86 / 169
『領地経営』編
第85話『栄華を誇っていた皇国』
しおりを挟む◇◇◇◇◇
ヘイヘーイ、訊いてきたぜ。
結果からいうと、もうとっくにそんな国はないらしい。
エルブレッヘン皇国は300年~400年くらい前に滅んだ大国ってことだった。
それくらい経ってるならベルナデットが王族の血を引いてても関係ないかな。
今も残ってる国だと厄介な事情が絡んでる可能性もあったが。
すでに消滅してる国ならルーツがそうでしたってだけの話で済むと思う。
恐らく没落後に生き残った先祖がどこかの過程で奴隷身分に落ちたのだろう。
盛者必衰の理をまざまざと見せつけられたようで複雑な気持ちになった。
『じろぉ、みてみて~! 奥にいっぱいあったよ~!』
俺が戻ると両腕に棺を山ほど抱え込んだブラックドラゴンがいた。
うわぁ、マジでいっぱいあるんだけど。
いくつあるんだろ。
ひぃ、ふぅ、みぃ……。
たくさん……?
「ひいいいいいっ! お、おのれ邪悪な黒龍め! ベルナデット様、お逃げください! ここは某が殿となって時間を稼ぎますのでぇっ!」
イレーヌはブラックドラゴンにビビリながら、それでも騎士としての役目を果たすため戦わなくてもいい相手と懸命に戦っていた。
ブラックドラゴンはポカポカと鱗を殴られているが、それを埃でも払ってくれてるのかなぁといった具合でスルーしていた。
必死の形相のイレーヌとの対比がカオスだ……。
殴ってる手が痛そうだし、早く止めてやろう。
ほらほら、大丈夫だから。
あんた、鎧着てるけど武器は持ってないでしょ。
落ち着いて落ち着いて。
ドラゴンが無害であることを説明したらイレーヌは露骨に胡散臭そうな顔になった。
「邪黒龍を手懐けているとは……其方はもしや魔王なのか?」
違うよ? 違うよ? 俺は勇者だよ?
それにブラックドラゴンは話してみたらけっこう茶目っ気のあるいいやつだよ。
話せるの俺だけだけど。
そういえば数百年前にも魔王はいたんだね。
同じやつかな?
違うやつなのかな?
魔王のシステムってどうなってんだろ。
世代交代なのか、復活するのか、新しくそこら辺から生えてくるのか……。
「ジロー様は常識を超越した最強の勇者様なのですよ」
「なるほど、そうなのですね!」
ベルナデットが説得するとイレーヌは驚くほど速やかに納得した。
騎士というのは王族が言ったら何でも信じる生き物らしい。
「あの栄華を誇っていた皇国が滅んだ……か……俄かには信じがたいが……。しかし、王家の血筋であられるベルナデット様が奴隷になってるし……。というか、勇者殿は転移スキルを普通に使ってるし……ドラゴンも手懐けてるし。ありえなくもない……? いや、訳の分からないことだらけだ……ッ!」
皇国の現在を教えると、イレーヌは項垂れてブツブツ言い出した。
やはり相当なショックだったのだろう。
まあ、仕方ないか。
いきなり未来の世界にタイムスリップして自分の国がもうないって言われたらね。
半分くらい俺の行動に関して呟いてた気もするけど。
「これからあんたはどうするんだ?」
「某は……皇国王家に剣を捧げた騎士だ。よって、王家の子孫であられるベルナデット様の傍に置いて頂きたいと思います」
イレーヌが仕えていた主と国は消えてしまった。
騎士だった彼女にとって、それは存在意義を失ったのと同義だろう。
自分の役目を唐突になくした彼女の現状は、勇者パーティを追い出されたジジイ連中と少しだけ似ているかもしれない。
「ジロー様、どうされますか?」
「え? ベルナデットが決めていいぞ?」
「わたしはジロー様の指示に従います。わたしはジロー様の奴隷ですので」
「じゃあ、部下にしてやってくれよ」
「御意」
御意って、どこでそんな単語覚えてきたの?
ジジイ連中の影響だろうか?
まあいいんだけど。
ちょうどベルナデットにも直属の部下をつけようと思ってたところだったし。
騎士の人数も増やしたかったから一石二鳥だね。
しかし、どっかから騎士が来ないかなって思ってたけど、まさか過去から来るとはなぁ……。
その後、残りの騎士たちも順番に棺から解放していった。
いっぱいあったからすごく時間かかったよ。
ブラックドラゴンもなぜか一緒になって見ていたので、騎士が目覚めるたび悲鳴が上がってクソ迷惑でした。
ちなみに中に入っていたのはすべて女性の獣人だった。
イレーヌが率いていたのは女性の獣人部隊だったみたい。
「イレーヌ以下、ケイモノリウス・ヴィルヴィールヴァレンティアン隊105名。エルブレッヘン皇国王家の後継者であられるベルナデット様の指揮下に入ります!」
綺麗に整列して乱れぬ動作でビシッと敬礼する獣人騎士たち。
おお、壮観だなぁ……。
ニコルコの田舎騎士とは練度がまったく違うね。
一挙一動で伝わってきたぜ。
こいつらを見本に既存の騎士たちも励んでもらいたいところだ。
本日の成果。
戦力として、ベルナデット直属の騎士が100人ほど配下に加わった。
ニコルコの騎士っていうよりベルナデットの騎士って感じなのが少し不安だけど……。
ベルナデットを旗印に皇国を再建するとか言い出さないよな?
