63 / 127
富国強兵
第63話 種族間対立の火消し
しおりを挟む
「閣下、種族間による対立により足並みに乱れが生じています。親睦会でも開いたらいかがでしょうか?」
「親睦会? やめとけやめとけ。どうせ溝が余計に深くなるだけだ」
「ではこの事態に黙って指をくわえていろ、とでもいうのですか?」
「そのつもりもない。お触れを出してくれないか? 内容は……」
数日後、マコトの名で「種族間対立に関する王の意見」というお触れが出された。
内容はこうだ。
「我が国における種族間対立に関してだが、結論から言えば無理して仲良くなる必要はない。嫌いなら嫌いなままでいていい。
ただし嫌いだからと言って暴力をふるうのは止めてほしい」
最初から「無理して仲良くする必要はない」と述べたお触れはこう続く。
「エルフとドワーフ、植物系魔物と草食系魔物、あるいは人間とオークやゴブリン。そういった相互理解が難しい、あるいはほぼ不可能と言える位仲の悪い者同士は無理して仲良くしようとしなくてもいい。
嫌いなら嫌いなままで、理解できないのならできないままで良くて、お互いに無関心かつ踏み込まない線を引いてそこを踏み越えないように生活するだけでも構わない。
ただし暴力をふるうといった犯罪行為だけはしないでほしい。
そうなったら俺はお前たちを捕まえなくてはいけなくなるし、お前たちも罰金を払うなどして嫌な気分になるだろうからいいことはないだろう」
マコトのお触れはなおも続く。
「俺みたいな立場の人間からしたら『みんなで手をつないで仲良くしましょう』と言いがちだろうし、君たちもそう言うだろうと思ってこのお触れを見ているかもしれない。
だがはっきり言おう、そんなのは幻想だ。
現実には『何をどう頑張っても絶対に仲良くなれない組み合わせ』という物は確実に存在し、おそらくそれは万色の神ですらどうする事もできないだろう。
同じ人間ですら几帳面な者とずぼらな者とでは全くもって上手くいかないのと同様、種族間で上手くいかないことはお互い無関心でいるのが最善の策だし、むしろそうでなければ必ず破綻するだろう」
お触れはこの言葉で締められていた。
「「犬は家族」という者と、「犬は下僕」という者と、「犬は愛玩品」という者と、「犬が主人」という者と、「犬は食料」という者とが互いに衝突しつつも上手く共存している国。
それこそが我がハシバ国の目指している姿だ。互いに衝突はするだろうが何とかうまくやっていって欲しい。それが俺の願いだ。
後アケリア歴1240年 4月10日
ハシバ国王 マコト=カトウ」
午後になってマコトはラタトスクが務める情報局へと足を運ぶ。
「あ、閣下。なんのご用でしょうか?」
「お触れに対する国民の感想を知りたいんだが、できるか?」
「それでしたら取材に出かけた者たちがとったアンケートが集まっていますのでご覧になりますか?」
「ああ、頼む」
マコトは情報料を払いそれを見る。内容は好意的な意見が5割、どちらでもないのが3割、否定的な意見が2割だった。まぁ良いほうだろう。
夜になってマコトは「酒場 母乳」へと通う。ここでもお触れの感想を聞くためだ。
「あら、マコトさん。聞きたいのはお触れの話かしら? 私が聞く限りでは大体好意的ってとこかしら。特にエルフとドワーフには好評よ。あんな奴らと仲良くしなくていいっていうのが受けてるみたい」
「そうか、ありがとう。それとミルクを1杯くれ」
今回のお触れで一番気にしていたエルフとドワーフの仲をどうするかについて彼らから好意的な意見が聞けたのは大きな収穫だった。
このお触れで少しでも種族間対立が収まってくれればと彼は思った。
【次回予告】
マコトは1年ぶりとなる戦への準備を着々と進める。
用意するのは新戦力、アレンシア戦役以来の旧友、そして離間の計。
第64話 「戦争前夜」
「親睦会? やめとけやめとけ。どうせ溝が余計に深くなるだけだ」
「ではこの事態に黙って指をくわえていろ、とでもいうのですか?」
「そのつもりもない。お触れを出してくれないか? 内容は……」
数日後、マコトの名で「種族間対立に関する王の意見」というお触れが出された。
内容はこうだ。
「我が国における種族間対立に関してだが、結論から言えば無理して仲良くなる必要はない。嫌いなら嫌いなままでいていい。
ただし嫌いだからと言って暴力をふるうのは止めてほしい」
最初から「無理して仲良くする必要はない」と述べたお触れはこう続く。
「エルフとドワーフ、植物系魔物と草食系魔物、あるいは人間とオークやゴブリン。そういった相互理解が難しい、あるいはほぼ不可能と言える位仲の悪い者同士は無理して仲良くしようとしなくてもいい。
嫌いなら嫌いなままで、理解できないのならできないままで良くて、お互いに無関心かつ踏み込まない線を引いてそこを踏み越えないように生活するだけでも構わない。
ただし暴力をふるうといった犯罪行為だけはしないでほしい。
