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『全マシ。チートを貰った俺』編
第15話『生きるために戦え!』
しおりを挟む痴女との決闘。
結果だけ言うと俺は圧勝だった。
ほとんど語ることはないくらいに。
痴女は鞭の使い手であった。
回避スキルを持つ俺は痴女の連続した鞭の攻撃を簡単に避けまくった。
そして痴女の体力が尽きたところで懐に飛び込み、喉元に剣を突き付けて勝利を宣言した。
おわり。
……こんな感じで一瞬だった。
あっけねえよなぁ。
一撃も加えられなかった痴女は泣きそうな顔で逃げ帰っていった。
まあ、これでもう変な言いがかりはつけてこないだろう。
ふう、やれやれ。まったく、余計なことに体力と時間を使ってしまった。
金を受け取ったらすぐ依頼を探して出立するつもりだったのに。
「ご主人様、本当に強かったんですね……。Bランク冒険者をあんな簡単に」
「だって俺はAランク冒険者だよ?」
昨日なったばかりだけど。
「そ、そうでしたね」
「俺のことより、今日はこれからが本番だぞ」
「は、はい!」
俺たちは門を抜けて森に向かった。
休憩しつつ歩いて数時間。森の浅いところで散策を始める。
「いいか、俺が最初に弱らせるから止めはお前が刺すんだぞ」
「わかりました……」
ベルナデットはショートソードを握りしめて不安そうに答えた。
怯えてるみたいだけど大丈夫かな。
今回の依頼内容は初級魔物であるジャッカロープという角の生えたウサギの素材をいくつか手に入れること。
成功報酬は少ないが目的は金じゃない。
ベルナデットを戦いに慣れさせ、魔物を斬ることへの恐れをなくすことが狙いだ。
ターゲットである角の生えたウサギを発見した。
……デカいな。牛と同じくらいの大きさじゃないか?
表情は凶悪でブサイク。これならあんまり躊躇わずに済みそう。
もふもふで可愛かったらどうしようと思ってたんだよ。
『ブモオォオォォォォ――ッ!』
「ベルナデット。俺が呼ぶまでそこで大人しくしてろよ」
コクコク頷くベルナデットを置いて俺はジャッカロープに飛びかっていく。
今回は剣を用いた接近戦でいく。
幼い子供に生き物を斬らせようとしているのに自分だけ魔法で楽をしては示しがつかん。
俺も覚悟を持って戦おう。自らの手で生き物を殺す感触をこの身に刻むのだ。
「どりゃあああああ!」
スパーンッと素材の一つである角を根元からぶった切る。
『ピギィィィィ――ッ!』
剣術スキルを使い、洗練された動作でザクザク傷を負わせていく。
残酷なことだとは思うが、すまんな。弱らせないとベルナデットが危ないんだ。
魔法と違い、生きている肉を切り裂く嫌な感覚が手に残る。
ジャッカロープの血が吹き出して森の地面を赤く濡らしていった。
殺戮の匂いが辺りに広がっていく。
『ピギッ……ピギッ……』
ほとんど動けなくなるまで弱らせ、ベルナデットのほうを向く。
「出番だ」
「ひぐっ……ううぅ……」
涙と鼻水を流してガタガタ震えていた。
……これ、PTSDとかにならんだろうか。
もう少し訓練させてから臨むべきだったか?
「やっぱり止めとくか?」
「……や、やりばぁすっ! うばあああああぁ――っ!」
ベルナデットは泣き叫びながらジャッカロープに剣を突き刺した。
やる気あるな。だったら俺も厳しくいこう。
「刃の通りが甘い。死んでないぞ。もう一回!」
「ふぐう……」
「生きるために戦え! 死にたくないなら心を強く持て! 奴隷から自由になりたきゃ敵をぶっ倒せ!」
「あああああああああ――ッ!」
ベルナデットは涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながらジャッカロープに何度も剣を突き刺していったのだった。
その後の狩りは順調だった。
俺が弱らせてベルナデットが息の根を止める。
半ば作業めいた連携で次々と素材を回収していった。
ただ、トラブルが一回ほどあった。
まあ、ちょっとしたやつだったけど。
そのトラブルとは。
『ピギャアアアアア――ッ!』
ベルナデットと交代した途端、十分弱らせたはずだった何体目かのジャッカロープが最後の力を振り絞って暴れ出したのだ。
即座に俺が割って入り、首をスパッと斬り落としたことで大事には至らなかったが、あれは肝が冷えた。
「危なかったな。大丈夫だったか?」
「あ、ありがとうございました……」
助けた直後のベルナデットは腰を抜かしたまま静かに頷いていた。
恩を感じてトクンときたか?
そんなわけねえか。
自作自演もいいところだし。
俺の詰めが甘かっただけだもんな。
すまぬ。
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