上 下
22 / 69

第22話『江入杏南の正体』

しおりを挟む





 その日の部室は偶然にも俺と江入さんの二人だけだった。
 本のページを捲る音が二重奏。
 パラパラ……。

 すごく静かだ。

 酒井先輩と鳥谷先輩の騒がしい二人がいないとこんなもんか。


「ふむ……」

 ボクシング部のバーベルが視界に入った。
 ちょっと筋トレしてみるか。
 床からバーベルを持ち上げる種目。

 デッドリフトってやつをやるぞ!


 ガシャンガシャン。


「…………」


 魔王の力を持つ俺からすると、部室にあるプレートを全部つけても握っただけで持ち上がっちゃうくらい軽かった。

 これ、無意味すぎるわ……。
 ちょー空しい。
 筋トレを趣味にできないとわかって俺は少しへこんだ。

 別に筋トレにそこまで興味があったわけじゃないけどさ。

 趣味の可能性がひとつ消えるというのはそれだけで切ない気持ちになるもんだ。


 切なさを痛感した俺は読書を再開した。



「ふう……」

 キリのいいところまで読めたし、今日はいつもより早いけど帰ろうかな……。
 俺は本を閉じて栞を挟み自分の鞄にしまった。
 持ち帰るのは江入さんに許可を取ってある。

 小説って、休み時間の暇を潰すのにもってこいなんだよね。

 生徒手帳を読むよりよっぽど有意義に過ごせる。

「江入さん、俺はもう帰るよ。鍵は任せていいかな?」

「…………」

 江入さんは何も言わない。
 おかしいな。いつもなら返事くらいはしてくれるんだけど。
 どことなく違和感を覚えながら俺は部室のドアノブに手をかけた。

 ……が、ドアノブは回らなかった。
 回しても反発してくる。
 何者かによって妨害されているようだった。


「…………!」


 外側から逆に回していやがるッ……。なんて握力だッッッ! 

 いや、待て待て。
 これ握力なの?
 なんか念力っぽい感じで反発してるような……。

「新庄怜央……」

 背後から無機質な声で名前を呼ばれる。

「ヌウッ!?」

 力を込めていたので思わず変な唸り声で返事をしてしまった。

「なんだ、江入さんか……」

 いつの間にか真後ろに接近していた江入さんがいた。

 彼女の青みがかったショートカットの黒髪がさらりと揺れる。

「新庄怜央、貴方は一体何者?」

 謎な質問をされた。
 さっきは無反応だったのに。
 いきなりどうしたんだろう?

「何者って、江入さん、どういうこと?」

「貴方の正体について、私は訊いている」

 なぜ彼女がこんな質問を急にしてきたのかは不明だ。

 しかし、まさか前世が魔王ですと答えるわけにはいかない。

「正体って、どういうことかな?」

 俺がすっとぼけると、

「………………。このままでは真理に迫った回答は得られないと判断した。よって異空間フィールドを展開し、武力的な制圧を視野に入れた対応に移行する」

「は……?」

 次の瞬間、俺たちは部室ではない場所に移動していた。

 いや、正確には俺と江入さんを中心に周囲の景色が塗り替わっていったという感じか……。

 気がつくと俺は灰色な景色が延々続くだけの広い空間に閉じ込められてしまっていた。

 ここはどこだ? 何をされた? これは江入さんの仕業なのか?

 一体どうやって――

「出口を探しても無駄。この異空間フィールドから逃げることはできない」

 彼女は俺が逃げ場所を探していると思ったようだ。

 もちろん帰り道は教えてほしいけどね。

「江入さん、君は何者なんだ……? これは何をしようと……?」

 今度は俺が正体を質問する番だった。

 いや、マジでなんなの。

 無口でコミュニケーション取りにくい女の子だと思ってたら、いきなりわけのわからないことを言い出して得体の知れない力を使いだした。

 こわいよぉ、ホラーだよぉ。

「私は銀河惑星連盟大帝国、先遣調査クローン部隊所属、【エイリア】シリーズ、個体識別記号『ン・NA』である」

「…………」

 日本語でおけ?
 余計にわからなくなったよ……。
 銀河……惑星……。

 SFか?

「私はこの惑星の観測を行なうために帝国の本星からやってきた調査員。我が祖国である帝国の目的は銀河系惑星の統一にある。私の役目は侵略予定の惑星に先んじて潜入し、脅威度の測定を行ない、本星が適切な戦力を派遣できるようデータを揃えること」
 
 ふむふむ……。
 えーと、要するに彼女は地球を侵略しにきた宇宙人?
 うわ、それってエイリアンじゃん!

 本当にいたんだ! 月刊ムゥの編集部に教えてあげたい。

「君は宇宙人のスパイってことか?」

「この星の言い方ならばそれでいいはず」

「なんとまあ……」

 地球人の常識では信じがたいことだ。
 けど、前世が魔王の俺がそれを言ってもね。
 超常的なことを実際に引き起こしてるし、彼女が電波や中二病でないのは間違いない。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

素質ナシの転生者、死にかけたら最弱最強の職業となり魔法使いと旅にでる。~趣味で伝説を追っていたら伝説になってしまいました~

シロ鼬
ファンタジー
 才能、素質、これさえあれば金も名誉も手に入る現代。そんな中、足掻く一人の……おっさんがいた。  羽佐間 幸信(はざま ゆきのぶ)38歳――完全完璧(パーフェクト)な凡人。自分の中では得意とする持ち前の要領の良さで頑張るが上には常に上がいる。いくら努力しようとも決してそれらに勝つことはできなかった。  華のない彼は華に憧れ、いつしか伝説とつくもの全てを追うようになり……彼はある日、一つの都市伝説を耳にする。  『深夜、山で一人やまびこをするとどこかに連れていかれる』  山頂に登った彼は一心不乱に叫んだ…………そして酸欠になり足を滑らせ滑落、瀕死の状態となった彼に死が迫る。  ――こっちに……を、助けて――  「何か……聞こえる…………伝説は……あったんだ…………俺……いくよ……!」  こうして彼は記憶を持ったまま転生、声の主もわからぬまま何事もなく10歳に成長したある日――

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

剣の世界のβテスター~異世界に転生し、力をつけて気ままに生きる~

島津穂高
ファンタジー
社畜だった俺が、βテスターとして異世界に転生することに!! 神様から授かったユニークスキルを軸に努力し、弱肉強食の異世界ヒエラルキー頂点を目指す!? これは神様から頼まれたβテスターの仕事をしながら、第二の人生を謳歌する物語。

魔法大全 最強魔法師は無自覚

yahimoti
ファンタジー
鑑定の儀で魔法の才能がなかったので伯爵家を勘当されてしまう。 ところが停止した時間と老化しない空間に入れるのをいいことに100年単位で無自覚に努力する。 いつのまにか魔法のマスターになっているのだけど魔法以外の事には無関心。 無自覚でコミュ障の主人公をほっとけない婚約者。 見え隠れする神『ジュ』と『使徒』は敵なのか味方なのか?のほほんとしたコメディです。

転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました

平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。 しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。 だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。 まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...