87 / 169
『領地経営』編
第86話『湖』
しおりを挟む◇◇◇◇◇
ケイモノ……けもの隊の参加で騎士の人数が一気に増え、彼女たちの宿舎を増設したりと慌ただしい日々が続く。
本日は水回りの工事をする職人を連れてきた連邦の商人、ジゼル・ウレザムと水道インフラに使う水源を二人で下見に行く予定が入っていた。
いつも俺の護衛をしたがるベルナデットはイレーヌを始めとする獣人騎士たちに囲まれていたので置いてきた。
後で恨みがましい目で見られるかな?
でも、フレンズとの時間は大事にしてほしいからさ。
悪意があってのけものにしたわけじゃないからわかってくれるよね?
「ブラックドラゴンから聞いたんだが、水源に使えそうな湖が魔境にあるらしいんだよ」
町の外れをジゼルと二人で歩きながら説明する。
「なるほど……では、行きましょう、はいっ!」
「…………?」
ジゼルが両腕を拡げて俺を見つめていた。
果たして彼女は何を求めているのか。
「ヒョロイカ様、どうされたのです? 早く連れてってください」
不思議そうに訊ねられる。不思議なのは君の行動ですよ。
「ヒョロイカ様がスキルで運んで下さるのでは?」
「いや、俺も場所わかんないから。ブラックドラゴンの背中に乗せてってもらうんだよ」
「あ、そうなのですか……」
少しだけ残念そうに答えるジゼル。
彼女は意外と甘えん坊なんだろうか?
誰かに抱えられて移動することに慣れているような振る舞いだったが。
ジゼルの慕うお兄様というやつが甘やかしているのかもしれんな。
俺はそういうとこは厳しくする男だぞ。
『じろぉ、お待たせ~』
しばらくすると、翼をはためかせたブラックドラゴンが上空から舞い降りてきた。
巨大怪獣の来襲だけど領民たちはすでに慣れたもので、もはやノーリアクションです。
みんなとっても逞しくなったね。
さあ、黒の龍の背に乗って水場を目指そうか。
ドラゴンに騎乗して空の旅。
魔境の森の上をビュンビュン飛んでるよ。
「近くで見るとさらに迫力がありますねぇ……」
魔境にそびえ立つ高さ1000メートル越えの塔を見てジゼルが呟く。
鉱山を譲ってもらった代わりに俺が用意したブラックドラゴンの新居だった。
その全体像はさながら大自然に屹立する巨大な墓石といったところ。
高さだけなら同じものを一瞬で造れたのだが、安全性を考慮して強度重視で造ったせいで完成まで一か月以上も費やしてしまった。
だが、おかげでブラックドラゴンが体当たりをしてもブレスをぶつけてもビクともしない無敵の建築物が完成していた。
「どや、すごいやろ?」
「はい。でも、近隣諸国で噂になってますよ。アレは魔王軍が作り出した新兵器なのかと」
「え、そんな騒ぎになってんの? つか、なんで他国に知られてんの?」
「それは周辺の土地からハッキリ見えますから……」
「あっ」
よく考えたら大きさ的に遠くでも見えるの当たり前じゃん。
うっかりしとったわ。
てへへw
「そのうち各国から調査隊が派遣されてくるかもしれませんよ」
うえ、それは面倒くさすぎる……。
もし来たらどうやって追い返せばいいんだろう。
担当者が不在ですって言えば納得してくれるかな。
『なになに? 新しい家にお客さんが来てくれるの?』
ちげーよバカ。
まったく、マイペースなトカゲ野郎だ。
本当にこいつは困ったやつである。
それから数分後、目的地に着いた。
『ここが湖だよ!』
案内されたのはハッと息を呑んでしまうほど透き通った水で満たされた美しい湖。
やべえ、水面がキラキラ輝いてる。
見ていて心洗われますわぁ……。
「これは、どうやら聖水のようですね?」
ジゼルが指先を水面につけ、ペロッと舐めて言った。
へえ、聖水の湖ってすげえな。
聖水には浄化作用があるから便器の掃除が楽に済みそうだ。
実装できたら他国にない有能なトイレが完成するんじゃね?
「いいところだな。お前もよく来るの?」
『ぼくは滅多に来ないよ。ここに棲んでるオバサンが苦手なんだよね』
「オバサン?」
「オバサンってなんですか?」
ドラゴンの言葉がわからないジゼルが俺に訊いてくる。
「いや、なんかここにはオバサンが棲んでるんだって」
「聖水の湖に棲んでいる……? それってもしかして――」
そして、目の前でザババッと湖の水が吹き上がった。
0
お気に入りに追加
4,222
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
異世界定食屋 八百万の日替わり定食日記 ー素人料理はじめましたー 幻想食材シリーズ
夜刀神一輝
ファンタジー
異世界定食屋 八百万 -素人料理はじめましたー
八意斗真、田舎から便利な都会に出る人が多い中、都会の生活に疲れ、田舎の定食屋をほぼただ同然で借りて生活する。
田舎の中でも端っこにある、この店、来るのは定期的に食材を注文する配達員が来ること以外人はほとんど来ない、そのはずだった。
でかい厨房で自分のご飯を作っていると、店の外に人影が?こんな田舎に人影?まさか物の怪か?と思い開けてみると、そこには人が、しかもけもみみ、コスプレじゃなく本物っぽい!?
どういう原理か知らないが、異世界の何処かの国?の端っこに俺の店は繋がっているみたいだ。
だからどうしたと、俺は引きこもり、生活をしているのだが、料理を作ると、その匂いに釣られて人が一人二人とちらほら、しょうがないから、そいつらの分も作ってやっていると、いつの間にか、料理の店と勘違いされる事に、料理人でもないので大した料理は作れないのだが・・・。
そんな主人公が時には、異世界の食材を使い、めんどくさい時はインスタント食品までが飛び交う、そんな素人料理屋、八百万、異世界人に急かされ、渋々開店!?
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
【書籍化決定】神様お願い!〜神様のトバッチリを受けた定年おっさんは異世界に転生して心穏やかにスローライフを送りたい〜
きのこのこ
ファンタジー
突然白い発光体の強い光を浴びせられ異世界転移?した俺事、石原那由多(55)は安住の地を求めて異世界を冒険する…?
え?謎の子供の体?謎の都市?魔法?剣?魔獣??何それ美味しいの??
俺は心穏やかに過ごしたいだけなんだ!
____________________________________________
突然謎の白い発光体の強い光を浴びせられ強制的に魂だけで異世界転移した石原那由多(55)は、よちよち捨て子幼児の身体に入っちゃった!
那由多は左眼に居座っている神様のカケラのツクヨミを頼りに異世界で生きていく。
しかし左眼の相棒、ツクヨミの暴走を阻止できず、チート?な棲家を得て、チート?能力を次々開花させ異世界をイージーモードで過ごす那由多。「こいつ《ツクヨミ》は勝手に俺の記憶を見るプライバシークラッシャーな奴なんだ!」
そんな異世界は優しさで満ち溢れていた(え?本当に?)
呪われてもっふもふになっちゃったママン(産みの親)と御親戚一行様(やっとこ呪いがどうにか出来そう?!)に、異世界のめくるめくグルメ(やっと片鱗が見えて作者も安心)でも突然真夜中に食べたくなっちゃう日本食も完全完備(どこに?!)!異世界日本発福利厚生は完璧(ばっちり)です!(うまい話ほど裏がある!)
謎のアイテム御朱印帳を胸に(え?)今日も平穏?無事に那由多は異世界で日々を暮らします。
※一つの目的にどんどん事を突っ込むのでスローな展開が大丈夫な方向けです。
※他サイト先行にて配信してますが、他サイトと気が付かない程度に微妙に変えてます。
※昭和〜平成の頭ら辺のアレコレ入ってます。わかる方だけアハ体験⭐︎
⭐︎第16回ファンタジー小説大賞にて奨励賞受賞を頂きました!読んで投票して下さった読者様、並びに選考してくださったスタッフ様に御礼申し上げますm(_ _)m今後とも宜しくお願い致します。
ぽっちゃり無双 ~まんまる女子、『暴食』のチートスキルで最強&飯テロ異世界生活を満喫しちゃう!~
空戯K
ファンタジー
ごく普通のぽっちゃり女子高生、牧 心寧(まきころね)はチートスキルを与えられ、異世界で目を覚ました。
有するスキルは、『暴食の魔王』。
その能力は、“食べたカロリーを魔力に変換できる”というものだった。
強大なチートスキルだが、コロネはある裏技に気づいてしまう。
「これってつまり、適当に大魔法を撃つだけでカロリー帳消しで好きなもの食べ放題ってこと!?」
そう。
このチートスキルの真価は新たな『ゼロカロリー理論』であること!
毎日がチートデーと化したコロネは、気ままに無双しつつ各地の異世界グルメを堪能しまくる!
さらに、食に溺れる生活を楽しんでいたコロネは、次第に自らの料理を提供したい思いが膨らんできて――
「日本の激ウマ料理も、異世界のド級ファンタジー飯も両方食べまくってやるぞぉおおおおおおおお!!」
コロネを中心に異世界がグルメに染め上げられていく!
ぽっちゃり×無双×グルメの異世界ファンタジー開幕!
※基本的に主人公は少しずつ太っていきます。
※45話からもふもふ登場!!
退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話
菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。
そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。
超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。
極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。
生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!?
これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。
死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?
わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。
ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。
しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。
他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。
本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。
贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。
そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。
家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。
ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~
ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」
ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。
理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。
追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。
そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。
一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。
宮廷魔術師団長は知らなかった。
クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。
そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。
「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。
これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。
ーーーーーー
ーーー
※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。
見つけた際はご報告いただけますと幸いです……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる