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『領地経営』編

第107話『オットナリー・ネイバーフッド伯爵2』

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◆◆◆◆◆


「はあ……」

 ニコルコに向かう馬車の中。
 ネイバーフッド伯爵は、これからやらなければならないことを考えて気を重くしていた。
 いっそ、本当にヒョロイカが反逆を企てていてくれればと彼は思う。

 そうすれば自分はただ事実を報告したというだけで済み、すべてが露見したところで痛くも痒くもない立場でいられるのに。

「ふう……」

 悩んでいるせいか、今日はいつもより馬車の揺れが気にならない。
 揺れが少ないのはニコルコの内政官であるジャードの政策によって街道が整備されていたおかげなのだが。
 それをネイバーフッド伯爵が知るのはもう少し後のことになる。




 ネイバーフッド伯爵を乗せた馬車は町の入り口に近づいていた。

「ん? あれは……!?」

 ネイバーフッド伯爵が何気なく外を眺めると、ある光景が視界に入ってきた。
 具体的に言えば、黒髪黒目の人物が町の入り口に立っている光景である。

「あ、あの容姿はまさか……! おい、あの男の前で馬車を止めろ!」

 ネイバーフッド伯爵は御者に告げる。
 そして馬車が停止すると、騎士の確認も待たずに馬車を降りた。

「貴殿はもしや、ジロー・ヒョロイカ辺境伯でございますか……?」

「はい、私がジロー・ヒョロイカです」

 ネイバーフッド伯爵が訊ねると、黒髪黒目の男はあっさりそう答えた。

(なんでここにヒョロイカが!?)

 当主が自ら町の入り口まで出張って爵位の劣る相手を待ち構えている。
 後ろめたい部分のあるネイバーフッド伯爵は、この応対に様々な憶測を展開させてしまった。

(まさか、私が訪れた本当の理由を把握しているのか!? それで監視するために……?)

 妄想を……逞しく拡げてしまった。


「我が領地へよくぞいらっしゃいました。歓迎いたしますよ、ネイ、ネイ……?」


 ジローがネイバーフッド伯爵の名前を思い出せずにいた、そのとき――


(いや、ありえん! こやつに情報を得る手段などないはず……!)


 ネイバーフッド伯爵はとても焦っていて、それどころではなかったのだった。






「あーその、ヒョロイカ殿? なぜ貴殿が自ら町の入り口で待っておられたのですか……?」

 落ち着きを僅かに取り戻したネイバーフッド伯爵は入り口にいた真意をヒョロイカに訊ねた。
 すると、

「ほら、せっかくですし、町を案内しながら屋敷までお連れしたいなと。いろいろ気になることもあるんじゃないかと思いまして……ね?」

 ヒョロイカは不敵に微笑みながらそう答えた。

「き、気になることなど私は……」

 ネイバーフッド伯爵は、発展した町を見れば変化が気になるだろうという意味でしか言われていない言葉を『調べに来たのはわかってるぞ』……と、そう仄めかされたのだと――

 そんなふうに深読みしてしまった!


(くっ、どこで情報が漏れた……? それとも私が陛下に嵌められたのか……!?)


 こうなると人間はどこまでも際限なく他者を疑うようになるのだ。

「迷惑だったでしょうか?」

 白々しくヒョロイカが言う。

「い、いえ、そんなことは断じて……ありがたき心遣いに感謝いたします……」

 ネイバーフッド伯爵は俯いて恐怖に身震いしながらそう返すのだった。


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