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ハシバ国包囲網攻略戦
第69話 盗賊アズール
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「へー。地方領主の3男坊か」
「はい。統治について一通り学んでおりますし、一時的ではありましたが父や兄と共に実家で実践もしていました」
「へー、そうかいそうかい。実務経験あり、と。んじゃあいくつか聞きたいことがあるけど答えてくれねえか?」
この日ジェイクが面接官となって文官として働きたい希望者と面接をしていた。
日に日に勢力を拡大するハシバ国だが国を直接支える文官や武官はもちろんのこと、その他人材は常に不足していた。
ビラをまき、ラタトスクの情報ネットワークをフルに活用しても、である。
そんなある秋の早朝、見知らぬ人間の男が警備のスキを突いて宝物庫に押し入っていた。
(いい子にしてろよぉ……カワイ子ちゃん)
金庫からカチッという音がした。金庫破り達成の瞬間だ。男は中身をくすねるとご丁寧に金庫を閉じて足早に去っていく。
「1万ゴールド金貨12枚か。まずまずだな」
今回の成果を持って満足げにつぶやく彼だったが、手を叩く音がしたので振り返る。そこには初老に近い男が立っていた。
「見張りの一瞬のスキを突き、早朝から堂々と宝物庫に押し入り盗み去る、まことに鮮やかな手口ですな。正直な話、お見事。と言っておきます。
ところで、いつまで盗みを続けるつもりですかな?」
「……何が言いたい?」
賊はディオールをにらみつける。が、それを全く気にしない様子で彼は涼しい顔をしながら語りかけてくる。
「今手に入れた財宝も、いづれは食いつぶして無くなってしまう。すると新たな盗みをしなくてはいけなくなる。その生活をいつまで続けるつもりですかな?」
「しょうがねえだろ。俺の取り柄はこれだけだ。食ってくためにはこうやるしかないんだ」
「では、我々に仕えるつもりはないですかね? 内偵などのあまり表だったことではありませんが、仕事を紹介いたしましょう。あなたのような人が適材な仕事というのは結構多いんですよ?」
「オイオイ、オレは国の宝物庫に押し入る賊だぜ? とっ捕まえてさらし首にするのが普通じゃねえのか?」
「まぁそれでも構わないのですが……奪う事に慣れてない人をそんな目に遭わすのも酷かと思いまして」
「!!」
見慣れた男と見慣れない男に気付いたのか見張りをしてた兵士たちが近づいてくる。
「考える時間を差し上げましょう。良く考えてからのご返答、お待ちしております。さぁ行きなさい。行かないと私はあなたを捕まえなくてはいけなくなります」
賊は言われるがまま、城を後にした。
(奪う事に慣れてない人をそんな目に遭わすのも酷かと思いまして)
そうだ。俺は裏方だったが真っ当な仕事に就いてた。でも戦争で吹き飛ばされてしまった。
(今手に入れた財宝も、食いつぶして無くなってしまう。すると新たな盗みをしなくてはいけなくなる。その生活をいつまで続けるつもりですかな?)
こんな生活いつまで続けられるんだろう。
(……いつまで盗みを続けるつもりですかな?)
そうだ。いつまでこんなことやってくすぶってるつもりなんだ? 俺は?
その日の昼……盗んだ財宝を持って彼はやって来た。
「な、なぁじいさん、あの時言った話は本当か? 本当に俺なんかを雇ってくれるのか?」
「ええ。あなたにその気があればの話ですが。もちろん閣下に忠誠を誓う必要はありますけどね」
「……わかった。それでいい。それと、こいつは返す。言っとくが1ゴールドたりとも手は付けてねえぞ」
「盗んだ財宝、ご丁寧にも返してくれるんですね。まぁあなたならそうすると思ってましたが。後で適当な理由をつけておきますよ」
ディオールはそう言いながら自分の君主の元へと彼を連れていく。
「閣下、ご相談したい事があります」
「何だディオール、そいつは知り合いか?」
「まぁ顔は知ってる程度ですがね。閣下、彼を配下に加えてはいかがでしょうか? 潜入捜査に長けているので内偵として活躍できるでしょう」
「潜入捜査? うーん……良いだろう。内偵は欲しいしディオールの目利きで選んだって言うのなら変な奴じゃあなさそうだしな。じゃあ配下になるため忠誠を誓ってもらおうか?」
マコトは彼に向かってスマホを突きだす。
「ああわかった。俺はアズール。闇の中で生きてきた俺に光を差し伸べた事に感謝する。その恩には生涯に渡る忠誠で応えよう!」
彼の胸から青い光が飛び出し、スマホの中に入っていく。ハシバ国に新たな仲間が加わった瞬間であった。
【次回予告】
グレムリンのギズモ率いる技術者集団。
彼らは国の工業力を高めるある計画を持ってマコトの元を訪ねた。
第70話 「水車誕生」
「はい。統治について一通り学んでおりますし、一時的ではありましたが父や兄と共に実家で実践もしていました」
「へー、そうかいそうかい。実務経験あり、と。んじゃあいくつか聞きたいことがあるけど答えてくれねえか?」
この日ジェイクが面接官となって文官として働きたい希望者と面接をしていた。
日に日に勢力を拡大するハシバ国だが国を直接支える文官や武官はもちろんのこと、その他人材は常に不足していた。
ビラをまき、ラタトスクの情報ネットワークをフルに活用しても、である。
そんなある秋の早朝、見知らぬ人間の男が警備のスキを突いて宝物庫に押し入っていた。
(いい子にしてろよぉ……カワイ子ちゃん)
金庫からカチッという音がした。金庫破り達成の瞬間だ。男は中身をくすねるとご丁寧に金庫を閉じて足早に去っていく。
「1万ゴールド金貨12枚か。まずまずだな」
今回の成果を持って満足げにつぶやく彼だったが、手を叩く音がしたので振り返る。そこには初老に近い男が立っていた。
「見張りの一瞬のスキを突き、早朝から堂々と宝物庫に押し入り盗み去る、まことに鮮やかな手口ですな。正直な話、お見事。と言っておきます。
ところで、いつまで盗みを続けるつもりですかな?」
「……何が言いたい?」
賊はディオールをにらみつける。が、それを全く気にしない様子で彼は涼しい顔をしながら語りかけてくる。
「今手に入れた財宝も、いづれは食いつぶして無くなってしまう。すると新たな盗みをしなくてはいけなくなる。その生活をいつまで続けるつもりですかな?」
「しょうがねえだろ。俺の取り柄はこれだけだ。食ってくためにはこうやるしかないんだ」
「では、我々に仕えるつもりはないですかね? 内偵などのあまり表だったことではありませんが、仕事を紹介いたしましょう。あなたのような人が適材な仕事というのは結構多いんですよ?」
「オイオイ、オレは国の宝物庫に押し入る賊だぜ? とっ捕まえてさらし首にするのが普通じゃねえのか?」
「まぁそれでも構わないのですが……奪う事に慣れてない人をそんな目に遭わすのも酷かと思いまして」
「!!」
見慣れた男と見慣れない男に気付いたのか見張りをしてた兵士たちが近づいてくる。
「考える時間を差し上げましょう。良く考えてからのご返答、お待ちしております。さぁ行きなさい。行かないと私はあなたを捕まえなくてはいけなくなります」
賊は言われるがまま、城を後にした。
(奪う事に慣れてない人をそんな目に遭わすのも酷かと思いまして)
そうだ。俺は裏方だったが真っ当な仕事に就いてた。でも戦争で吹き飛ばされてしまった。
(今手に入れた財宝も、食いつぶして無くなってしまう。すると新たな盗みをしなくてはいけなくなる。その生活をいつまで続けるつもりですかな?)
こんな生活いつまで続けられるんだろう。
(……いつまで盗みを続けるつもりですかな?)
そうだ。いつまでこんなことやってくすぶってるつもりなんだ? 俺は?
その日の昼……盗んだ財宝を持って彼はやって来た。
「な、なぁじいさん、あの時言った話は本当か? 本当に俺なんかを雇ってくれるのか?」
「ええ。あなたにその気があればの話ですが。もちろん閣下に忠誠を誓う必要はありますけどね」
「……わかった。それでいい。それと、こいつは返す。言っとくが1ゴールドたりとも手は付けてねえぞ」
「盗んだ財宝、ご丁寧にも返してくれるんですね。まぁあなたならそうすると思ってましたが。後で適当な理由をつけておきますよ」
ディオールはそう言いながら自分の君主の元へと彼を連れていく。
「閣下、ご相談したい事があります」
「何だディオール、そいつは知り合いか?」
「まぁ顔は知ってる程度ですがね。閣下、彼を配下に加えてはいかがでしょうか? 潜入捜査に長けているので内偵として活躍できるでしょう」
「潜入捜査? うーん……良いだろう。内偵は欲しいしディオールの目利きで選んだって言うのなら変な奴じゃあなさそうだしな。じゃあ配下になるため忠誠を誓ってもらおうか?」
マコトは彼に向かってスマホを突きだす。
「ああわかった。俺はアズール。闇の中で生きてきた俺に光を差し伸べた事に感謝する。その恩には生涯に渡る忠誠で応えよう!」
彼の胸から青い光が飛び出し、スマホの中に入っていく。ハシバ国に新たな仲間が加わった瞬間であった。
【次回予告】
グレムリンのギズモ率いる技術者集団。
彼らは国の工業力を高めるある計画を持ってマコトの元を訪ねた。
第70話 「水車誕生」
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