90 / 169
『領地経営』編
第89話『ニホンシュ』
しおりを挟む「ところで、あえてニコルコで職員やろうと思ったのは理由あんの?」
バルバトスがニコルコでの求人を見つけてと言っていたのが気になったので訊いてみた。
「うむ、お前があの戦いで剣を貸した狼獣人の女がいただろう……」
「ああ、神獣になってヒャッハーしてたねーちゃんのこと?」
奴隷商で初めて会ったときにオラつかれたから割と印象に残ってる。
神獣になった効果なのか、戦いの後で奴隷の首輪が外れて自由になったんだよね。
「彼女は……フェリシテはオレの昔のパーティメンバーでな……。かつて魔王と戦った時に姿を跡形もなく消されたから、てっきり殺されたとばかり思っていたのだが……。実は転移スキルで違う場所に飛ばされていただけだったようでな……」
飛ばされた先で彼女はいろいろ騙されて奴隷となってしまい、巡り巡ってウレアの奴隷商で売られていたそうな。
「フェリシテが生きていたのなら、他の仲間も同じように飛ばされただけで生きているかもしれない……。だから……様々な国と繋がったニコルコのギルドで働いていれば残りの仲間たちの行方も掴めるのではないかと……そう考えたのだ……」
なるほど、バルバトスはかつての仲間を探そうとしてるのか。
けど、情報が入ってくるかは不確定だろ?
ただ待っているだけでいいのか?
「なに、もともと死んだと思って諦めていたんだ……。ゆっくりと事務仕事をしながら気長に待つさ……。切羽詰まっているわけでもないからな……巡り合わせがよければいずれ会える」
こういう、ある意味ドライな余裕は常に生死を懸けている冒険者特有の価値観なのだろうか?
まあ、ニコルコはそのうちもっと多くの人が行き来するようになる……いや、させるつもりだ。
そうなったら彼の願いも達せられる日がくるかもしれないな。
「そっか、なんにせよ。バルバトスもニコルコに住むんだろ? これからよろしくな?」
「ああ、よろしく頼む……」
彼がマスターなら冒険者ギルドとも良好な関係を築いていけるだろう。
ギルドの設置でまた一歩領地改革が進展した。
溜まってた魔獣の死体も一気に換金できそうで助かる。
ジャードはいい仕事してくれたぜ。
「そうだ、バルバトス、せっかく来たんだし一杯呑んで行けよ。実はニコルコの特産品にする予定の酒があるんだ」
「むっ……酒か……? 興味はあるが、今日は仕事で来たのだが……」
「領主に挨拶に来たんだろ? なら、誘われて酒を飲むのは普通だって!」
「そ、そういうものだったのか……!?」
バルバトスは目から鱗とばかりに唸った。
これは合意とみてよろしいですね?
「ジャード、メイドさんに日本酒を持ってくるよう言ってくれるか?」
ずっと黙っていて空気だったジャードにも話を振って、ハブられてる感じにしない俺の優しさが炸裂する。
そういう気遣いはいらない?
まあまあ、どうせならお前も一緒に飲もうぜ?
他に仕事があるから遠慮しとく?
