66 / 69
第63話『結城神輿』
しおりを挟む◇◇◇◇◇
「クク……まあ、遠慮するなよ……」
のっしのっしと歩いて近づいてくる月光。
「いや! やめて! こないで!」
「暴れんなよ……暴れんなよ……」
「いやああああああああ――――っ!」
バシッ。
優紗は伸びてきた月光の手を弾く。
「おい、なにすんだよ!」
「あ、あたしを車で連れ去って酷いことするつもりでしょ! なんかアレみたいに! アレみたいに!」
弾かれた手を擦って不服そうにしている月光を睨みながら優紗は叫んだ。
「いや、普通に足を痛めてて立てないだろうから手を貸そうとしただけなんだが……」
「え?」
「あと、タクシーに乗るのはお前だけだから安心しろ」
「ほえ? タクシー?」
廃材の山に突っ込んだときに痛めてしまった右足首を見抜かれていたこと。
加えて想定してなかった単語を持ち出されたことで優紗は呆けた声を漏らす。
「そうだよ、お前、一人でこの夜の時間帯に人気のない道を歩いて帰るつもりだったのか? 未成年の女子が、足を痛めた状態で?」
…………。
なんだか、月光雷鳳という男は思っていた人物像とは微妙に違うようだった。
しかし、今さら引き下がるわけにも行かないと優紗は思った。
「あ、あたしは一人で歩いて帰れるんだからぁ!」
強がってそうは言ってみるものの。
魔力で強制的にフォローしていた負傷は存外深刻で、左足に重心を置いてもどうにか立てるかというところだった。
「その状態じゃ無理だろ? 大人しく乗って行けって。料金はこっちで負担するから」
プルプルと震えながら立ち上がろうとする優紗を呆れたような態度であしらう月光。
「いやよ! そんなことしてもらう義理はないわ!」
「じゃあ、誰かに連絡して迎えに来てもらうとかできねえの? このまま放置していくのはちょっとなぁ……」
強いと聞けば片っ端から相手に喧嘩を売るイカれた男のくせに何やら常識人めいたことをのたまってくる。
「バカじゃないの! 喧嘩して負けたって言って誰を呼べるのよ! みっともないじゃない!」
「それならやっぱり僕らの手配したタクシーに乗っていって下さいよ」
埒が明かないと思ったのか不動も説得に参戦してきた。
「敵の施しは受けないわ!」
優紗は断固として突っぱねる。
この期に及んで意見を翻すなど、彼女の性格上無理なのだった。
「いや、そこを頑なになる必要はないでしょう……? 雷鳳との手合わせに付き合ってもらった礼ということで納得して頂けませんか?」
「自分で歩いて帰るって決めたのよ! あたしはね……一度決めたことは最後まで貫くのがポリシーなの!」
「くっ……無駄なところで意地を張る頑固者め……!」
不動の口元はピクピクと震えていた。
「もういい、めんどくせーよ! ぶちこも、ぶちこも! 神門、暴れるかもしれないからお前は足のほうを持て!」
平行線の問答に業を煮やしたらしい月光が優紗の両脇に腕を差し込んで持ち上げてきた。
「あ、どこ触ってんのよ! そっちのゴリラも触ろうとすんな! セクハラで訴えるわよ!」
「三次元のブタに興味はないナリ……!」
「えっ? えっ……?」
どこか信念めいたものを感じさせる低い声でバンダナゴリラこと神門は反論したそうな。
「運ちゃん、この子を家まで送ってやって! おい、結城優紗! これタクシー代な! 支払いはこっからしとけ!」
こうして――さながら神輿のように担がれた優紗は、月光たちが呼んだタクシーにぶち込まれて家に帰されたのであった。
◇◇◇◇◇
……というのが先日の出来事らしい。
「なに、お前の受けた辱めって結城神輿にされたことだったの?」
俺は結城優紗からより詳細に話された経緯を聞いて、さらになんじゃそりゃという気分になっていた。
『ち、ちがっ……いや、それもそうだけどそれだけじゃなくて!』
「はあ……」
『タクシー代って言って渡されたのが一万円なのよ!』
「一万円……」
タクシー代が一万円ってバブル時代のおっさんかよ。
「そりゃ、少し多めの額を渡すのは当然だろ?」
月光が横から口を挟んでくる。
いや、知らねーって。
『戦って負かされた相手に憐れまれて施しを受ける……とてつもない屈辱だわ! あたしは元勇者としての誇りを辱められたのよ!』
辱めってそういうことかよ!
紛らわしい言い方すんじゃねえよ!
「いいじゃん、喧嘩売られてその結果怪我したんだろ? 慰謝料代わりにもらっとけよ」
『よくない! あたしはね、対等な相手として勝負に臨んだのに港区女子みたいな扱いで送り返されたんだから! 馬鹿にすんなっての!』
手厚くされて喜ぶ女もいれば、結城優紗みたいなタイプもいるんだなぁ。
そういう見極めができるようになってこそ真の大人の男なのかもしれない。
「はあ、まったく……言いづらそうにしてたから、割とマジで取り返しのつかないことされたのかと思ってたのに……」
俺のちょっとだけナーバスになっていた気持ちを返して欲しい。
『いや、だって、あんたより先にやっつけてやるなんて息巻いてたのに完敗した挙げ句、タクシー代を負担されたとか恥ずかしくて言えないじゃん……』
「…………」
『あれ? もしかして心配してくれてたの? え? え? そうなの……!?』
結城優紗は俺の反応に食いついてくる。
なんかちょっと声が弾んでるような感じがするのは気のせいだろうか。
「もういいや、切るぞ」
『え、あ、ちょっとま――』
ブツッ。通話終了。
「おう、新庄怜央、誤解は解けたってことでいいか?」
「ああ、そりゃもうね、めちゃくちゃ解けたよ」
俺はやれやれと溜息を吐いた。
0
お気に入りに追加
275
あなたにおすすめの小説
新人神様のまったり天界生活
源 玄輝
ファンタジー
死後、異世界の神に召喚された主人公、長田 壮一郎。
「異世界で勇者をやってほしい」
「お断りします」
「じゃあ代わりに神様やって。これ決定事項」
「・・・え?」
神に頼まれ異世界の勇者として生まれ変わるはずが、どういうわけか異世界の神になることに!?
新人神様ソウとして右も左もわからない神様生活が今始まる!
ソウより前に異世界転生した人達のおかげで大きな戦争が無い比較的平和な下界にはなったものの信仰が薄れてしまい、実はピンチな状態。
果たしてソウは新人神様として消滅せずに済むのでしょうか。
一方で異世界の人なので人らしい生活を望み、天使達の住む空間で住民達と交流しながら料理をしたり風呂に入ったり、時にはイチャイチャしたりそんなまったりとした天界生活を満喫します。
まったりゆるい、異世界天界スローライフ神様生活開始です!
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
全マシ。チートを貰った俺の領地経営勇者伝 -いつかはもふもふの国-
のみかん
ファンタジー
地球にいる四人の男女が神から勇者に選ばれた。
勇者たちはそれぞれチートを貰い、異世界に行って魔王を倒すことを命じられる。
ある者は剣の才能を、ある者は弓の才能を、ある者は聖女の力を。
そして猫をもふもふすることが生き甲斐な25歳の男、広岡二郎(ひろおか じろう)は全てのスキルが盛り込まれた【全マシ。】チートを手に入れた。
チートのおかげで魔王は楽勝だけど、もふもふが摂取できないのは大問題だ。
もふもふがない? だったら手に入れるまでよ!
開き直った最強チートで無双。異世界を舐め腐って荒稼ぎ。そういう感じで生きていく。
転移した主人公が自重せずに魔王と戦ったり、辺境の領地を発展させたり、猫を大きく育てていったりする物語です。
剣の世界のβテスター~異世界に転生し、力をつけて気ままに生きる~
島津穂高
ファンタジー
社畜だった俺が、βテスターとして異世界に転生することに!!
神様から授かったユニークスキルを軸に努力し、弱肉強食の異世界ヒエラルキー頂点を目指す!?
これは神様から頼まれたβテスターの仕事をしながら、第二の人生を謳歌する物語。
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
そんなにホイホイ転生させんじゃねえ!転生者達のチートスキルを奪う旅〜好き勝手する転生者に四苦八苦する私〜
Open
ファンタジー
就活浪人生に片足を突っ込みかけている大学生、本田望結のもとに怪しげなスカウトメールが届く。やけになっていた望結は指定された教会に行ってみると・・・
神様の世界でも異世界転生が流行っていて沢山問題が発生しているから解決するために異世界に行って転生者の体の一部を回収してこい?しかも給料も発生する?
月給30万円、昇給あり。衣食住、必要経費は全負担、残業代は別途支給。etc...etc...
新卒の私にとって魅力的な待遇に即決したけど・・・
とにかくやりたい放題の転生者。
何度も聞いた「俺なんかやっちゃいました?」
「俺は静かに暮らしたいのに・・・」
「まさか・・・手加減でもしているのか・・・?」
「これぐらい出来て普通じゃないのか・・・」
そんな転生者を担ぎ上げる異世界の住民達。
そして転生者に秒で惚れていく異世界の女性達によって形成されるハーレムの数々。
もういい加減にしてくれ!!!
小説家になろうでも掲載しております
異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが
倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、
どちらが良い?……ですか。」
「異世界転生で。」
即答。
転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。
なろうにも数話遅れてますが投稿しております。
誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。
自分でも見直しますが、ご協力お願いします。
感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる