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第57話『可能性におけるイレギュラー』
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結城優紗から『ざまあ指令』の電話があった数日後。
俺は鳥谷先輩や数人の舎弟さんたちと遊ぶ約束があったので繁華街に来ていた。
まだ待ち合わせの時間まで数十分ある。
少し早く来すぎてしまったかもしれんな……。
「…………」
結城優紗はテストの返却日に学校へ姿を現わさなかった。
そのため、彼女が月光から何をされたのかは結局不明のままだ。
メッセージを送っても具合が悪いだけという無難な返事しかこなかったし……。
結城優紗から負けたという話を聞いた後、俺は江入さんに月光雷鳳とはどれほどの実力なのかを訊いてみた。
彼女は以前、地球の生物の脅威度を計測していたと言っていたから。
俺が訊ねると、江入さんはたっぷり考え込んだ後でこう答えた。
『わからない。少なくとも観測してきた範囲において月光雷鳳が銀河惑星連盟大帝国の勝敗を左右する存在になるとは認定できなかった。けれど、彼の脅威度には常に大きなブレが生じていて正確と思える数値を測れたことがなかった』
『大きなブレ?』
『そう……。彼の脅威度は一定の範囲を逸脱して変動する。ここまで激しく数値が乱高下する存在は銀河惑星連盟大帝国の保管するデータベースにも前例がなかった。そのため、私は彼の個体別脅威をどのように設定すればいいのか決めあぐねていた』
『それは要するに強いの? 弱いの?』
『現在計測できている数値の範囲内では、月光雷鳳があなたの脅威になることはありえない。しかし、彼の脅威度はその状況や相手によって大きく変動する特殊な性質を持つ。あなたというイレギュラーな強さと対峙した場合、月光雷鳳がどのような力を発揮してくるのか私には断言することができない』
『ふーん? とはいえ、そのブレっていうのは一応、地球の常識の範囲なんだろ?』
『もちろん、地球の生物の範囲内。けど……あなたが強さにおけるイレギュラーなら、月光雷鳳は可能性におけるイレギュラーと類型できる。だから、気を抜かないでいてほしい。何が起きるかはわからない。用心を忘れないで』
『…………』
そんな感じで――
結局、宇宙の力を使ってもよくわからん得体の知れないヤツだよ、という余計にモヤモヤする情報が付け加わっただけだったのだが。
なんだよイレギュラーって。
鳥谷先輩も風魔先輩も、結城優紗も江入さんも、みんなして脅かしてきてさ。
なんかあんまりにもヤバイヤバイ言われるから、夜中に老舗旅館の共用トイレに行くくらいには月光という存在が怖くなってきた。
「あっ……!」
「ん?」
数メートル先から驚いたような男の声がした。
ああ……。
俺はそちらに視線を向けて、それから納得する。
そこにいたのは整髪料でボンボン&ツンツンさせた髪の同級生、須藤だった。
入学式で話をして、一緒に街を案内してくれる約束までしたものの、花園一派に目をつけられたことで離れていった俺のクラスメート……。結局、花園一派のことがあまり心配いらなくなった今でも彼との交流は途絶えたままでいる。
休みだから彼も街に出てきて散策していたのだろうか?
それとも友達と会う予定があるのかな?
「…………?」
須藤は何やら挙動不審になっていて、こちらをチラチラ見ながら右手を中途半端に挙げたり下ろしたり握ったりを繰り返していた。
もしかして、彼は話しかけるべきか迷っているのか?
須藤はまた俺と友誼を結んでもいいと考えているのだろうか……。
須藤が大きく深呼吸をして、それから引き締まったような表情になる。
そして、こちらに一歩踏み出して足先を向けてきた。
これは――俺の方向に来ようとしてくれている……?
俺が期待に若干胸を躍らせていると、
「おう、お前が新庄怜央だな? ちょっとツラ貸してくれねーか?」
灰色の髪のレスラーみたいな大男が俺の前に立ちはだかった。
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