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第二章

幼女と出立5『……なら、背中(シート)に乗ってくか?』

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◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 数日が過ぎ、俺がニッサンの町を離れる日がやって来た。


「はぁ、お兄さんもルドルフもいないんじゃ退屈だなぁ」

 町の外れまで見送りにやってきたリリンが愚痴っぽく言う。彼女の母親であるマリサはあれから体調を崩すこともなく、元気に働きに出れるほどにまでなった。今日も朝から仕事に向かったらしい。ルドルフに聞かせてやれば喜ぶことだろう。

「退屈ならお前もついてくるか?」

「うーん、せっかくお母さんが元気になったばっかりだしね。しばらくこの町から離れるつもりはないよ」

「そっか。なら仕方ないな」

 ものの試しに訊いてみたが、あっさり断られてしまった。まあ、どうせシルフィを迎えにすぐ戻ってくる予定だ。そこまでしんみりすることもないよな。

「むう、あっさり引かれるのはそれでムカつく……」

「俺はどう反応すればいいんだ?」

 ダブスタとか面倒くさい女だな。これだから人間は……。




「ばいばーい。お兄さん、また会おうねー!」


 手を振るリリンと別れて俺は街道を走り始める。

 領主も後日、奴隷だった者たちを連れて王都に出立する予定だ。

 ダイアンの襲撃によって受けた被害の後始末をハイペースで片付けたため、想定より早く出発できることになったらしい。

『これが愛の力だ』
『はあ、そうっすか……』

 目の下に隈を作った領主にキメ顔で言われ、困惑した俺がいたとかいなかったとか。




 さて、ここから王都までしばらくは運転席に誰もいない一人ドライブだ。

 少し寂しいな。そんなことを思って走っていると、

「あれ、リュキア……? どうしてこんなところに?」

 街道のど真ん中に腕組みをした白ワンピースの幼女が立っていた。緑色の髪がふわふわと風になびいている。

 森で出会った日以来の再会だ。彼女も見送りにきてくれたのだろうか? 出立する日は伝えていなかったと思うんだが……。どうやって知ったのだろう。

 肉の幼女、リュキアが口を開いた。

「グレンといるとおもしろそうだからいっしょについてく!」

 おいおい、一緒にってどういうことだ? 

 そんなフラグ立ててたっけ?

「そろそろね、ちがうところにね、いこうっておもってたの」

 とてとてと近づいてきて、無垢な表情で俺を見上げる。彼女の猛禽類のような瞳はそこに吸い込まれてしまいそうな何かがあった。

 これは断れないな……。いや、もともと断るつもりはないけれど。

「……なら、背中(シート)に乗ってくか?」

「のるー!」

 俺が背中を指さすと、リュキアは勢いよく飛び乗ってきた。俺はハイエースじゃないぜ。トラックだぜ? そこんとこヨロシクな。

 新たな旅のお供を乗せ、人間の黒い欲望が渦巻く(勝手なイメージ)王都へ。

 いざ行かん。


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