなくなる。っていう地球の言葉さ。そこから40になるのを不惑って言うんだ」
「ふ~ん。いろいろ知ってるのね」
「まぁお前よりは長生きしてるのは無駄じゃないからな」
マコトは地球にいるころから「無駄に年を取ること」だけはしないよう心がけていた。職場の上司を反面教師にしているのだ。
今のところは人を束ねる者として、その上司よりは知識でも実力でもまともな人間にはなっているだろうとは思っていた。
「ところで、今日の晩飯はなんだ?」
「トマトソースが安く手に入ったからピザでも焼いてみたの。結構上手くできたから安心して良いよ」
「そうか。そいつは楽しみだな」
25歳差の夫婦は仲睦まじく夕日の射す廊下を歩いていた。
【次回予告】
戦もひと段落して平和な日常が続いていた。
第96話 「一家団欒」
マコトは執務室にこもって書類の山と格闘する。
始まりの島での1週間の滞在、さらに船での移動に往復で8日程度。
丸々半月の休みを取ってリフレッシュし、無事にハシバ国まで戻ってきたのは良いが、その分王の判断でなくては処理できない仕事が溜まっていた。
だいぶ昔にディオールに宰相の地位を与え(代わりに戦場からは完全に引退させた)、
特に優秀な部下たちに王の権限の一部を与え、王であるマコトがいなくてもある程度は国が回るよう設計はしていたが、
それでも国王の判断でなければならない書類は山のようにあった。
(ふーむ……銀行からの融資案件が多いな)
マコトの国、ハシバ国は西大陸南部の統一支配が現実的に見えてくるくらい大きな国になった。
そうなると銀行が「優良な投資相手」と思うようになり、今までは「カネを貸してくれ」とマコトが頼む側だったが、ついには「カネを借りてくれ」と銀行側から頼まれるようにまでなった。
無論、マコトも国益のために借りてはいるが、もし万が一のことがあっても返済できるように2重3重の対策は取っており、それ以上の融資は断っている。
(ん?)
そんな中気になる案件を見つけた。グレムリンの技術士であるギズモからだ。それによると、
「ヒヒイロカネの試作が完了したけど、言われていた兵器を作るには今までの炉よりも火のマナを使った炉を新たに作ったほうが結果的に安く済むし、兵器の製作後も使えるから得なので建設許可と融資が欲しい」のだという。
(ふーむ……いいだろう。許可を出すか)
「ちょうどいい、アズール。手が空いてるならギズモたちに火のマナ炉の製作を許可すると伝えてくれないか? 前金も渡すから持って行ってくれ」
「ハッ。承知いたしました」
彼は前金としてマコトが振り出した小切手を持ってエンジニアたちの工房へと向かっていった。
(後は……神学校の増築か、間に合わないかもしれないが許可しよう)
「十分な数の僧兵を確保できなかった」
10年後の未来からやってきた47歳のマコトがヴェルガノン帝国と戦い、悔いたことの1つだ。
そのためヴェルガノン帝国の侵攻に備え、1人でも僧兵として戦力を確保しようと3年前に神学校を設立、開校していた。
3年間で1人前の僧侶を輩出するという一般的な訓練期間の学校で、今年の3月末に1期生が卒業する見込みのこの学校は、
西大陸でも有数の実力のある僧侶を講師をとして招いて教育を施してもらっている上に学費も大陸で最も安いものとなっている。
その分経営的には大赤字を垂れ流すのだが、ヴェルガノン帝国との戦力が確保できるのなら安い投資だ。
(他には……そうだ。あいつらを騎士にでもするか)
あとはミノタウロスの傭兵部隊、とは言え実質的にはハシバ国軍の軍隊と化している彼らを騎士にすることにした。
ウラカン達ミノタウロスはかつて勘違いとはいえハシバ国を攻め落とす1歩手前まで追い込んだ相手である。
それを今までは損害が出たからその補填として働かせていた(もちろんきちんと雇用契約を結んだうえで互いに納得がいく額の給料は出していたが)のだが、度重なる戦争でもう十分と言える位には戦果をあげてくれていた。
彼らをねぎらう意味でも、騎士として召し抱えてもいいだろう。そう思ったのだ。
夕刻になり……書類の山の半分は片付いた。まぁ上々だろう。
「あなた」
執務室にメリルがやってくる。
「もうすぐ夕飯できるから」
「わかった。もうそんな時間になるのか。じゃあ一緒に……あたた、こ、腰が」
イスに座りっぱなしだったせいか腰が痛みを訴える。歩けば楽になるだろうとそれを無視して2人で廊下を歩き、居間へと向かう。
「お前と結婚してもう3~4年がたつのか。結婚したての時はもっと小さかったのにずいぶん背も髪も伸びたな」
「そうね。今年で私は16になるのよ。それくらいたてば成長するわよ。さすがにもう子供じゃないからね」
「ああそうだな。お前が今年で16ってことは俺はもう40、今年で41か。不惑からは程遠いや。迷ってばっかりだな」
「『ふわく』って何?」
問うメリルにマコトは滑らかに返す。
「学び続ければ40歳になれば迷うことがなくなる。っていう地球の言葉さ。そこから40になるのを不惑って言うんだ」
「ふ~ん。いろいろ知ってるのね」
「まぁお前よりは長生きしてるのは無駄じゃないからな」
マコトは地球にいるころから「無駄に年を取ること」だけはしないよう心がけていた。職場の上司を反面教師にしているのだ。
今のところは人を束ねる者として、その上司よりは知識でも実力でもまともな人間にはなっているだろうとは思っていた。
「ところで、今日の晩飯はなんだ?」
「トマトソースが安く手に入ったからピザでも焼いてみたの。結構上手くできたから安心して良いよ」
「そうか。そいつは楽しみだな」
25歳差の夫婦は仲睦まじく夕日の射す廊下を歩いていた。
【次回予告】
戦もひと段落して平和な日常が続いていた。
第96話 「一家団欒」
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる