人魔共和国建国記

あがつま ゆい

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オレイカルコス連合制圧戦

第87話 悪夢 現実に

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「……そうか。侵攻作戦は失敗に終わったか」
「すいませんでした、カシラ。言い訳にしか聞こえないでしょうが、あいつら魔法を使ってきてます。そいつにしてやられました」
「なるほど、魔法か。だっだらあれの出番だな。例の奴を使うからあるだけ配備してくれ」
「ハッ!」
「カシラ、何か秘策でもあるんですか?」
「まだまだ数は少ないが新たな銃を開発して配備しているところだ。あれなら魔法が相手でも突破できるだろう。今度の戦はそれの華々しいデビュー戦というやつだな」

 オレイカルコス連合盟主、スティーブはそう言ってにやりと笑う。そこに相手に対する恐怖心は一切なかった。



 ハシバ国では軍会議が行われていた。内容は……。

「カウンターですか」
「ああそうだ。相手の野戦で負わせた傷が癒えないうちに反撃して攻め落とす。元々夏に出兵するつもりだったから物資の供給は大丈夫なはずだ」

 国土防衛戦で勝利したのを契機に逆に攻め込む、というものだ。防衛戦で一度勝利している相手なら士気も高めだ。

「私たちはそれでもかまいませんが」
「分かった。じゃあなるべく早く手配するから準備よろしくな」

 こうして、マコトは3100の兵を率いてオレイカルコス連合の首都を占領する前段階として、その入り口にあたる地域を占領するために出兵した。



「閣下! 総員、配置につきました!」
「分かった、王が命ず! 我が家臣たちよ! 敵におびえることなく戦え!」

 マコトは神霊石の力を開放し、王の勅命を下す。

「全軍前進! 攻撃を開始せよ!」

 前の戦と同じように竹束、それに銃弾対策のため竹を貼り付けた攻城塔に身を隠しつつ前進する。ドワーフたちが弾を撃ったのを見て兵士たちが飛び出し、襲い掛かる。だが……

「何だあいつら。弾を撃ったのに銃を立ててないぞ?」

 一部のドワーフ、特に城壁の門の上を守るドワーフたちは、弾を撃ったのになぜか銃を立てずに何かしらの作業をしている。
 それを見た直後、発砲してからほんの数秒しか経たずに次弾が放たれる。先込め式の銃からは考えられない早さだ。

「!? 馬鹿な! 早すぎる!」

 一息つく間もなく銃弾が何発もジャック・オー・ランタンたちのシールドに着弾する。
 もともと銃弾の1発2発程度ではビクともしないし、傷ついても発射間隔に間があったからその間に修復できていたのだが、
 何発も絶え間なく食らうことでヒビが入り、それがどんどん大きくなっていく。

「や、やべぇ! 破られる!」

 やがて、バリン! と音を立ててシールドが破れ、脳天に弾丸が着弾しジャック・オー・ランタンの魔術師たちは次々と倒されていく。

「大丈夫だ! 数では勝ってる! 押せ! 押せ!」

 怯え気味の味方に向かってウラカンが叫んで発破をかける。そんな彼に弾丸が腕に合計2発着弾する。

「ぐっ!? ……この程度か! 突き進め!」

 銃弾を食らったのに痛そうなそぶりを見せない点はさすがだ。



 戦闘開始してからしばらく経ち……

「ゲホッ、ゴホッ。煙がひでえな」

 城壁を守るドワーフの守備隊が煙に包まれ、視界がさえぎられる。辺りに濃い霧でもかかったように周りが見えない。
 黒色火薬の難点は煙である。特に銃の大量運用や大砲なんかを使うと大量の煙が戦場に漂い、手旗信号などの視覚に頼る指揮の伝達や、敵の目視が困難になってしまう。
 新型の銃は飛躍的な連射力を持ってはいたが、それと引き換えに大量の煙を出す欠点も持っていた。

「位置を交代しろ! 1隊と2隊の位置を入れ替えろ!」

 ドラが1回、間をおいて2回鳴らされる。それを合図にドワーフたちが位置を変更する。
 マコトの軍はドラの音を聞いて守備隊が移動中なのを悟り、一気に攻勢を仕掛ける! 攻城塔やハシゴから兵士たちが我先にと殺到する。

「叩いて潰せぇ!」
「ブモ゛オ゛オ゛オ゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!」

 先陣を切るのはミノタウロスらの傭兵部隊。鋼のような筋肉は銃弾の1発や2発では止まらない。
 それに続いて兵士たちが城壁の上へ部隊を展開し、乱戦に持ち込む。



 銃の難点は小回りが利かないことである。乱戦になってしまうと誤射の危険性が高くなるからだ。
 それに、一応は銃剣を装着すれば接近戦もこなせるがそれでも槍のように使うため、乱戦になると取り回しのきく剣などに比べると有用性は落ちる。
 銃は一度ふところに入られると弱い。マコトの軍が一気に食らいつき、反撃に出る。

「今逃したらチャンスはもうないぞ! 押せ! 一気に押すんだ!」

 アレックスが勇敢に敵陣の懐に切り込み、押していく。それに勇気づけられたのか他の兵士たちも彼に続く。

「門を押さえろ! 門を開ければ俺たちの勝ちだ! ひるむんじゃねえぞ! 続け!」

 オーガのナタルが大声で仲間に発破をかけ突撃する。
 やがて門が制圧され、この戦はマコトの勝利で終わった。



 マコトはドワーフの死体が持っていた銃を見て、顔が一気に青ざめる。

「クソッ! 元込め銃だ! 一部とはいえ実戦配備されていたとは!」

 マコトの悪夢が現実になる。
 そろそろ収穫の時期だから兵を引き上げて農作業にあてなくてはならない。相手はその間に銃の配備は進むだろう。
 しかも奴隷商人ギルドから潤沢じゅんたくな資金が注入されているとなると、今以上の苦戦は免れない。

 戦力差で無理やり勝利したが、犠牲は大きかった。
 後の世にこの戦いでは敵味方双方合わせて1800を超える死傷者が出て、オレイカルコス連合との戦いでも特に犠牲の大きな戦として語り継がれるものとなったという。



【次回予告】
今後に向けて大きな課題は残る。
が、今は平和な時をかみしめよう。

第88話 「つかの間の休息」
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