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第一章

領主と奴隷5『まあ、グレン様はそんなこともできるのですか?』

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 領主が目を剥いて恐れの対象を俺から御令嬢に変更させる。本当に人間というのは肩書きに弱い。どこの世界でも代わり映えしない法則である。

「わたくしは父上の命を受け、ここ数年で不自然に増加したエルフの奴隷の出元を調査するためにニッサンの町を訪れたのです」

「テ、テックアート伯爵の命で……!? 領地経営の見識を深める勉強にいらしたのではなかったのですか!?」」

「お嬢様がこんな規模の町へ学びに来るわけがないだろう。よく考えればわかることだ」

「こ、こんな……!?」

 女騎士が容赦ない物言いはグッサリと領主に突き刺さっていた。おう、もうちょっと言い方を考えてやろうぜ……。町に罪はないんだからさ。

「……町の規模は置いておくとして」

 御令嬢は咳払いをして話を進める。女騎士の言葉を否定しなかったところに彼女の本音が見えた気がした。

「グレン様、申し訳ありませんでした。万が一のことがあってはならないと安全な場所を提供するつもりで招待をしたのですが、まさか領主が加担していたとは……」

「善意のつもりだったんだろ? それだけわかれば十分だよ」

 そもそも俺は危険性を承知で乗り込んできたのだから御令嬢が謝る必要などない。それでもこうして礼儀を尽くすのだから、彼女はきっといい人間なのだろう。

「そういってもらえると幸いです」

 御令嬢の心底済まなさそうな顔を見て俺は頷く。これで合点がいった。御令嬢が奴隷商人に興味を示していたのは領主から情報を引き出すためだったのだ。

「……さあ、領主様。洗いざらい吐いてもらいましょうか。あなたの知っていることをすべて!」

 御令嬢がビシィと指をさして領主に自白を促す。ええ……もっとこう、手練手管に絡めとる感じで追い詰めていくべきじゃないのか。せっかく焦ってるんだから。

「わ、私は知らん! 何も知らんぞ! 私はただ奴隷を流れの商人から買っただけだ!」

 ほら。やっぱり、見苦しく抵抗を継続し始めたぞ。御令嬢は予想外の抵抗のように目を丸くしていた。

「お、多くのエルフ奴隷がこの町を経由して各地へ出回っているのは確認しているのです! 知らぬ存ぜぬは通りませんよ!」

「ハッ、この町からエルフの奴隷が? ありもしない言いがかりをつけるのはやめて頂きたいものですな!」

「とぼけないでください! こうやって現に奴隷を囲っているあなたが関知していないだなんて白々しいにもほどがありますよ!」

「私は連中がどういうやつらかなんて知らなかったんだ! よい商人を見つけたから紹介しようとしただけなのに、とんだ侮辱だ!」

「ぐぬぬ……この期に及んで言い逃れをするなんて!」

 睨み合う領主と御令嬢。これでは先ほどと組み合わせが変わっただけである。

 ……失礼だが彼女には少々、駆け引きのスキルが足りていないのではないか。裏表のない狡猾さの欠片もない人間性には好感が持てるけれど。

 満を持して目論みを明かしたのに御令嬢の立ち回りが下手すぎて完全に機を逃した感じだった。

 どう収集をつけるんだ、これ……。


「まあまあ、ちょっと落ち着こうぜ。お二人さんよ」


 泥沼になりつつあった状況にルドルフが割り込んだ。何をするつもりだ。こいつのやらかすことがまともなことだとは思えない。

「このまま知った知らないで水掛け論を交わしていても埒が明かないだろ。一向に話が進む気配が見えねえ。オレはそんなつまらない引き延ばし展開が嫌いなんだ」

「お前の好き嫌いはどうでもいいんだが……」

 俺のジト目をスルーしてルドルフは続ける。

「だから知っているやつにゲロってもらおうぜ。そこのエルフの奴隷ならいろいろと知ってるんじゃねえか?」

「……ジンジャーには制限がかかっている。首輪の術式を変えない限り何も話すことはできんよ」

 領主はつまらない提案だと吐き捨てた。俺もそう思う。そもそも、その首輪を外すか外さないかで揉めているのに。

「なら外せばいいだろ」

「「「「「!?」」」」」

 俺含め、部屋にいた誰もがルドルフの発言に目を剥く。

「ル、ルドルフ君! 君が言ったんじゃないか、奴隷商の首輪は奴隷商にしか外せないと。それとも君には外せるというのか!?」

「いいや、オレには無理だ。オレは魔道具には詳しくねえし。それは王立魔道学園に引きこもっている『才媛』の領分だ」

 ルドルフは俺の知らない誰かの二つ名を口走り、否定した。

「……君にも解除できないものを誰がするというのだね? それとも君の伝手であの『才媛』に渡りをつけてくれるのかな?」

「あんな根暗を呼ぶまでもねえよ。最初に言っただろ。こいつも魔術が使えるってな」

 ルドルフがそう言って指さしたのは俺だった。おい、マジかよ。

「まあ、グレン様はそんなこともできるのですか?」

「ふっ、任せておきな!」

 答えたのは俺ではない。ルドルフである。ふざけんな。

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