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『勇者伝』編

第154話『落合蓮爾』

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「おーい、そこの集団! ちょっと待った!」

 ザッザッザッと砂埃を巻き上げてニコルコに接近中の集団に声をかける。
 報告通り、数百人のうちのほとんどは若い女性のようだ。
 先頭を歩く数人が武装をしていて、男はそこにいる何人かだけっぽい。

 やはり不可解な集団だ……。

「あなた何者よ! どこから現れたの!?」

 先頭の一団にいた女魔道士が杖をこちらに向けてきた。
 金髪碧眼で耳の長い美少女だった。
 まるでエルフみたいな外見だな。

「名乗らないなら、我がエルフ族に伝わる魔法をお見舞いするわよ!」

 本当にエルフだった。
 ファンタジー世界定番の美形種族である。
 そういえば俺、何気にエルフに会うの初めてじゃね? 

 定番の種族なのに。

「なんで黙っているの!? こっちは皆の安全がかかってるの! 早く答えて!」

「…………」

 人の領地に大人数で迫ってきておいて何者だとか早く名乗れとか、そっちが言ってくるのかいと少し引っかかったが(エレンも口は挟んでこないけど憮然とした顔になっている)、口ぶりから極限状態の難民である可能性もあるのでひとまず不問にしておく。

「俺はジロー・ヒョロイカ、ニコルコの地の領主だ。お前らは一体何の集まりだ?」

「あ、領主だったの……」

 エルフ女はホッとした表情になって杖を下ろした。
 警戒は解いてくれたらしい。
 でも、そっちは名乗らないの……?

「あれ? あなたは確か変なチートを貰ってたおじさんですか?」

 ハァン? おじさんだとぅ?
 先頭集団からボーイソプラノの声が響く。
 俺はまじまじと声の主を見た。

「ん? お前は――」

 旅装束のローブを纏った小柄で童顔な少年がそこにいた。

 それは神様から弓の才能を貰っていた勇者――マッシュルームカットの中学生だった。





「僕は落合蓮爾おちあいはすみといいます」

「俺は広岡二郎だ。こっちじゃさっき名乗ったジロー・ヒョロイカって言われてる」

 町に移動しながら互いに名乗り合う。
 300人の軍勢は何組かに別れて入場してもらうことにした。
 一気に入って来られたら町が混乱するからね。

「あのう、ヒョロイカって……どうしてそうなったんです?」

「…………」

 マッシュ中学生こと蓮爾――ハスミが困惑した様子で訊いてきた。

 今さらすぎて懐かしさすら覚える疑問だわ。

「発音の問題だから、俺からは何とも言えないんだよなぁ」

「はあ……?」

「まあ、そういうことだ」

「えーと、あの変な空間で会って以来ですから、随分と久しぶりですね?」

 意味がわからなかったのだろう、ハスミは話題を変えてきた。

 こっちはたびたび噂を聞いてたからそこまで久しい実感はないけど、神に送り出されたときが最後なら一年ぶりくらいの再会なんだよな。

 ああ、異世界に来てもうそんなになるのか……。
 俺としてはあっという間で、ほんの少し前みたいな感覚なんだが。
 二十代も半ばを越えると一年経つのが早すぎてマジでつらい。

「お前はなんでニコルコに? ここはハルン公国の領土だぞ? あんなに大勢引き連れてなぜ他国まで来たんだ?」

「ああ、はい……それはですね、彼女たちは僕が救った元奴隷なんですけど……あ、僕は異世界の奴隷制度をなくすために奴隷を解放してるんですけどね?」

「それは噂で聞いてるよ」

 やっぱり、あの軍団は話に聞いていた元奴隷たちか。こいつは奴隷を解放することに一生懸命で魔王軍討伐が疎かになり、さらに彼女たちを養うためにひっ迫した金銭的状況に陥ってるって話だけど。

「だったら話は早いです! 彼女たちは奴隷から解放されても頼れる身内がいなくて帰るところがない人たちなんですよ!」

 俺の疑念をよそに、ハスミは目を輝かせて興奮気味に語り出す。

「僕は彼女たちが幸せに暮らせる土地を探していたんです。けど、なかなか相応しいと思える場所が見つからなくて……でもそんなとき、ニコルコという領地は開拓中で移住者を積極的に受け入れていると耳にしたんです」

「ああ……」

 前にバルバトスが言っていた台詞を思い出す。

『そのうち大勢でニコルコに押しかけて来るかもしれんぞ……』

 マジで来ちゃったなぁ……。
 あいつが口にしたから引き寄せられてきたんじゃないだろうか?
 いわゆる言霊ってやつ?

 まあ、領民を増やして領地を大きくしたいって展望はあるから人を連れてきてくれたのは喜ぶべきなんだろうけど。

 ただ、奴隷を買いすぎることに苦言を呈したシルバリオンを追い出したり、国から金をせびって奴隷を買っている前情報を知ってると……。

 正直、素直に歓迎していいのか難しい。

「それにしても……魔王を倒した英雄が治める領地とは聞いてましたが、まさか勇者のあなただったとは思いませんでした。どうしてそんなことになってるんです? あなたは冒険者上がりの英雄じゃなくて、れっきとした召喚された勇者ですよね?」

「まあ、そこはな? いろいろあったんだよ」

 まだ詳細を話していい関係とも思えず俺は軽く流すことにした。

 いろいろって便利な言葉だねぇ。

「あなたも勇者って本当なの?」

 それまで黙していたエルフ少女が口を開いてきた。

「ああ、そうだよ」

「フランソワ、この人は僕と同じで神様に力を貰って異世界に来たんだ。けど、この人の力は何かヘンテコで使えなさそうな名前のやつだったんだよね……」

「ふうん……。じゃあ、やっぱりハスミが一番すごいのね!」

 思い出したが、こいつも全マシをバカにしてたんだった。

 というか、勇者でバカにしてなかったやつがいなかった。




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