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第二章
決闘と成果1『分水嶺』
しおりを挟む決闘の当日。決闘の会場は学園内に併設された競技場だった。
さすがは貴族の通う金持ち学校。
何でも設備が揃ってるぜ。
客席はすでに満員に近く、大勢の生徒や関係者で埋まっていた。
意外とギャラリー来てやがる……。
こいつら暇なのだろうか。
教員用の特別席にいた魔法実技の教師、ゼブルス教諭と目があう……が。
それはスルーして。
その隣にいる金髪の女性に視線を移す。
彼女の耳は何と鋭く尖っていた。
まさかエルフなのか……? なぜエルフがいる? ポーンに訊いてみると、
「ああ、ナイトレイン校長だよ。知らなかったの?」
「校長ってエルフだったのか」
「正確にはハイエルフらしいけど……静謐さがあって神々しいよね。あれこそ本当のエルフって感じがするよ」
ちらっと俺を見て言うポーン。どういう意味だ……?
「うう、人がいっぱいいるわね……」
「緊張してバナナが八本しか食べられなかったよ……」
「胸がどきどきする……」
ツインテ少女と小デブ、ポーンたちは思わぬギャラリーの多さに萎縮していた。
ホント、なんでこんなに多いんだろう。
まるでちょっとした祭りのような盛況ぶりである。
「ラッセル一派やゼブルス教諭があちこちで喧伝して回っていたのだよ? 少しでも多くの観衆の前で我輩たちに恥をかかせるためにね?」
ラルキエリが眼鏡を気だるそうに持ち上げながら言った。
なるほど、あの連中に似合いの嫌がらせだな。
しかし、さらさら負ける気はないので恥とかはあっそって感じ。
ただ、人間というのは感情という厄介なもんに左右されがちな生き物なわけで……。
「あわわわ……」
「うう、モッチャモッチャ……やっぱりいつもより食べられない……」
「うう、胃が痛いわ……」
みんなガチガチになってやがる。
これでは平常時のパフォーマンスを期待できるかどうか。
せっかく今日までみっちりトレーニングを行なってきたというのに。
こんな調子で大丈夫かよ。
ラッセルやゼブルス教諭の目論みとは違う意味で悪影響が及ぶとは。
先行き不安な空気が漂いつつあったその時――
「みんなぁ! 今日まで頑張って来たじゃない! 戦う前から怖気づいてどうするの!」
真っ先に声を上げたのは女教師だった。
「うまくやろうと思うから緊張するんだよぉ! 今まで耐えた悔しい気持ちを堂々とぶつけていいところだと思えばいいんだよぉ!?」
生徒たちを鼓舞する声は以前のグダグダしたものとは違う。
トレーニングの邪魔ということで短く髪を切り、化粧も薄くなり、香水の匂いもすっかりしなくなった女教師。
密度の高い筋トレを繰り返し、身も心も研ぎ澄まされた彼女はほんの少しだけパリッとした感じの雰囲気を会得していた。
「な、なるほど。これは高慢な貴族を合法的にブッ飛ばしてやれるチャンスなんだ……!」
「そう考えたら食欲沸いてきた! ハフッハフッ! モッチャモッチャッ!」
「な、なによ! あ、あんたに言われなくてもやってやるんだから!」
女教師の発破で闘争心を取り戻した生徒たち。
どうやら萎縮からは解放されたようだな。
筋トレに参加していなかったら女教師の言葉は彼らに届かなかっただろう。
同じ経験を共有したからこそ生まれた一体感。
彼女の努力は少しずつ実を結んでいるんだと俺は思った。
『あいつら、ずっと魔力の通し方も覚えられなかったくせに寵児に挑むなんて馬鹿だよな』
『まあ、生意気な平民の公開処刑だと思えば楽しめるよな?』
『あの自分が偉いと勘違いしてる根暗女の理論がゴミ扱いされるところを早く見たいわね!』
ふむ……。
客席にいるやつらの大半は平民生徒たちが無様に負けるところを笑いに来ているらしい。
だが――
『本当に筋肉を鍛えるだけで平民が英才教育を受けてきた貴族に勝てるのか?』
『僕は才能がないから実家に見限られてしまったけど、努力で伸びる可能性があるなら……』
『この試合でもしも平民たちが勝つようなことがあれば私たちだって――』
筋トレ理論に僅かな期待を抱き、その真価を見極めに来た者たちも少なからずいる。
俺たちが勝利すれば努力をしたくても方法がわからなかった者たちにとっての希望になる。
ここが学園に一筋の光をもたらすかどうかの分水嶺だ。
絶対に負けられんな……。
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