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第1話 社長とドラ息子
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龍護は今回で2回目のリテイクとなるゲームに使う背景画数枚を社長に提出する。これでダメな納期に間に合わないものだ。
「龍護、ここまでできれば仕方ないが採用してやってもいい」
「ありがとうございます」
社長からの許しが出たので彼はホッとするが……。
「ありがとうございますだぁ? 言っておくが求めているクオリティにはこれっぽちも届いていないぞ。
ただ締め切りがあるから妥協に妥協を重ねて何とか採用してやっている。っていう代物なんだぞ? 基礎も応用も全然なってない。
この調子のままならクビも視野に入れろよ。中卒でデザイン校も出てないお前を拾って大損した、だけは勘弁してくれよな」
「も、申し訳ありません」
龍護はひたすら平謝りだ。
佐竹 龍護、16歳の青年。家庭の事情で進学は諦め昨年の中学卒業後、小規模のゲーム開発会社「丸山ゲームス」にグラフィッカーとして就職した。
就職後は背景ばかり描くようになって、たまにキャラクターを担当した際は短いセリフを言うだけのモブキャラが相場。
就職して1年近くが経つが社長から褒められたことはただの1度も無く、会社内でのヒエラルキーは最下位だった。
「オイ龍護、まーたお前社長からヤキを入れられてるわけか? もう就職して2年目になるんだろ? いい加減まともな仕事しろよなぁ。
そんなんじゃいつまでたっても給料泥棒から卒業できねえじゃねえか。いい加減使い物になる人材に成長しろよなぁ?」
社長のドラ息子が仕事の出来ない後輩にボヤキを入れる。彼は有名な芸術大学卒で丸山ゲームスのグラフィッカー、特にキャラの原画を担当するいわゆる「花形」だ。
中卒である龍護にとっては学歴で圧倒的な差がついており、実力も格段に違うためか最近ではいじけるようになってしまった。
「仕方ないでしょ、俺は丸山さんみたいな学歴なんてないからな」
「オイ中卒。ふてくされる場合じゃないだろ? 次の絵の納期にはしっかりと間に合わせろよ。下手な上にトロいんじゃ何のとりえもないじゃないか」
「……」
言葉が出ない。龍護はいつもこういう目に遭っていた。彼は15歳で社会に出たので、比較対象が無くこういうモノだろうと思っていたのだ。
午後5時。残業代を出さない社長の方針により丸山ゲームス社員は全員帰路に就いた。もちろん社長も息子と一緒に自宅へと帰る途中だった。
「なぁオヤジ、何で龍護みたいなトロい奴を雇ったんだ?」
「ああ。ああいう奴がいると『ガス抜きのためのはけ口』になって楽できるんだよ。共通の敵を作れば団結できる、っていうアメリカ合衆国も使っている伝統的な手法さ。
そうじゃないと中卒なんていうカスを雇う理由は無いさ。能無しの中卒でも役に立つんだ『バカとハサミは使いよう』とは言ったもんだ」
「なるほどそういう事か、言えてるぜ。そうだよなぁ、今時中卒だなんてなぁ。オヤジがアイツを雇うと聞いて何があったんだ? って思ったけどそういう事か。納得だぜ」
「そういう事だ。わざと仕事のできない奴を雇って『共通の敵』にすることで社内の団結を高めるんだ。年200万かそこらでそこそこの仕事もしてくれるなら安い買い物だ」
ワハハと笑いながら2人は電車に乗る。彼らはのちに会社がつぶれて仕事を失い、落ちるところまでとことん落ちぶれ果てるのをまだ知らない。
「龍護、ここまでできれば仕方ないが採用してやってもいい」
「ありがとうございます」
社長からの許しが出たので彼はホッとするが……。
「ありがとうございますだぁ? 言っておくが求めているクオリティにはこれっぽちも届いていないぞ。
ただ締め切りがあるから妥協に妥協を重ねて何とか採用してやっている。っていう代物なんだぞ? 基礎も応用も全然なってない。
この調子のままならクビも視野に入れろよ。中卒でデザイン校も出てないお前を拾って大損した、だけは勘弁してくれよな」
「も、申し訳ありません」
龍護はひたすら平謝りだ。
佐竹 龍護、16歳の青年。家庭の事情で進学は諦め昨年の中学卒業後、小規模のゲーム開発会社「丸山ゲームス」にグラフィッカーとして就職した。
就職後は背景ばかり描くようになって、たまにキャラクターを担当した際は短いセリフを言うだけのモブキャラが相場。
就職して1年近くが経つが社長から褒められたことはただの1度も無く、会社内でのヒエラルキーは最下位だった。
「オイ龍護、まーたお前社長からヤキを入れられてるわけか? もう就職して2年目になるんだろ? いい加減まともな仕事しろよなぁ。
そんなんじゃいつまでたっても給料泥棒から卒業できねえじゃねえか。いい加減使い物になる人材に成長しろよなぁ?」
社長のドラ息子が仕事の出来ない後輩にボヤキを入れる。彼は有名な芸術大学卒で丸山ゲームスのグラフィッカー、特にキャラの原画を担当するいわゆる「花形」だ。
中卒である龍護にとっては学歴で圧倒的な差がついており、実力も格段に違うためか最近ではいじけるようになってしまった。
「仕方ないでしょ、俺は丸山さんみたいな学歴なんてないからな」
「オイ中卒。ふてくされる場合じゃないだろ? 次の絵の納期にはしっかりと間に合わせろよ。下手な上にトロいんじゃ何のとりえもないじゃないか」
「……」
言葉が出ない。龍護はいつもこういう目に遭っていた。彼は15歳で社会に出たので、比較対象が無くこういうモノだろうと思っていたのだ。
午後5時。残業代を出さない社長の方針により丸山ゲームス社員は全員帰路に就いた。もちろん社長も息子と一緒に自宅へと帰る途中だった。
「なぁオヤジ、何で龍護みたいなトロい奴を雇ったんだ?」
「ああ。ああいう奴がいると『ガス抜きのためのはけ口』になって楽できるんだよ。共通の敵を作れば団結できる、っていうアメリカ合衆国も使っている伝統的な手法さ。
そうじゃないと中卒なんていうカスを雇う理由は無いさ。能無しの中卒でも役に立つんだ『バカとハサミは使いよう』とは言ったもんだ」
「なるほどそういう事か、言えてるぜ。そうだよなぁ、今時中卒だなんてなぁ。オヤジがアイツを雇うと聞いて何があったんだ? って思ったけどそういう事か。納得だぜ」
「そういう事だ。わざと仕事のできない奴を雇って『共通の敵』にすることで社内の団結を高めるんだ。年200万かそこらでそこそこの仕事もしてくれるなら安い買い物だ」
ワハハと笑いながら2人は電車に乗る。彼らはのちに会社がつぶれて仕事を失い、落ちるところまでとことん落ちぶれ果てるのをまだ知らない。
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