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富国強兵
第49話 穀潰しのアルバート
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「フム……イシュタル国は最低でもこのくらいの兵を集められて、別働隊は……この程度か」
マコトは今後の戦局をどうすべきかディオールと考えていた。
「うーむ。さすがにイシュタル国を攻めて同盟を一気に崩すわけにはいかないな。弱そうな国を各個撃破で潰していくしかないな。あとは別働隊を何とかしないとな」
「何よりの問題は別働隊かと思われますぞ、閣下。もしもまともにかち合うとなると挟み撃ちになりますから兵数以上の被害が出るのは確実かと」
「大丈夫だ、策は考えている。具体的には……」
「ふむ。それなら何とかなるかもしれませんな」
ディオールと今後の方針について話し合った後、マコトは召喚の間へと降りてくる。
今の季節は春。
国民たちはようやく訪れた春を大いに祝ってるが、夏になったらまたあの連合軍相手に戦争するだろうから出来れば武官が欲しい。そう思いながら神霊石を置き、召喚の儀を行う。
魔法陣が「赤く」輝いた。
「おお! VRか!」
中々の逸材にマコトは声を上げる。やがて光が収まった後、現れたのは重厚な鎧と刺しゅうの入った青いマントが特徴的な、この辺りでは珍しい黒髪の人間だった。
だが、真新しい傷がいたるところにうかんでおり、傷口からは鮮血が流れ出ている。立ち上がる気力すらないのか、気を失っているのか、彼は倒れたままだ。
「オ、オイ! 大丈夫か!?」
マコトは声をかける。が、返事はない。首筋に触れると脈はあったが、どう考えても重傷だ。急いで召喚の間から出ると偶然見回り中の兵士がいた。
「オイ! ケガ人が出た! 癒しの魔法を使えるやつを連れてこい! あと衛生兵もだ! 大至急よこせ!」
「え!? は、はい!」
マコトの必死の形相におびえながらも兵士は返事をする。
国を巻き込んだ大騒動が済んでしばらくして……。
「どうだ?」
「失血でかなり体力を消耗してるらしくて、癒しの魔法では傷は全部塞ぎきれませんでした。深い傷を優先的に塞いで、軽い傷には包帯を巻きました。脈も呼吸もしっかりしていますから、とりあえず命だけは大丈夫だと思います」
「分かった。ご苦労」
とりあえず峠は越えたか、それにマコトはホッとした。
◇◇◇
「……」
俺の目に映ったのは、石で出来た天井。どうやら天国でも地獄でもなさそうだ。
首を振ると腕には包帯が巻かれているのが見えた。誰かが治療してくれたらしい。
穀潰しの税金泥棒に加えて、死にぞこないか。情けない限りだ。
起き上がろうとするが全身に力が入らない。相当身体がなまっているらしい。どうしたものかとぼんやりと部屋の入り口を見ていると……
「あ!! 良かった! 気が付いたんですね! 待ってて! 王様を連れてくるから!」
偶然そばにいた少女と目があった。信じられない事に頭には猫の耳がついていた。
彼女はそう言うなり走ってどこかへと行ってしまった。聞きたいことは山ほどあったが質問責めにする前に行ってしまった。
どうしてこんなことになったんだろう。俺は思い出す。
◆◆◆
「アルバート様、また広場で抗議活動が行われていますよ」
「またか。いつも通り対処しろ」
部下が報告してきたのは長年続いている俺たち兵士を穀潰しだの税金の無駄遣いだのと非難する声。まぁ仕方ない。
俺達兵士が活躍するときは戦争や災害という非常事態のみ。平和なときはタダ飯食らいの税金泥棒だ。
いざという時に役にたてればいい。あの時までは、そう思っていた。
「抵抗するなら命はない。降伏するのなら命だけは助けてもいい。どうするかはお前たちに任せるが賢明な判断をしてくれると信じているよ」
敵が降伏勧告を突きつけてきた。ただ、相手はヴェルガノン帝国が率いる不死者だ。どう考えても降伏したらあいつらの仲間にされる。絶対にのめない。
「もちろん徹底抗戦する! 全団員に伝えろ!」
「団長、それが……!!」
「何だと!?」
部下の報告に、俺はキレた。
「歯を食いしばれ! 大馬鹿野郎!」
俺は部下に喝を入れる。
「お前ら恥ずかしくないのか!? あれだけ税金の無駄だのタダ飯食らいだのと罵倒されて、いざ汚名返上の機会が来たら逃げ出す! このままじゃお前ら本当に穀潰しの税金泥棒になっちまうんだぞ!? 分かってんのか!?」
「別にいいよ。穀潰しの税金泥棒でも。ただ兵士のフリをしてればカネがもらえたんだから」
「そうだそうだ。俺だってカネのためにやってたんだ。死にたくないよ。命あっての物種って言うじゃないか」
「勝ち目のない戦いをやって100%死ぬのなんて馬鹿げてる。それよりも1%でも可能性のある降伏が良いに決まってるじゃないか」
「そんなに戦いたきゃお前1人で好きなだけ戦えばいいだろ!? 戦いたくない奴を巻き込むんじゃねえ!」
怒りを通り越して呆れる……をさらに通り越し、一周してもう一度怒りに戻ってくるほど、部下の態度は情けなかった
「貴様ら! 敵前逃亡が許されると思っているのか!? それに何だその口のきき方は! 団長に向かってお前とは何だ! ええ!?」
「もういいよ。俺騎士団辞める。もうお前と俺とは何の関係もない」
「俺も辞める。じゃあな」
「今までお世話になりましたよ団長殿。いや、アルバートさん、か」
部下たちは次々と武器を投げ捨て、去って行った。残ったのは俺のみだった。
呆然とする俺の所へ立派な仕立ての服を着た老人がやってくる。
「全て見させてもらったよ、アルバート君。君達にはとことん失望させられたよ。私の目もずいぶんと曇ってしまったものだ」
「町長殿! 違います。違いますって!」
「違うだと? ではどこがどう、どんな風に違うのかね? 具体的に説明してほしいんだが?」
「そ、それは……」
俺は答えることが出来なかった。
【次回予告】
傷ついた鳥はじっと体を休め傷を癒し、また空へと力強く羽ばたいていく。
第50話「穀潰しの再起」
マコトは今後の戦局をどうすべきかディオールと考えていた。
「うーむ。さすがにイシュタル国を攻めて同盟を一気に崩すわけにはいかないな。弱そうな国を各個撃破で潰していくしかないな。あとは別働隊を何とかしないとな」
「何よりの問題は別働隊かと思われますぞ、閣下。もしもまともにかち合うとなると挟み撃ちになりますから兵数以上の被害が出るのは確実かと」
「大丈夫だ、策は考えている。具体的には……」
「ふむ。それなら何とかなるかもしれませんな」
ディオールと今後の方針について話し合った後、マコトは召喚の間へと降りてくる。
今の季節は春。
国民たちはようやく訪れた春を大いに祝ってるが、夏になったらまたあの連合軍相手に戦争するだろうから出来れば武官が欲しい。そう思いながら神霊石を置き、召喚の儀を行う。
魔法陣が「赤く」輝いた。
「おお! VRか!」
中々の逸材にマコトは声を上げる。やがて光が収まった後、現れたのは重厚な鎧と刺しゅうの入った青いマントが特徴的な、この辺りでは珍しい黒髪の人間だった。
だが、真新しい傷がいたるところにうかんでおり、傷口からは鮮血が流れ出ている。立ち上がる気力すらないのか、気を失っているのか、彼は倒れたままだ。
「オ、オイ! 大丈夫か!?」
マコトは声をかける。が、返事はない。首筋に触れると脈はあったが、どう考えても重傷だ。急いで召喚の間から出ると偶然見回り中の兵士がいた。
「オイ! ケガ人が出た! 癒しの魔法を使えるやつを連れてこい! あと衛生兵もだ! 大至急よこせ!」
「え!? は、はい!」
マコトの必死の形相におびえながらも兵士は返事をする。
国を巻き込んだ大騒動が済んでしばらくして……。
「どうだ?」
