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第二章
謝罪と再会1『それは魔法じゃねえよ!』
しおりを挟む「おいコラ! 貴様、何をやっておるかぁ――ッ!」
そう言って叫んで走ってきた中年の騎士。
白髪の混じった男性騎士はひどく慌てたように俺たちの間に割って入った。
「あっ……」
中年の騎士はぶっ壊された門を見て口を半開きにする。
いや、なんかすいません。
でもわざとじゃなかったんです。だってそいつが避けるから!
「ディ、ディーゼル! 一体何が起こったのだ!」
「スタントンさん! 賊が攻めてきたんです! 見てください! このエルフは屋敷の門を魔法で壊して強引に侵入を図ろうとしたんです!」
門番の青年が早速チクリだす。この野郎、あることないこと言いやがって……。
それは魔法じゃねえよ!
いや、ここは冷静に行こう。冷静に状況を分析だ。
まず青年の名前がディーゼル、それで中年騎士のほうがスタントンというみたいだな。
やり取りを見た感じ、スタントンが上司にあたるようだ。
なら、スタントンを説得できればこの場は納められるはず。
「スタントンさん、一緒に戦ってください! あのエルフ、槍で刺しても死なないんですよ!」
中年騎士は青年門番の声を聞くと、ギギギと首だけを動かして信じられないものを見たような目で青年門番……ディーゼルの顔を見た。
「お前、このエルフを槍で刺したのか……?」
「ええ、なにせこいつ、お嬢様の名前で書かれた書状を偽装までしていましたからね。情状酌量の余地はないと判断しました」
「……そうか」
中年騎士、スタントンは神妙な顔で俯いた後、渋い表情で俺のほうにスタスタ歩いてきた。
俺は警戒して身構える。
腰に差したサーベルを抜いていないから敵意はなさそうだけど、念のためな。
「……エルフの方よ。失礼だが、レグルお嬢様から渡された書状はどちらに?」
スタントンは予想外にも丁寧な口調で話しかけてきた。
なんか少し顔色が悪いみたいだけど、大丈夫だろうか?
「それならあそこに落ちてるよ」
俺は地面に叩きつけられて放置された書状を指で示す。
ディーゼルによって捨てられた書状は砂埃を被って汚れていた。
スタントンはそれを拾い上げ、中身を確認すると、みるみる顔を青くさせていった。
すごいな、人の顔色ってこんなふうに変化できるんだ……。
人類の無限の可能性に俺は密やかな感動を覚えた。
「……あなたはグレン様で間違いはありませんね?」
「あ、はい」
俺は頷いた。
スタントンは静かに息を吐くと、ディーゼルに様々な感情が入り混じった眼を向けて言った。
「ディーゼルよ……この書状は本物だ……」
「え?」
スタントンの言葉にディーゼルは硬直する。
「先ほどお帰りになられたばかりのお嬢様が我々に仰られたのだ。今日か明日、お嬢様や隊長殿の命を救った大恩のあるエルフが書状を持って訪れると」
「そ、そんな馬鹿な……」
硬直から一転、ディーゼルはガタガタとバイブレーションシステム搭載かと思うような振動を起こし始めた。
一家に一台欲しくなる揺れ具合だな。俺はいらんけど。
というかアレか?
レグル嬢たちとほとんど変わらずに着いちゃったから話が通ってなかったってことなの?
俺がもう少し遅くついていればこのイザコザは回避できてたのか……。
不幸な行き違いだった。誰も得をしないっていう。
「ディーゼル、なぜお前は書状を持って現れた客人に武器を向けたのだ? そうするだけの何かがあったのか?」
「そ、それは……書状が偽物だと……」
「書状はどう見ても本物だ。どこにも怪しい点はない。それとも貴様はそんなことも見分けられない無能だったのか?」
「あ、その……」
言い淀むディーゼル。野生の勘とか言ってたよな。
しかしここであのドヤ顔を披露する度胸はさすがになかったようだ。
「どうした? もっとはっきりした口調で答えたらどうだ?」
「あ、あわ……あぐ……オレは……!」
氷点下にまで下がったスタントンの態度に何かがプッツンしてしまったのだろう。
プレッシャーに押し負けたディーゼルは目を見開いて叫び出した。
「だ、だって、エルフ風情が貴族の家に客で来るなんて思わなかったんだ! 普通は偽物だって思うだろ! オレは悪くない!」
あっ……言っちゃった。理屈の通らない主張をぶちまけたその瞬間、ディーゼルはスタントンに殴られてブッ飛ばされた。
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