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第49話『ダンタリオン』

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「はあ? オレのことを知らねえなんてモグリかよ!? 36の軍団を率いる悪魔の公爵ダンタリオンだぞ!」

 俺の反応が芳しくないことを悟ったのか、段田理恩は付け加えて自己紹介してくる。

 知っていて当然みたいな言い方をされたが、悪魔の世界で有名人だろうと俺が知ってるわけないじゃん。

 というか、悪魔って実在してたんだ……。
 宇宙人もいたし、エクソシストっぽいのもいたし、現実って意外と現実してないよな。
 それとも都会ではこれがスタンダードなリアルなのか。

 ん?

 悪魔……。
 魔界……。
 魔……!?

「さてはお前『魔の者』か!?」

 俺は一つの可能性に思い至る。
 そうだとしたら許さん!
 絶対にだッ!

「魔の者……? いや、悪魔の者ではあるけど?」

 段田理恩は俺の言葉の意味が理解できていないようだった。

 反応が鈍く、困惑している様子でもある。

「対魔人という職業の方たちに覚えは……?」

「なんだそれ? なんかのゲームとかアニメ?」

「…………」

 どうやら悪魔は『魔の者』ではないらしい……。
 せっかく糸口を掴めたかと思ったのに。
 おのれ魔の者め。

 いずれ正体を曝いて必ず一発殴ってやるからな!




「で、お前はどこのどいつだよ? 地球でも魔法を使えるってことは最低でも中位悪魔か?」

 仕切り直しとばかりに段田理恩が俺の正体を訊ねてくる。

 まあ、向こうも特殊事情持ちっぽいし正直に話してもいいだろう。

「俺は悪魔じゃねえよ。魔族の王、魔王サイズオンだ――いや、だったというべきだな」

 どうもあっちは俺を同じ悪魔と勘違いしているようなので訂正も入れて名乗った。

「魔族? サイズオン? そんな名前の魔王なんて聞いたことねーぞ? 魔王はバエルだぜ?」

「いや、それは悪魔の魔王の話だろ。俺は異世界の魔族の王だから……」

「…………?」

 イマイチ通じていないのが表情でわかった。
 いいか? お前は悪魔族で俺は魔族なの。字面が近いけど違う種族なの! 
 まったく、悪魔の世界にも魔王がいるってややこしいな。

「わかったか?」

「ああ……えっと……?」

 段田理恩は目線を上に向け、今度は下に向け、そして――


「魔王を僭称するとはふてぇ野郎だ! オレ様が直々に根性を叩き直してやるぜ!」


 段田理恩は思考することをやめたようだった。





「まさか、馬飼学園の新星、新庄怜央がオレと同じような背景持ちとはね。通りで短期間でパネエ躍進をするわけだよ。オレは肉体の持ち主と契約して憑依しているが、お前はどういう感じなんだ? その……魔族ってのは人間と契約したりすんのか?」

 ああ、よかった。

 どうやらこいつは魔王の下りがよくわかっていないだけで、俺が悪魔でないことは理解してくれていたらしい。

 俺に絡んでくる人たちって基本話が通じないからな……。
 こんなレベルでも救われたような気持ちになってしまう。
 馬飼学園の新星とか言われていたのは聞こえなかったことにした。

「俺は人間に転生したんだよ。この身体は産まれたときから俺のものだ。そっちは――その言い方だと、お前は本来の段田理恩とは別人で、もともとの段田理恩の人格が他にあるってことか……?」

「ああ、本物の段田理恩は押しに弱いアニメオタクのいじめられっ子さ。こいつの強くなりたいって願いを聞き入れて、今はオレが身体を使わせてもらっている」

 段田理恩は親指で胸の辺りをトントンと叩いてそう言った。

「人間の身体を奪って乗っ取ったのか?」

「さあ、どうかな? もしそうならどうする?」

 段田理恩……ダンタリオンはニヤッと挑発的に笑う。

「別にどうもしないさ。それは俺に関係ない事情だからな。馬飼学園を狙うのは諦めてもらいたいと思ってるけど」

「へへっ、そうかい……ハハッ! でも、そいつは無理な相談よ。言ったろ? オレは段田理恩の強くなりたいって願いを叶えないといけないんだ。近隣で最強を謳われる馬飼学園を落とせばその願いに一歩近づく。やめて欲しけりゃ力でオレを屈服させてみな?」

 俺の答えにダンタリオンはなぜか少し機嫌をよくした様子だった。
 何かこう、好感度の上がる選択肢みたいなもんを選んでしまったらしい。
 上がらなくていいんだが。

「ホラホラ、早くやろうぜ! かかってこいよ!」

「しょうがねえな……」

 ここなら目撃者もいないし、軽く捻ってやるか。

 肉体的な説得で諦めさせよう。

「しゃおらぁっ!」

 ダンタリオンは掛け声を上げると、一直線に突っ込んできた。

 かかってこいっていったのにそっちが来るんかい。

「オレの動きについてこれるかなァ!?」

「…………」

 早いが単調だな……。
 俺は間合いに入ってきたダンタリオンの顔面を掴んで床に叩きつける。
 よし、一丁上がり。

「ん?」

 確かに叩きつけた感触があったヤツの肉体は消えていた。

 これは……?

「おいおい、新庄怜央さんよ? 一体どっちを見てるんだ?」

 振り向くと、小馬鹿にしたような表情を浮かべたダンタリオンが腕組みをして立っていた。

「今のは……幻影か……」

「ご名答! なかなかの慧眼だな!」

 こいつ、幻覚を見せる類いの魔法が使えるのか。
 それはちょっと厄介だ。
 なるほど。

 ダンタリオンは公爵とか言ってたし悪魔の中では雑魚ってわけじゃないんだろう。

 公爵って貴族の階級だと最上位だったもんな。

「フッフッフッフ……果たしてお前はオレに攻撃を当てることができるかな?」

 余裕をぶっこいている段田理恩ことダンタリオン。

「まあ、そうくるってわかっているならそれなりにやっていくだけさ」

 俺は少しだけ気を引き締めてダンタリオンと再度向き合った。

「オレ様の繰り出す幻術を――」

「お前ごときが」

「見破れると」

「思っているの」

「かな?」

 なんか、ダンタリオンが五人に増えた。





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