「失血でかなり体力を消耗してるらしくて、癒しの魔法では傷は全部塞ぎきれませんでした。深い傷を優先的に塞いで、軽い傷には包帯を巻きました。脈も呼吸もしっかりしていますから、とりあえず命だけは大丈夫だと思います」
「分かった。ご苦労」
とりあえず峠は越えたか、それにマコトはホッとした。
◇◇◇
「……」
俺の目に映ったのは、石で出来た天井。どうやら天国でも地獄でもなさそうだ。
首を振ると腕には包帯が巻かれているのが見えた。誰かが治療してくれたらしい。
穀潰しの税金泥棒に加えて、死にぞこないか。情けない限りだ。
起き上がろうとするが全身に力が入らない。相当身体がなまっているらしい。どうしたものかとぼんやりと部屋の入り口を見ていると……
「あ!! 良かった! 気が付いたんですね! 待ってて! 王様を連れてくるから!」
偶然そばにいた少女と目があった。信じられない事に頭には猫の耳がついていた。
彼女はそう言うなり走ってどこかへと行ってしまった。聞きたいことは山ほどあったが質問責めにする前に行ってしまった。
どうしてこんなことになったんだろう。俺は思い出す。
◆◆◆
「アルバート様、また広場で抗議活動が行われていますよ」
「またか。いつも通り対処しろ」
部下が報告してきたのは長年続いている俺たち兵士を穀潰しだの税金の無駄遣いだのと非難する声。まぁ仕方ない。
俺達兵士が活躍するときは戦争や災害という非常事態のみ。平和なときはタダ飯食らいの税金泥棒だ。
いざという時に役にたてればいい。あの時までは、そう思っていた。
「抵抗するなら命はない。降伏するのなら命だけは助けてもいい。どうするかはお前たちに任せるが賢明な判断をしてくれると信じているよ」
敵が降伏勧告を突きつけてきた。ただ、相手はヴェルガノン帝国が率いる不死者だ。どう考えても降伏したらあいつらの仲間にされる。絶対にのめない。
「もちろん徹底抗戦する! 全団員に伝えろ!」
「団長、それが……!!」
「何だと!?」
部下の報告に、俺はキレた。
「歯を食いしばれ! 大馬鹿野郎!」
俺は部下に喝を入れる。
「お前ら恥ずかしくないのか!? あれだけ税金の無駄だのタダ飯食らいだのと罵倒されて、いざ汚名返上の機会が来たら逃げ出す! このままじゃお前ら本当に穀潰しの税金泥棒になっちまうんだぞ!? 分かってんのか!?」
「別にいいよ。穀潰しの税金泥棒でも。ただ兵士のフリをしてればカネがもらえたんだから」
「そうだそうだ。俺だってカネのためにやってたんだ。死にたくないよ。命あっての物種って言うじゃないか」
「勝ち目のない戦いをやって100%死ぬのなんて馬鹿げてる。それよりも1%でも可能性のある降伏が良いに決まってるじゃないか」
「そんなに戦いたきゃお前1人で好きなだけ戦えばいいだろ!? 戦いたくない奴を巻き込むんじゃねえ!」
怒りを通り越して呆れる……をさらに通り越し、一周してもう一度怒りに戻ってくるほど、部下の態度は情けなかった
「貴様ら! 敵前逃亡が許されると思っているのか!? それに何だその口のきき方は! 団長に向かってお前とは何だ! ええ!?」
「もういいよ。俺騎士団辞める。もうお前と俺とは何の関係もない」
「俺も辞める。じゃあな」
「今までお世話になりましたよ団長殿。いや、アルバートさん、か」
部下たちは次々と武器を投げ捨て、去って行った。残ったのは俺のみだった。
呆然とする俺の所へ立派な仕立ての服を着た老人がやってくる。
「全て見させてもらったよ、アルバート君。君達にはとことん失望させられたよ。私の目もずいぶんと曇ってしまったものだ」
「町長殿! 違います。違いますって!」
「違うだと? ではどこがどう、どんな風に違うのかね? 具体的に説明してほしいんだが?」
「そ、それは……」
俺は答えることが出来なかった。
【次回予告】
傷ついた鳥はじっと体を休め傷を癒し、また空へと力強く羽ばたいていく。
第50話「穀潰しの再起」
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