「ジロー様、その辺りはわたしにお任せください」
「え? あ、うん? そう?」
任せろって、何をどうするんだろう?
よくわからないまま反射的に返事をしてしまったが。
翌日。
「「「「「「「「「「ジロー様ッ! バンザイッ!」」」」」」」」」」
満面の笑みを浮かべたベルナデットと、見事に教育を受けた100余名の騎士がそこにいた。
どうやらベルナデットが一晩でやってくれたらしい……。
ふえぇ、逆に傷口を広げたような気がしてままならないよぉ。
0
お気に入りに追加
4,224
あなたにおすすめの小説
異世界に転生したので、とりあえず戦闘メイドを育てます。
佐々木サイ
ファンタジー
異世界の辺境貴族の長男として転生した主人公は、前世で何をしていたかすら思い出せない。 次期領主の最有力候補になるが、領地経営なんてした事ないし、災害級の魔法が放てるわけでもない・・・・・・ ならばっ! 異世界に転生したので、頼れる相棒と共に、仲間や家族と共に成り上がれっ!
実はこっそりカクヨムでも公開していたり・・・・・・
婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています
葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。
そこはど田舎だった。
住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。
レコンティーニ王国は猫に優しい国です。
小説家になろう様にも掲載してます。
転生幼女。神獣と王子と、最強のおじさん傭兵団の中で生きる。
餡子・ロ・モティ
ファンタジー
ご連絡!
4巻発売にともない、7/27~28に177話までがレンタル版に切り替え予定です。
無料のWEB版はそれまでにお読みいただければと思います。
日程に余裕なく申し訳ありませんm(__)m
※おかげさまで小説版4巻もまもなく発売(7月末ごろ)! ありがとうございますm(__)m
※コミカライズも絶賛連載中! よろしくどうぞ<(_ _)>
~~~ ~~ ~~~
織宮優乃は、目が覚めると異世界にいた。
なぜか身体は幼女になっているけれど、何気なく出会った神獣には溺愛され、保護してくれた筋肉紳士なおじさん達も親切で気の良い人々だった。
優乃は流れでおじさんたちの部隊で生活することになる。
しかしそのおじさん達、実は複数の国家から騎士爵を賜るような凄腕で。
それどころか、表向きはただの傭兵団の一部隊のはずなのに、実は裏で各国の王室とも直接繋がっているような最強の特殊傭兵部隊だった。
彼らの隊には大国の一級王子たちまでもが御忍びで参加している始末。
おじさん、王子、神獣たち、周囲の人々に溺愛されながらも、波乱万丈な冒険とちょっとおかしな日常を平常心で生きぬいてゆく女性の物語。
優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~
日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。
もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。
そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。
誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか?
そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。
今日で都合の良い嫁は辞めます!後は家族で仲良くしてください!
ユウ
恋愛
三年前、夫の願いにより義両親との同居を求められた私はは悩みながらも同意した。
苦労すると周りから止められながらも受け入れたけれど、待っていたのは我慢を強いられる日々だった。
それでもなんとななれ始めたのだが、
目下の悩みは子供がなかなか授からない事だった。
そんなある日、義姉が里帰りをするようになり、生活は一変した。
義姉は子供を私に預け、育児を丸投げをするようになった。
仕事と家事と育児すべてをこなすのが困難になった夫に助けを求めるも。
「子供一人ぐらい楽勝だろ」
夫はリサに残酷な事を言葉を投げ。
「家族なんだから助けてあげないと」
「家族なんだから助けあうべきだ」
夫のみならず、義両親までもリサの味方をすることなく行動はエスカレートする。
「仕事を少し休んでくれる?娘が旅行にいきたいそうだから」
「あの子は大変なんだ」
「母親ならできて当然よ」
シンパシー家は私が黙っていることをいいことに育児をすべて丸投げさせ、義姉を大事にするあまり家族の団欒から外され、我慢できなくなり夫と口論となる。
その末に。
「母性がなさすぎるよ!家族なんだから協力すべきだろ」
この言葉でもう無理だと思った私は決断をした。
妹に醜くなったと婚約者を押し付けられたのに、今さら返せと言われても
亜綺羅もも
恋愛
クリスティーナ・デロリアスは妹のエルリーン・デロリアスに辛い目に遭わされ続けてきた。
両親もエルリーンに同調し、クリスティーナをぞんざいな扱いをしてきた。
ある日、エルリーンの婚約者であるヴァンニール・ルズウェアーが大火傷を負い、醜い姿となってしまったらしく、エルリーンはその事実に彼を捨てることを決める。
代わりにクリスティーナを押し付ける形で婚約を無かったことにしようとする。
そしてクリスティーナとヴァンニールは出逢い、お互いに惹かれていくのであった。
条件付きチート『吸収』でのんびり冒険者ライフ!
ヒビキ タクト
ファンタジー
旧題:異世界転生 ~条件付きスキル・スキル吸収を駆使し、冒険者から成り上がれ~
平凡な人生にガンと宣告された男が異世界に転生する。異世界神により特典(条件付きスキルと便利なスキル)をもらい異世界アダムスに転生し、子爵家の三男が冒険者となり成り上がるお話。 スキルや魔法を駆使し、奴隷や従魔と一緒に楽しく過ごしていく。そこには困難も…。 従魔ハクのモフモフは見所。週に4~5話は更新していきたいと思いますので、是非楽しく読んでいただければ幸いです♪ 異世界小説を沢山読んできた中で自分だったらこうしたいと言う作品にしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる