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『全マシ。チートを貰った俺』編

第34話『ブラッド・エアルドレッド』

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◇◇◇◇◇


「お、おい、貴様。今日はあの獣人奴隷は一緒ではないのか……?」

 デルフィーヌたちと話していると、ホットフランクがそわそわした様子で話しかけてきた。
 デルフィーヌは不安そうに俺の服の袖を掴んで陰に隠れた。
 エレンも警戒して表情を強張らせる。

「ベルナデットか? あいつは留守番させてきたけど?」

「ふっ……そうか……そうか! ふん、驚かせおって! ふははははっ!」

 俺が返答すると、急に態度がデカくなるホットフランク。
 あれ? ひょっとして……。
 あまりに瞬殺しすぎて、俺が魔法で気絶させたことを覚えてない?

 うわ、メンドクセ。
 やっぱりベルナデットを連れてくればよかったかも。
 俺がちょっと後悔していると、扉がバタンと勢いよく開かれた。


「やあ、よく来てくれたな! ちょっと小便に行ってたぞ! ヘルハウンドを倒した冒険者が到着したそうだな!」


 張りのある大声を上げ、一人の壮年男性が部屋に入ってきた。
 男性は入り口付近にいた俺の姿を見つけると、ずんずんと近づいて、

「私はブラッド・エアルドレッド。エアルドレッド辺境伯家の当主でエレンの父親だ! よろしく頼むぞ!」

 握手を求められたので俺はそっと握り返す。
 エアルドレッド……じゃあ、この人がエレンの親父さんか。
 短く刈り込んだ銀髪、日焼けした肌の色、鍛え上げられた分厚い肉体。

 ブラッド氏は貴族というより、軍人と表現するのが的確な風貌だった。

「君がエレンやフィーちゃんの言っていた、宰相ヘルハウンドを一人で倒したという……えーと、ヒョロイカ君だったか?」

「父上、ヒロオカです」

「そうか! ヒロオカか! わはは!」

 屈託なく笑うブラッド氏。また間違えられてんよ~。どうして外国人は日本人の名前を面白い感じで覚えるんだ。

「おっと、そういえばトイレの後で手を洗うのを忘れていたぞ! ガハハッ!」

「…………」

 俺は握手をした右手を見つめ、無言で浄化魔法をかけた。
 くっ、次に握手を求められたら左手でしてやる……。




「さて、皆も知っていると思うが……昨晩、魔王軍幹部であるヒザマが街の上空に現れ、我々に宣戦布告をしてきた。ここにいる人間は魔王軍との戦いで主力として協力してもらうため集まってもらった精鋭だ」

 全員が席に座ると、ブラッド氏は俺たち一人一人に視線を送りながらそう言った。
 先ほどまでのお調子者なおっさんの面影は皆無。
 一転して、厳格な統治者の顔になっていた。

 こういう切り替えができるのはすごいな。
 俺はブラッド氏の評価を少し上方修正した。

「エアルドレッド卿、少し待っていただきたいんだが」

 ブラッド氏の言葉を遮って口を挟む者が現れた。

「僕や、辛うじてデルフィーヌが精鋭と呼ばれるのはわかりますが……なぜ卑しい身分の者たちまでいるのですか?」

 ポークステーキだった。

「下賤な冒険者など、我々の駒としてただ使われるだけの存在でしょう? わざわざトップの集まりに呼ぶ必要があるのか、激しく疑問に思いますね」

 ホットドッグが周りを蔑んだ目で見て言う。
 こてんぱんにやられたのに全然変わらねえのな、こいつ……。
 もう少し記憶に残るやり方でお灸を据えてやるべきだったぜ。

「おいおい、誰が駒だってぇ……? この温室育ちのお坊ちゃんが……。三枚におろしてやろうかい?」

「……やめろ、クレマンス。……相手と同じところに落ちて争う必要はない」

 舌打ちをしながら立ち上がったクレマンスをバルバトスが諫める。

「ふん、鋼鉄のバルバトスか……。確か、魔王と互角に戦ったと言われてる冒険者だったか? 魔王城を前に何年も足踏みをしている腰抜けにそんな実力があるのか疑わしいものだな」

 ホットフランクはバルバトスを不快そうに睥睨し、見下す言葉を吐いた。

「このガキ、バルバトスの力を疑うってのかい? 聞けばアンタ、決闘の結果にいちゃもん付けた挙句、訓練所でクソを漏らしたそうじゃないか? くくっ、この部屋にはおまるが置いてないけど、ケツの穴は大丈夫かい?」

 鼻を摘まみながら挑発するクレマンス。
 ホットドッグにとってそれは相当なヒットポイントだったようで、

「きっ、貴様ぁ! 卑しい冒険者の分際でッ! あれは何かの間違いなのだッ!」

 顔を真っ赤にして剣を抜こうとする。
 おいおい、ここで戦闘を始めるつもりか? 
 やべーだろ……何考えてんだ。

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