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ボディビルダーはウサギの肉
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「ボディビルダーというのはウサギの肉に実に似ている」
その言葉をボディビルダーとしては古株に当たる、とある人物の取材で聞いた。
取材の場所はフランスから輸入したウサギ肉を使った料理を出す店。そこの「予約」専用である普通のテーブルよりも少し格式の高い席に座っての事だ。
仕立ての良いスーツを着ているがその巨体ゆえに合うサイズが無いのか、それとも取材で写真を撮られるのを加味して筋肉を強調させるために「あえて」やっているのか、
服の上からでも筋肉が浮き出ているのがよく分かる体型だ。
「ほ、本日はよろしくお願いしまひゅ、いや、します」
「うん。君の名前は聞かないのだが新人なのか? まぁそんな緊張しないでゆっくりと話してくれればいい。あせっても口をかむだけだろうからな」
相手は人が出来ているのか私が当時新人であるのを見抜いて、緊張するなと親し気に話しかけて来る。ボイスレコーダーの録音ボタンを押して、取材が始まった。
そもそもボディビルダーという仕事自体が日本ではまだまだマイナーなので、ボディビルダーとはどういう仕事なのか? から始まり、後に雑学の類に発展したのだが
そこは「文章への書き起こし用」に録音していたボイスレコーダーを使わなくてもはっきりと覚えていた。
「お待たせいたしました。ウサギ肉のソテー、フレッシュクリームソース添えになります」
そう言って店員が持ってきたのはクリームソースのかかったウサギの肉料理。シンプルな調理方法だが肉の香りとソースの香りが混ざった、いい匂いが広がっている。
その料理にちなんだ雑学が取材相手の口から出てきた。
「ところでこんな話を知ってるか? ウサギといえばウサギの肉には脂肪分がほとんどないそうだ。
そのためウサギの肉ばかりを食べていると脂肪が足りなくなって「ウサギ飢餓」という一種の栄養失調を起こしてしまうそうだ。
現代社会では脂肪はやたらと敵視されているが、本来であれば人体には欠かせない栄養素なのだよ」
彼はそう言いながらウサギ肉のソテーをナイフで切り分けながら口に運ぶ。
巨体だというのにその動きはそれに似あわず実に洗練された上質なもので、ある種の気品さえ感じられる。時代が時代なら貴族だと言ってもバレない程だ。
「私のようなボディビルダーというのは大会に向けて脂肪を限界まで落とす。脂肪を落とせば落とすほど筋肉を浮き立たせることが出来るからだ。
アメリカではその手の調整は徹底されていて、ボディビルダーは舞台裏では燃え尽きたように倒れ込むような事態にまでなっているそうだ」
あの筋肉の塊が服を着て歩いているようなアメリカのボディビル業界はそんな事になってるのか……。
「意外かね? あの屈強な大男たちが次々と倒れるところだなんて想像もつかないのも、まぁ分かるがな。私も数年前に見に行った時は実に驚いたよ」
数年前の話を、ついさっき体験したかのような口調と説得力を持って語ってくれた。当時新人だった私に随分と好意を持って接してくれて嬉しかったな。
「そういう意味では、我々ボディビルダーというのは脂肪を限界まで落とすという点においてウサギの肉に似ている、とは思わんかね?」
「……」
「ふむ、ピンと来ない。といったところか? まぁ君はまだまだ若いからこれからの社会で色々と学ぶことも多くなるだろう。今回の話は人間を深めるための肥やしにでもしてくれれば幸いかな?」
ウサギとボディビルダーという、まず重なることは無いだろう2つを見事に関係づけた彼の知識と知恵に感心してばかりだった。
「本日は取材に応えていただき大変ありがとうございました」
「なぁに気にするな。私も君のような新人育成に付き合うことが出来て光栄に思うよ。名刺にメールアドレスや電話番号が書いてあるから困ったときは頼りにしたまえ」
こうして、ライターとして初めてとなる取材は終わった。今思い起こせば、あれがライターになってよかったなと思える仕事だったなぁ。
その言葉をボディビルダーとしては古株に当たる、とある人物の取材で聞いた。
取材の場所はフランスから輸入したウサギ肉を使った料理を出す店。そこの「予約」専用である普通のテーブルよりも少し格式の高い席に座っての事だ。
仕立ての良いスーツを着ているがその巨体ゆえに合うサイズが無いのか、それとも取材で写真を撮られるのを加味して筋肉を強調させるために「あえて」やっているのか、
服の上からでも筋肉が浮き出ているのがよく分かる体型だ。
「ほ、本日はよろしくお願いしまひゅ、いや、します」
「うん。君の名前は聞かないのだが新人なのか? まぁそんな緊張しないでゆっくりと話してくれればいい。あせっても口をかむだけだろうからな」
相手は人が出来ているのか私が当時新人であるのを見抜いて、緊張するなと親し気に話しかけて来る。ボイスレコーダーの録音ボタンを押して、取材が始まった。
そもそもボディビルダーという仕事自体が日本ではまだまだマイナーなので、ボディビルダーとはどういう仕事なのか? から始まり、後に雑学の類に発展したのだが
そこは「文章への書き起こし用」に録音していたボイスレコーダーを使わなくてもはっきりと覚えていた。
「お待たせいたしました。ウサギ肉のソテー、フレッシュクリームソース添えになります」
そう言って店員が持ってきたのはクリームソースのかかったウサギの肉料理。シンプルな調理方法だが肉の香りとソースの香りが混ざった、いい匂いが広がっている。
その料理にちなんだ雑学が取材相手の口から出てきた。
「ところでこんな話を知ってるか? ウサギといえばウサギの肉には脂肪分がほとんどないそうだ。
そのためウサギの肉ばかりを食べていると脂肪が足りなくなって「ウサギ飢餓」という一種の栄養失調を起こしてしまうそうだ。
現代社会では脂肪はやたらと敵視されているが、本来であれば人体には欠かせない栄養素なのだよ」
彼はそう言いながらウサギ肉のソテーをナイフで切り分けながら口に運ぶ。
巨体だというのにその動きはそれに似あわず実に洗練された上質なもので、ある種の気品さえ感じられる。時代が時代なら貴族だと言ってもバレない程だ。
「私のようなボディビルダーというのは大会に向けて脂肪を限界まで落とす。脂肪を落とせば落とすほど筋肉を浮き立たせることが出来るからだ。
アメリカではその手の調整は徹底されていて、ボディビルダーは舞台裏では燃え尽きたように倒れ込むような事態にまでなっているそうだ」
あの筋肉の塊が服を着て歩いているようなアメリカのボディビル業界はそんな事になってるのか……。
「意外かね? あの屈強な大男たちが次々と倒れるところだなんて想像もつかないのも、まぁ分かるがな。私も数年前に見に行った時は実に驚いたよ」
数年前の話を、ついさっき体験したかのような口調と説得力を持って語ってくれた。当時新人だった私に随分と好意を持って接してくれて嬉しかったな。
「そういう意味では、我々ボディビルダーというのは脂肪を限界まで落とすという点においてウサギの肉に似ている、とは思わんかね?」
「……」
「ふむ、ピンと来ない。といったところか? まぁ君はまだまだ若いからこれからの社会で色々と学ぶことも多くなるだろう。今回の話は人間を深めるための肥やしにでもしてくれれば幸いかな?」
ウサギとボディビルダーという、まず重なることは無いだろう2つを見事に関係づけた彼の知識と知恵に感心してばかりだった。
「本日は取材に応えていただき大変ありがとうございました」
「なぁに気にするな。私も君のような新人育成に付き合うことが出来て光栄に思うよ。名刺にメールアドレスや電話番号が書いてあるから困ったときは頼りにしたまえ」
こうして、ライターとして初めてとなる取材は終わった。今思い起こせば、あれがライターになってよかったなと思える仕事だったなぁ。
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