34 / 169
『全マシ。チートを貰った俺』編
第34話『ブラッド・エアルドレッド』
しおりを挟む◇◇◇◇◇
「お、おい、貴様。今日はあの獣人奴隷は一緒ではないのか……?」
デルフィーヌたちと話していると、ホットフランクがそわそわした様子で話しかけてきた。
デルフィーヌは不安そうに俺の服の袖を掴んで陰に隠れた。
エレンも警戒して表情を強張らせる。
「ベルナデットか? あいつは留守番させてきたけど?」
「ふっ……そうか……そうか! ふん、驚かせおって! ふははははっ!」
俺が返答すると、急に態度がデカくなるホットフランク。
あれ? ひょっとして……。
あまりに瞬殺しすぎて、俺が魔法で気絶させたことを覚えてない?
うわ、メンドクセ。
やっぱりベルナデットを連れてくればよかったかも。
俺がちょっと後悔していると、扉がバタンと勢いよく開かれた。
「やあ、よく来てくれたな! ちょっと小便に行ってたぞ! ヘルハウンドを倒した冒険者が到着したそうだな!」
張りのある大声を上げ、一人の壮年男性が部屋に入ってきた。
男性は入り口付近にいた俺の姿を見つけると、ずんずんと近づいて、
「私はブラッド・エアルドレッド。エアルドレッド辺境伯家の当主でエレンの父親だ! よろしく頼むぞ!」
握手を求められたので俺はそっと握り返す。
エアルドレッド……じゃあ、この人がエレンの親父さんか。
短く刈り込んだ銀髪、日焼けした肌の色、鍛え上げられた分厚い肉体。
ブラッド氏は貴族というより、軍人と表現するのが的確な風貌だった。
「君がエレンやフィーちゃんの言っていた、宰相ヘルハウンドを一人で倒したという……えーと、ヒョロイカ君だったか?」
「父上、ヒロオカです」
「そうか! ヒロオカか! わはは!」
屈託なく笑うブラッド氏。また間違えられてんよ~。どうして外国人は日本人の名前を面白い感じで覚えるんだ。
「おっと、そういえばトイレの後で手を洗うのを忘れていたぞ! ガハハッ!」
「…………」
俺は握手をした右手を見つめ、無言で浄化魔法をかけた。
くっ、次に握手を求められたら左手でしてやる……。
「さて、皆も知っていると思うが……昨晩、魔王軍幹部であるヒザマが街の上空に現れ、我々に宣戦布告をしてきた。ここにいる人間は魔王軍との戦いで主力として協力してもらうため集まってもらった精鋭だ」
全員が席に座ると、ブラッド氏は俺たち一人一人に視線を送りながらそう言った。
先ほどまでのお調子者なおっさんの面影は皆無。
一転して、厳格な統治者の顔になっていた。
こういう切り替えができるのはすごいな。
俺はブラッド氏の評価を少し上方修正した。
「エアルドレッド卿、少し待っていただきたいんだが」
ブラッド氏の言葉を遮って口を挟む者が現れた。
「僕や、辛うじてデルフィーヌが精鋭と呼ばれるのはわかりますが……なぜ卑しい身分の者たちまでいるのですか?」
ポークステーキだった。
「下賤な冒険者など、我々の駒としてただ使われるだけの存在でしょう? わざわざトップの集まりに呼ぶ必要があるのか、激しく疑問に思いますね」
ホットドッグが周りを蔑んだ目で見て言う。
こてんぱんにやられたのに全然変わらねえのな、こいつ……。
もう少し記憶に残るやり方でお灸を据えてやるべきだったぜ。
「おいおい、誰が駒だってぇ……? この温室育ちのお坊ちゃんが……。三枚におろしてやろうかい?」
「……やめろ、クレマンス。……相手と同じところに落ちて争う必要はない」
舌打ちをしながら立ち上がったクレマンスをバルバトスが諫める。
「ふん、鋼鉄のバルバトスか……。確か、魔王と互角に戦ったと言われてる冒険者だったか? 魔王城を前に何年も足踏みをしている腰抜けにそんな実力があるのか疑わしいものだな」
ホットフランクはバルバトスを不快そうに睥睨し、見下す言葉を吐いた。
「このガキ、バルバトスの力を疑うってのかい? 聞けばアンタ、決闘の結果にいちゃもん付けた挙句、訓練所でクソを漏らしたそうじゃないか? くくっ、この部屋にはおまるが置いてないけど、ケツの穴は大丈夫かい?」
鼻を摘まみながら挑発するクレマンス。
ホットドッグにとってそれは相当なヒットポイントだったようで、
「きっ、貴様ぁ! 卑しい冒険者の分際でッ! あれは何かの間違いなのだッ!」
顔を真っ赤にして剣を抜こうとする。
おいおい、ここで戦闘を始めるつもりか?
やべーだろ……何考えてんだ。
0
お気に入りに追加
4,222
あなたにおすすめの小説
ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~
ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」
ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。
理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。
追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。
そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。
一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。
宮廷魔術師団長は知らなかった。
クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。
そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。
「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。
これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。
ーーーーーー
ーーー
※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。
見つけた際はご報告いただけますと幸いです……
狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
マーラッシュ
ファンタジー
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
パーティーを追放された雑用係の少年を拾ったら実は滅茶苦茶有能だった件〜虐げられた少年は最高の索敵魔法を使いこなし成り上がる~
木嶋隆太
ファンタジー
大手クランでは、サポーターのパーティー追放が流行っていた。そんなとき、ヴァレオはあるパーティーが言い争っているのを目撃する。そのパーティーでも、今まさに一人の少年が追放されようとしていた。必死に泣きついていた少年が気になったヴァレオは、彼を自分のパーティーに誘う。だが、少年は他の追放された人々とは違い、規格外の存在であった。「あれ、僕の魔法ってそんなに凄かったの?」。何も知らない常識外れの少年に驚かされながら、ヴァレオは迷宮を攻略していく。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
エラーから始まる異世界生活
KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。
本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。
高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。
冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。
その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。
某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。
実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。
勇者として活躍するのかしないのか?
能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。
多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。
初めての作品にお付き合い下さい。
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる