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第65話『ジュウジツシタコウコウセイカツ』
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俺は夢を見ていた。
恐らく、異世界にいた頃の魔王だった時の記憶だ。
俺は玉座に座り、目の前の武装した少年と対峙していた。
『俺はマリン女学院の留学生、ロッテちゃんに告白して恋人同士になって、充実した高校生活を送るんだ! こんなところでくたばってたまるか!』
『おい、人間……そのジュウジツシタコウコウセイカツとかいうのは何だ? そんなに必死になってまで手に入れたいものなのか?』
『あん? お前、青春の尊さを知らねえのか? いいか、青春ってのは人生の中で誰しもが限られた一瞬しか与えられない貴重なものであってだな――』
その後のことはよく思い出せないが、俺はそこでそいつから青春の尊さを語られ、充実した高校生活への憧れを抱いたような気がする。
おかしな――それでいて懐かしい夢を見たような気がした。
起きたときにはすべて忘れていたが……。
さて、そんなことより。
今日は一学期の終業式である。
入学式からいろいろやらかしもしたが、何やかんや友人知人もできて退屈しない学校生活を送ることができたと思う。
須藤とも和解することに成功したし。
二学期はもうちょっとクラスにも馴染んでいけそうな予感がした。
それなりに余裕を持って俺は朝の登校をする。
通学路の途中にある閑静な住宅街を一人で歩いて行く。
「ん?」
進路の先に馬飼学園の制服を着た金髪の男子生徒がいた。
見たところ不良っぽいな……。
男子生徒は腕組みをしながら電柱に背中を預けて立っている。
なんだろう、まるで誰かを待っているような感じだ。
というか、どっかで見覚えが……?
まあ、気のせいだと思って俺はその男子生徒の前を素通りした。
すると、
「おいコラ、シカトとはいい度胸してんじゃねえかよ」
「え?」
声をかけられたので振り返って顔を確認するが、ピンとこない……。
こんな人、知り合いだったっけ?
まじまじ眺めること暫し。
髪色、それから――耳、鼻、唇についたピアス……。
「げっ、花園栄治……!」
思い出した!
こいつは入学式の日に丸出さんに絡み、俺がうっかり投げ飛ばしてしまった四天王の一人。
ゴック・ドゥーの一族、花園栄治だぁ!
やっべ、普通に顔忘れてたわ……。
「テメェ、さてはオレのこと覚えてなかったなぁ!? 人を病院送りにしておいて太い神経してんじゃねえか」
ビキビキと青筋を立てながら詰め寄ってくる花園。
いやいや、存在自体は覚えてましたよ。
容姿が朧気だっただけなの。
「なんなら、ここで入学式の借りを返してやってもいいんだぜぇ?」
花園はそう言ってメンチを切ってきた。
「…………」
俺が何も言わず彼のメンチ攻撃を受け続けていると、
「へっ、全然ビビんねーか。お前はホントに面白くねぇ一年坊主だよ!」
花園は吐き捨てるように言って目線を外した。
「まあ、出美留高校との一件でオレんところのやつらが世話になったらしいからな。それに免じて当分の間は見逃しといてやるさ」
「はあ……」
ひょっとして、花園はわざわざコレを言うために俺を待っていたのだろうか?
子分を助けられたから手打ちにするよって伝えるために――
なんか意外と律儀なヤツだな……。丸出さんを怖がらせたのは許せんけど。
「ああ、それと……薄々察しているかもしれないが、オレとの悶着は親父に頼んで内々で済むよう手を回しておいたからな」
え? 学校内だけの処分で済んだの、こいつのおかげだったの?
花園って実はいい人なの? 思わずそういう錯覚をしてしまう。
「勘違いすんなよ? つまんねえことで学園から逃げられちゃたまらないと思っただけだ。いつか必ず落とし前はつけてやっからよ」
オトシマエ……としまえんだったらいいのに……。
「てめぇも月光の野郎も……いずれオレがまとめてブッ潰すッ! それまでは……その座は預けといてやる。覚えとけ!」
そう宣言すると、花園は一足先に学校に向かってズンズンと歩いて行った。
その座ってなんだ……? 馬飼学園最強のことかな。
あれ? よく考えたら、あいつって全身複雑骨折で入院したんじゃなかったっけ?
まだ三ヶ月くらいしか経ってないのに完治したのかよ……。
どうやら花園栄治という男も四天王と呼ばれるだけあって、それなりの規格外さを持ち合わせていたようだった。
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