あ、そうっすか……。
メイドさんが日本酒を持ってきた。
容器は領地の職人が作った壺です。
魔獣の肉で作ったソーセージをツマミで用意して準備はオーケー。
日の明るいうちから飲む酒は背徳感があって格別な味がするよね。
「ほう、いい匂いのする酒だな……。色も水のように澄んでいる……」
「どうだ? 美味いか?」
「ああ、飲みやすくて後味もすっきりしている……不思議な風味だが素晴らしい……」
口の中でモゴモゴ味を楽しんでいるバルバトス。
気に入ってもらえて嬉しいね。
「これはニホンシュっていう、ニコルコに古くから伝わってた米で作る酒でさ。伝統があるから惰性で作ってたらしいんだけど、そんなに美味しくないって話だったんだ。けど、使う水をその辺の井戸水から俺のスキルで出した聖水にしたらメッチャ美味くなってよ」
あの日本酒と同じなら水次第で変わるんじゃないかと思ったのが正解だった。
最初にニホンシュを伝えたヤツが作ったときはすげえ美味かったって話も残ってたし。
多分、そいつは日本から転移してきたヤツで水にもこだわって作ってたんだろうな。
ひょっとしたら高いレベルの水魔法が使えたりしたのかもしれない。
「ぶっ……! ちょっと待て……では、この酒は聖水を使っているのか……!?」
「あ、聖水って言ってもアッチの意味じゃないぞ?」
「それはわかっているが……。そんな勘違いをするやつがいるのか……?」
うちの領地のシスターとおっさんはしてたよ。
「お前の聖水は魔王を撃退する純度のものだろう……? そのレベルの聖水は恐らく伝説級のレアアイテムになる……。それで製造された酒となれば一体どれほどの値がつくのか……」
バルバトスは震えながらコップに入っている日本酒を眺める。
「今飲んでるのはともかく、実際に売るのは俺が出したのより純度が落ちる聖水で作るよ?」
「いや、聖水を使ってる時点で値段はどちらにせよ相当なものになるはずだぞ……」
「そうなの? そこら辺はジャードに任せてるからよくわかんねぇや」
「こんなとてつもないものを気軽に振る舞われるとは思ってなかった……。あの内政官が渋い顔をしていたのも納得だな……」
あいつは大体いつもあんな感じの顔だよ。
そんなのを気にするなんてバルバトスは見かけによらず繊細ですな。
ま、再会を祝してパァーっと行こうや。
バルバトスは複雑な表情をしていたが、やがて諦めたように溜息をついてグイッとコップの中身を飲み干した。
おお、豪快だ。けど、なんかヤケクソになってない?
そして、
この後、二人でめちゃくちゃ酒盛りした。
けど、聖水仕立てだから二日酔いにならないんだぜ。
すごいだろ?
ま、回復魔法があればすぐ治せるから俺にはそこまで意味のある効果じゃないけど。
0
お気に入りに追加
4,222
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)
SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。
しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。
相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。
そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。
無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記
スィグトーネ
ファンタジー
ワンルームの安アパートに住み、非正規で給料は少なく、彼女いない歴35年=実年齢。
そんな負け組を絵にかいたような青年【海渡麒喜(かいときき)】は、仕事を終えてぐっすりと眠っていた。
まどろみの中を意識が彷徨うなか、女性の声が聞こえてくる。
全身からは、滝のような汗が流れていたが、彼はまだ自分の身に起こっている危機を知らない。
間もなく彼は金縛りに遭うと……その後の人生を大きく変えようとしていた。
※この物語の挿絵は【AIイラスト】さんで作成したモノを使っています
※この物語は、暴力的・性的な表現が含まれています。特に外出先等でご覧になる場合は、ご注意頂きますようお願い致します。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ぽっちゃり無双 ~まんまる女子、『暴食』のチートスキルで最強&飯テロ異世界生活を満喫しちゃう!~
空戯K
ファンタジー
ごく普通のぽっちゃり女子高生、牧 心寧(まきころね)はチートスキルを与えられ、異世界で目を覚ました。
有するスキルは、『暴食の魔王』。
その能力は、“食べたカロリーを魔力に変換できる”というものだった。
強大なチートスキルだが、コロネはある裏技に気づいてしまう。
「これってつまり、適当に大魔法を撃つだけでカロリー帳消しで好きなもの食べ放題ってこと!?」
そう。
このチートスキルの真価は新たな『ゼロカロリー理論』であること!
毎日がチートデーと化したコロネは、気ままに無双しつつ各地の異世界グルメを堪能しまくる!
さらに、食に溺れる生活を楽しんでいたコロネは、次第に自らの料理を提供したい思いが膨らんできて――
「日本の激ウマ料理も、異世界のド級ファンタジー飯も両方食べまくってやるぞぉおおおおおおおお!!」
コロネを中心に異世界がグルメに染め上げられていく!
ぽっちゃり×無双×グルメの異世界ファンタジー開幕!
※基本的に主人公は少しずつ太っていきます。
※45話からもふもふ登場!!
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~
ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」
ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。
理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。
追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。
そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。
一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。
宮廷魔術師団長は知らなかった。
クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。
そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。
「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。
これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。
ーーーーーー
ーーー
※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。
見つけた際はご報告いただけますと幸いです……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる