上 下
38 / 59
9月

第38話 いつ始めても遅すぎる

しおりを挟む
 9月になって10日あまり、午前中や夕方は少しは涼しくなってくる季節にはなった。

 久しぶりに外でのプログラムを終えてススムが進に声をかけてきた。



「小僧、調子はどうだ?」

「上々です。今は初心者向けの株の本数冊と、中級者向けの本を1冊読んでるところです」

「ふーむ……『いつか』やろう。というわけか」

「え、ええ。そうです。まだ準備中の段階ですし……」

 師からの言葉に少しうろたえながらも進は返事をする。それを聞いたススムは言葉を発する。



「小僧、お前は何も考えずに本の1冊も読まずいきなり始める無謀な奴とは違うようだな……それだけは評価してやってもいい。

 だからと言って慎重になりすぎるのも良くないぞ。

 言っておくが人生においては「早すぎて後悔する」事なんて何一つないぞ。むしろ逆に「遅すぎて後悔する」事ばかりだ」

 話は続く。



「例えばだ。40代で一念発起いちねんほっきして50歳で財を築く事が出来た者は「30代のころから始めればよかった」と嘆くし、

 30になって挑戦を始めて30代後半で成功できたものは「20代のころから準備をやっておくべきだった」と後悔するし、

 22歳で大学を卒業したのと同時に起業し3年で富を得た者は「大学生のころから起業するべきだった」と自らの犯した愚行を見て途方に暮れる。そういうものだ。

「もっと早くからやっておくべきだった」という嘆きはいつの世も変わらん。「今」ですら既に遅すぎるのだ。

 賢者というのは「今日やるべきことを昨日までに既に済ませている」ものだ」

 ススムはそこまで一気に言う。と同時に目をつぶり苦い思い出を思い出していた。



「もちろんオレだってそうだ。オレもバビロンの大富豪を読み始めた頃は

「何で今までこんな素晴らしい本を読まずに生きていたんだ!? 10年早くこの本に出会っていれば!」と心の底から後悔した事もあった。

 それくらい「遅すぎる後悔」は多く「早すぎる後悔」は無いものだ。オレも含めて皆「もっと早くからやっておくべきだった」と後悔しているものさ。

 だから株にしろ何にしろ早めにやるべきだ。どれだけ早くやったとしても、それでも「あまりにも遅すぎる」だろうがな」

 痛い実体験をさらしつつ、彼は若者を説得する。



「小僧、お前が勇気と無謀の違いさえ分かれば、富を築くために早すぎることなんて何一つ無い。いつやっても「最も遅い」行動になる。

 小僧、お前は30だそうだが30のうちに行動しなければ行動しない31に、32になっていくものだ。

 何か行動すれば行動した31や32になれる。失敗しようが成功しようが関係ない。

 言っておくが、お前は『いつか』やろうとは言うがカレンダーには『some dayいつか』という日は無いぞ。

 だから『いつか』という日が来ないまま手遅れになるほど年老いてしまったり、最悪の場合何もせずに生涯を終える人間と言うのも数多い。

 お前はそんな奴にはなるなよ。完璧に準備出来るまで待ったらあっという間にオレみたいなジジイになっちまうぞ。時間というのは待ってくれないぞ」

 ススムは進に発破をかけるように言う。でも教え子は不安だった。



「でも不安なんですよ! 株で失敗したって言う話ばかりが聞こえてきて有り金全部なくなってしまうかどうか心配で心配で……」

「だったら証券口座を先に作ってデモ取引をやってみるというのはどうだ? 実戦に比べれば大したことないが取引の基礎を学ぶことは出来るぞ。

 あらかじめ証券取引ページの操作方法に慣れておけば本番でもスムーズに行けるだろう。

 それが出来なければミニ株や単元未満株と言って、普通は100株で1単位のところを10株や1株単位で買えるところだってある。それで練習すればいい」

 ススムのアドバイスは続く。



「それとこれも覚えておけ。恐怖と言うのは「正体が分からない」から怖いんだ。正体さえわかればどんなものも怖くない。

 逆に正体が分からなければ「枯れススキの影」すら怖いものだ。恐怖というのはそういうものだ」

 ススムは恐怖の正体を教え、才ある若者の不安を取り除く。



「子供が暗闇をやたらと怖がるのは彼らは想像力が豊かで常識知らずだから、

 暗闇の中に絵本に出てきたお化けやゲームやアニメで見た恐ろしい怪物が潜んでいるかもしれない。と思って怖くて動けないからさ。

 逆に光で照らして何がいるのかが分かれば怖くなくなるのと一緒さ。正体さえわかればどんな恐怖も恐怖ではなくなる。

 これはとてつもなく重要な話だから、くれぐれも忘れるなよ。じゃあ俺は帰るからな」

 そう言って彼は進から離れ、帰っていった。



【次回予告】

カネを大事にするあまり他の物を犠牲にするのは愚か者そのもの。とススムは言う。

第39話 「カネを払う=敗北という愚かな考え」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~

しんいち
キャラ文芸
オカルト好きの少年、「しんいち」は、小学生の時、彼が通う合気道の道場でお婆さんにつれられてきた不思議な少女と出会う。 のちに「幽子」と呼ばれる事になる少女との始めての出会いだった。 彼女には「霊感」と言われる、人の目には見えない物を感じ取る能力を秘めていた。しんいちはそんな彼女と友達になることを決意する。 そして高校生になった二人は、様々な怪奇でミステリアスな事件に関わっていくことになる。 事件を通じて出会う人々や経験は、彼らの成長を促し、友情を深めていく。 しかし、幽子にはしんいちにも秘密にしている一つの「想い」があった。 その想いとは一体何なのか?物語が進むにつれて、彼女の心の奥に秘められた真実が明らかになっていく。 友情と成長、そして幽子の隠された想いが交錯するミステリアスな物語。あなたも、しんいちと幽子の冒険に心を躍らせてみませんか?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

Flower Girls〜オトナになった君たち〜

うどん
キャラ文芸
うどん劇場◥█̆̈◤࿉∥ 『近所でちょっぴりウワサの姉妹』 『幼なじみといっしょに』 『思春期のかがりちゃん』 3作品のアフターストーリー。 成人式の後の同窓会。 20代になった新成人のうどん学園卒業生。 学級委員長だったこともあり、同窓会の幹事を任されるかがりは進行にあたふたしながらもこなしていく。 すると、ある女が話しかけてきた・・・ 一方で、昔話に花が咲き、盛り上がったひまわりといちごは、同性カップルを集めて飲みなおそうと提案する。 そこで、いちご×ゆき、ひまわり×みずき、かがり×かんなのペアが集結した。

諭吉の旅

採点!!なんでもランキング!!
現代文学
時代は現代、一枚の一万円札として生を受けた福沢諭吉。 一万円が様々な人々の手に渡っていく中で、その人間模様が福沢諭吉の視点で語られていく。

処理中です...