そうなったら俺はお前たちを捕まえなくてはいけなくなるし、お前たちも罰金を払うなどして嫌な気分になるだろうからいいことはないだろう」
マコトのお触れはなおも続く。
「俺みたいな立場の人間からしたら『みんなで手をつないで仲良くしましょう』と言いがちだろうし、君たちもそう言うだろうと思ってこのお触れを見ているかもしれない。
だがはっきり言おう、そんなのは幻想だ。
現実には『何をどう頑張っても絶対に仲良くなれない組み合わせ』という物は確実に存在し、おそらくそれは万色の神ですらどうする事もできないだろう。
同じ人間ですら几帳面な者とずぼらな者とでは全くもって上手くいかないのと同様、種族間で上手くいかないことはお互い無関心でいるのが最善の策だし、むしろそうでなければ必ず破綻するだろう」
お触れはこの言葉で締められていた。
「「犬は家族」という者と、「犬は下僕」という者と、「犬は愛玩品」という者と、「犬が主人」という者と、「犬は食料」という者とが互いに衝突しつつも上手く共存している国。
それこそが我がハシバ国の目指している姿だ。互いに衝突はするだろうが何とかうまくやっていって欲しい。それが俺の願いだ。
後アケリア歴1240年 4月10日
ハシバ国王 マコト=カトウ」
午後になってマコトはラタトスクが務める情報局へと足を運ぶ。
「あ、閣下。なんのご用でしょうか?」
「お触れに対する国民の感想を知りたいんだが、できるか?」
「それでしたら取材に出かけた者たちがとったアンケートが集まっていますのでご覧になりますか?」
「ああ、頼む」
マコトは情報料を払いそれを見る。内容は好意的な意見が5割、どちらでもないのが3割、否定的な意見が2割だった。まぁ良いほうだろう。
夜になってマコトは「酒場 母乳」へと通う。ここでもお触れの感想を聞くためだ。
「あら、マコトさん。聞きたいのはお触れの話かしら? 私が聞く限りでは大体好意的ってとこかしら。特にエルフとドワーフには好評よ。あんな奴らと仲良くしなくていいっていうのが受けてるみたい」
「そうか、ありがとう。それとミルクを1杯くれ」
今回のお触れで一番気にしていたエルフとドワーフの仲をどうするかについて彼らから好意的な意見が聞けたのは大きな収穫だった。
このお触れで少しでも種族間対立が収まってくれればと彼は思った。
【次回予告】
マコトは1年ぶりとなる戦への準備を着々と進める。
用意するのは新戦力、アレンシア戦役以来の旧友、そして離間の計。
第64話 「戦争前夜」
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
スローライフとは何なのか? のんびり建国記
久遠 れんり
ファンタジー
突然の異世界転移。
ちょっとした事故により、もう世界の命運は、一緒に来た勇者くんに任せることにして、いきなり告白された彼女と、日本へ帰る事を少し思いながら、どこでもキャンプのできる異世界で、のんびり暮らそうと密かに心に決める。
だけどまあ、そんな事は夢の夢。
現実は、そんな考えを許してくれなかった。
三日と置かず、騒動は降ってくる。
基本は、いちゃこらファンタジーの予定。
そんな感じで、進みます。
【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!
花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】
《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》
天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。
キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。
一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。
キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。
辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。
辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。
国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。
リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。
※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい
カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる