上 下
106 / 169
『領地経営』編

第105話『な、ななな……!』

しおりを挟む






「えーと、こちらが町のメインストリートになっていまーす!」

 俺はネイバーフッド伯爵を案内しながら改めて町の様子を見渡す。
 
 ニコルコも俺が初めて来たときと比べるとだいぶ変わったよなぁ……。

 木造の家が乱雑に建っていた町並みは区画整理されてスタイリッシュな石造りの家が並ぶ住宅街となり、外からの来訪者の増加で人の往来も多くなっている。

 まあ、まだ開発の進んでない区画も残ってるし完全な都会とはいえないけど。
 賑やかさは以前と段違い。
 中心部分に関してはザ・田舎の村だった頃の面影はすっかり失せていた。

「領民が身綺麗すぎる……」

 町の景色を見ていたネイバーフッド伯爵が第一声を発する。
 ふーん? てっきり建物とか人通りの多さに言及してくると思ったけど。
 そこが一番気になったのか。

「まあ、彼らはほぼ毎日風呂に入ってますので」

「ふ、風呂に毎日ですと? 平民が? 一体どうやって……」

「実は少し前に水道関係のインフラを町全体に整えたんですよ。そのときに領民ならタダで入れる公衆浴場を作りまして」

「無料の公衆浴場? そんなものを平民にわざわざ作ってやったのですか!?」

 ネイバーフッド伯爵が驚くのも無理はない。

 でも、衛生環境を整えるのは身銭を切ってでも必須だったからな。

「あ、せっかくなら伯爵も入っていきます? 聖水の風呂なんで旅の疲れも取れますよ?」

 ちょうど銭湯が見える辺りまできたし。
 実体験してもらえば有意義さを理解してもらえるのではないだろうか?
 けど、ネイバーフッド伯爵は貴族だ。

 平民の前で裸体を晒すのは抵抗があるかもしれない。
 俺の屋敷にある浴場のほうがいいか?
 俺は雰囲気が好きで町の銭湯にも時々行くんだけど。

「せ、聖水!? あれは大聖国のものでは……? それもかなり貴重なはず……」

「あーなんかそうらしいっすね? でも、ニコルコの水回りはトイレから何まで全部聖水なんですよ」

 ウチの領民は聖水で日常的に身体や髪をジャバジャバ洗っている。

 だからその辺を歩いてるおばちゃんでも世界が嫉妬する髪だし玉のお肌というプチホラー。

 洗濯もそれでやってるから汚れもゴッソリ落ちて柔らかーい、柔軟剤も使ったのか? ってレベルで衣類が綺麗になる。

「トイレに……水……? そういえば汚物が道端にまったく落ちていないが……」

 ネイバーフッド伯爵は困惑の表情で周囲をキョロキョロする。

「はい、町の住居はすべて水洗トイレに改修しました」

「町中のトイレが水洗!? バカな! 連邦の首都じゃあるまいし! いや、そもそも聖水をそんなものに使うなんて――」

 うーん。
 友好を深めて親しみを持ってもらうためのガイドだけど。
 今のところただ驚かせてるだけだな……。

 これでは逆に警戒されてしまいそうだ。
 ジャードは何も口を挟んでくるつもりがなさそうだし。
 ここは自力で打開策を探し出すしかない。

「あの、ネイ――」

「な、ななな……!」

 突如、ネイバーフッド伯爵が慄きの声を上げて後ずさりを始めた。
 なんだこのおっさん。
 驚きすぎていよいよ気が触れたか?

 いや、違った。

 散歩中と思しき猫たちがのっしのっしと道の向こうから歩いてきていたのだった。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

失恋

涼雅
BL
何も言っていないのに

異世界に転生したので、とりあえず戦闘メイドを育てます。

佐々木サイ
ファンタジー
異世界の辺境貴族の長男として転生した主人公は、前世で何をしていたかすら思い出せない。 次期領主の最有力候補になるが、領地経営なんてした事ないし、災害級の魔法が放てるわけでもない・・・・・・ ならばっ! 異世界に転生したので、頼れる相棒と共に、仲間や家族と共に成り上がれっ! 実はこっそりカクヨムでも公開していたり・・・・・・

婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています

葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。 そこはど田舎だった。 住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。 レコンティーニ王国は猫に優しい国です。 小説家になろう様にも掲載してます。

転生幼女。神獣と王子と、最強のおじさん傭兵団の中で生きる。

餡子・ロ・モティ
ファンタジー
ご連絡!  4巻発売にともない、7/27~28に177話までがレンタル版に切り替え予定です。  無料のWEB版はそれまでにお読みいただければと思います。  日程に余裕なく申し訳ありませんm(__)m ※おかげさまで小説版4巻もまもなく発売(7月末ごろ)! ありがとうございますm(__)m ※コミカライズも絶賛連載中! よろしくどうぞ<(_ _)> ~~~ ~~ ~~~  織宮優乃は、目が覚めると異世界にいた。  なぜか身体は幼女になっているけれど、何気なく出会った神獣には溺愛され、保護してくれた筋肉紳士なおじさん達も親切で気の良い人々だった。  優乃は流れでおじさんたちの部隊で生活することになる。  しかしそのおじさん達、実は複数の国家から騎士爵を賜るような凄腕で。  それどころか、表向きはただの傭兵団の一部隊のはずなのに、実は裏で各国の王室とも直接繋がっているような最強の特殊傭兵部隊だった。  彼らの隊には大国の一級王子たちまでもが御忍びで参加している始末。  おじさん、王子、神獣たち、周囲の人々に溺愛されながらも、波乱万丈な冒険とちょっとおかしな日常を平常心で生きぬいてゆく女性の物語。

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

今日で都合の良い嫁は辞めます!後は家族で仲良くしてください!

ユウ
恋愛
三年前、夫の願いにより義両親との同居を求められた私はは悩みながらも同意した。 苦労すると周りから止められながらも受け入れたけれど、待っていたのは我慢を強いられる日々だった。 それでもなんとななれ始めたのだが、 目下の悩みは子供がなかなか授からない事だった。 そんなある日、義姉が里帰りをするようになり、生活は一変した。 義姉は子供を私に預け、育児を丸投げをするようになった。 仕事と家事と育児すべてをこなすのが困難になった夫に助けを求めるも。 「子供一人ぐらい楽勝だろ」 夫はリサに残酷な事を言葉を投げ。 「家族なんだから助けてあげないと」 「家族なんだから助けあうべきだ」 夫のみならず、義両親までもリサの味方をすることなく行動はエスカレートする。 「仕事を少し休んでくれる?娘が旅行にいきたいそうだから」 「あの子は大変なんだ」 「母親ならできて当然よ」 シンパシー家は私が黙っていることをいいことに育児をすべて丸投げさせ、義姉を大事にするあまり家族の団欒から外され、我慢できなくなり夫と口論となる。 その末に。 「母性がなさすぎるよ!家族なんだから協力すべきだろ」 この言葉でもう無理だと思った私は決断をした。

妹に醜くなったと婚約者を押し付けられたのに、今さら返せと言われても

亜綺羅もも
恋愛
クリスティーナ・デロリアスは妹のエルリーン・デロリアスに辛い目に遭わされ続けてきた。 両親もエルリーンに同調し、クリスティーナをぞんざいな扱いをしてきた。 ある日、エルリーンの婚約者であるヴァンニール・ルズウェアーが大火傷を負い、醜い姿となってしまったらしく、エルリーンはその事実に彼を捨てることを決める。 代わりにクリスティーナを押し付ける形で婚約を無かったことにしようとする。 そしてクリスティーナとヴァンニールは出逢い、お互いに惹かれていくのであった。

条件付きチート『吸収』でのんびり冒険者ライフ!

ヒビキ タクト
ファンタジー
旧題:異世界転生 ~条件付きスキル・スキル吸収を駆使し、冒険者から成り上がれ~ 平凡な人生にガンと宣告された男が異世界に転生する。異世界神により特典(条件付きスキルと便利なスキル)をもらい異世界アダムスに転生し、子爵家の三男が冒険者となり成り上がるお話。   スキルや魔法を駆使し、奴隷や従魔と一緒に楽しく過ごしていく。そこには困難も…。   従魔ハクのモフモフは見所。週に4~5話は更新していきたいと思いますので、是非楽しく読んでいただければ幸いです♪   異世界小説を沢山読んできた中で自分だったらこうしたいと言う作品にしております。

処理中です...