上 下
112 / 126
第二章

子爵家と民族競技2『エルフ補正』

しおりを挟む



◇◇◇◇◇



-テックアート家-


 グレンに付けたメイドからの報告書を読みながら、テックアート家の当主、ディオス・テックアートは感嘆の声を漏らしていた。

「本人は肉体派だと言っていたが、やはり知性溢れるエルフ族だね……」

「お父様、どうされたのです?」

「ああ、レグルか。これを見てみなよ。どうやらグレン君が学園でとんでもないことを成し遂げたようだよ」

「グレン様が……ですか?」

 ディオスから報告書を受け取ったレグルはそこに書かれている内容に目を通す。

 すると、やはり父親であるディオスと同じく驚嘆した。

「これは……本当に驚きですね。エルーシャ様やラルキエリ様だけでなく、あのラッセル様まで篭絡してしまうとは……。短期間で学園の中心人物を揃って掌握するなんて――」

 レグルはグレンに貴族を取り込むような駆け引きができるのか甚だ疑問だったが、彼につけたメイドからの報告にはハッキリとグレンの成果が書き綴られている。

「我々の前では刹那的な行動ばかりしているように見せかけて、腹の内では謀略知略を巡らせていたんだろうね。ここに書いてある経緯だけ見ると単調に見えるが、それだけで曲者と名高いこの面子の心を掴めるはずがない」

 現場でグレンの振る舞いを見ていないディオス氏はエルフが持つ知的なイメージの補正によってメイドが記していない裏側でグレンが高度な駆け引きを行なったのだろうと深読みした。

 実際は書かれた通りそのまんまの行き当たりばったりなのだが……。

「なるほど、グレン様には政治の才能まであったのですね……」

 レグルはグレンが学園に行くと言ったとき、奔放な彼がプライドの高い貴族の子弟たちの神経を逆撫でしてトラブルを起こすのではないかと懸念していた。

 だが、それはまったくの杞憂だったらしい。

 むしろグレンは貴族の子弟たちをあっという間に懐柔して学園の中心に君臨してしまった。

 レグルはグレンを見くびっていた自分の愚かさを恥ずかしく思った。

 実際は行き当たりばったりの偶然なのに。

「ですが、潜入調査でここまで目立ってしまってよいのでしょうか?」

「うーん。きっとグレン君にも考えがあるんだよ。そうでなければ全校生徒の前で決闘までやったりはしないだろう」

「それもそうですね……あのグレン様ですし、そういう派手なやり方で作戦があるのかもしれませんね」

 ここでも発動するエルフ補正。

 実際は行き当たりばったりのアレなのに。


「グレン様は同族の方々のために頑張っていらっしゃる。彼が手掛かりを掴んだとき、すぐさま力になれるようにしておかないと。そうすれば、わたくしだって――」


 レグルは表情を引き締め、己の決意を強くするのだった。



◇◇◇◇◇



 俺は馬車に揺られて王都の街を走っていた。

 なぜかって? それは俺がとある貴族の屋敷に呼ばれたからである。

「いやーごめんね、ついてきてもらっちゃって。お爺様がグレンっちにどうしても会いたいっていうからさ……もぐもぐ……」

 対面の座席に座るエルーシャ・ニゴーが干した肉を食べながら言った。

 俺が呼ばれた貴族とは、彼女の祖父であるニゴー子爵だった。

「別に会うのは構わんが、どうしてお前の爺さんは俺に会いたいと思ったんだろう」

「んー? なんかね、お爺様、この間の決闘を見にきてたらしいんだよね。それでグレンっちに興味が湧いたとか言ってたよ」

「この前の決闘? ラッセル一派とのやつか? あれを見にきてたのか」

「お爺様は強い人が大好きだから、グレンっちを間近に見てビビッときたんじゃないかな」

 そういえばエルーシャのニゴー家は武闘派の貴族なんだっけ。

 だったらそういうこともあるのか?

 ニゴー子爵は一体どんな人なのだろう。

 興味を持ったら即座に招待してくる辺り、アグレッシブな性格っぽいのは窺えるけど。

 これまで会ってきた貴族の当主はもれなく何かしらの変態だったから、今回も多分変態なんじゃないかと思っている。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

殿下から婚約破棄されたけど痛くも痒くもなかった令嬢の話

ルジェ*
ファンタジー
 婚約者である第二王子レオナルドの卒業記念パーティーで突然婚約破棄を突きつけられたレティシア・デ・シルエラ。同様に婚約破棄を告げられるレオナルドの側近達の婚約者達。皆唖然とする中、レオナルドは彼の隣に立つ平民ながらも稀有な魔法属性を持つセシリア・ビオレータにその場でプロポーズしてしまうが─── 「は?ふざけんなよ。」  これは不運な彼女達が、レオナルド達に逆転勝利するお話。 ********  「冒険がしたいので殿下とは結婚しません!」の元になった物です。メモの中で眠っていたのを見つけたのでこれも投稿します。R15は保険です。プロトタイプなので深掘りとか全くなくゆるゆる設定で雑に進んで行きます。ほぼ書きたいところだけ書いたような状態です。細かいことは気にしない方は宜しければ覗いてみてやってください! *2023/11/22 ファンタジー1位…⁉︎皆様ありがとうございます!!

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

処理中です...