証なるもの

笹目いく子

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永遠

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 数日後、晴れ渡った薄青い空の下、紀堂は有里と連れ立って番町の千川邸へと出向いていた。
 座敷で対面した広衛は、瞳に未だ色濃い悲しみを浮かべながらも、窶れていた顔には血色が戻り、体には少年らしい活気が戻っているのが感じられた。

「兄上、有里どの、よくお出で下さいました。もう、お体はようございますか?」
「とうによくなった。そなたこそ無理はするな。深手であったし、越したばかりで疲れておるだろう」

 紀堂は弟の様子に安堵しながら、頬を緩めた。脇手には境家老をはじめ、用人上席の小島や近習の加納、給人の水沢、織部も顔を揃え、穏やかな笑顔を二人へ向けている。皆満身創痍であったはずだが、家門の再興が何よりの薬なのだろう。胸の内に鬼を飼い、恩讐と殺意ばかりを浮かべていた男たちの顔は、一様に人間らしいやわらかさを取り戻していた。
 尾形の離縁した妻・世津も奥女中として御殿に戻り、息子の吉之進共々息災でいるという。

「有里どの、お初にお目にかかります。千川広衛にござる」
「有里にございます。お目通りをお許しいただき、まことに嬉しゅう存じます……」

 紀堂の隣で有里が深々と頭を垂れた。

「私も嬉しくてなりませぬ。もうすぐ義姉上になられるお方でございますな」

 広衛が大きく微笑んで頷いた。
 有里の両親と友一郎の了解を得て、皐月に祝言を挙げることに決めていた。家族が増える、と広衛が喜んでくれているのを見て、紀堂は有里と笑みを交わした。

「……お永様は、いかがしておられるだろうか」
「まだ臥せっておられることが多ございますが、少しずつ、お元気になっておいでです。私が『祥雲』を吹いて差し上げると、ことのほかお喜びになられます。父上を思い出されて胸がかき乱されるけれども、私の音色は父上のそれに似ていて、慰められると言って下さいます。私なぞ、まだまだ下手なのですが……」

 はにかみながら、広衛は傍らに置いていた錦の包みを手に取った。父の龍笛を納めた袋だ。

「……そうか。そなたが吹いているのか」紀堂は両目を細くしてそれを見詰めた。
「はい。これを奏でていると、私も慰められる心地がいたします」

 父の笛の音に、似ているのか。
 父譲りの楽の才のある少年だとは知っていたが、今はそれが無性に切なく、そして幸いなことに感じられた。お永の胸の痛みと喜びが、手に取るようにわかる。
 しかし、と弟が躊躇うように言った。
 
「兄上、この笛……私が持っていてもよろしいのですか……? これは父上が兄上にお持ちいただこうと差し上げたものにございましょう。やはり、兄上のお手元に置かれるべきなのではございませんか」
「いや、そなたに持っていて欲しい」

 紀堂はかぶりをふった。

「父上もきっと、そう望まれるだろう」

 静かな眼差しを弟に注ぐと、広衛は錦の袋を両手で大切そうに包み込み、

「……はい」

 と目を瞬かせて微笑んだ。 
 座敷を辞す時、「そういえば」と広衛が呼び止めた。

「野月どのは、いかがしておられますか。もう江戸にはおられませぬので」

 ああ、と紀堂は首肯した。

「韮山の江川様の元へ報告に向かうそうだ。祝言には戻ってきて下さるらしい。なんにしても、あの先生はひとところにおられぬ性質だからな」
「奥田が同行しているというのは、まことなのですか」 
 
 少年らしい好奇心が目に浮かぶのを見て、紀堂は歯を零した。

「まことだ。先生の元で技を磨くのだそうだ」

 主を思っての行為とはいえ、島津家を裏切った玄蕃たちには帰るべき場所がなかった。水野家や堀家からは召し抱えたいとの申し出があったそうだが、島津家への恩に反するとして丁重に辞退したと聞いた。そして、玄蕃は己の未熟を痛感して正馬の教えを受けることを望み、滝村と磐井は千川家に仕えたいと広衛に願い出たのだった。
 
「滝村と磐井の顔も見られるかと思ったのだが」

 紀堂が部屋を見回すと、

「はぁ、私も同座せよと申したのですが」広衛が困ったように小首を傾げた。
「己らのような者が兄上に見えるなぞ滅相もないことだと、いくら申しても聞きませぬのです」

 二度も紀堂を拐おうとしたことを、未だに悔いているらしい。
 広衛の側に仕えることにも、おそらく贖罪の意味があるのだろう。つくづく律儀な男たちだ、とほろ苦い心地がした。

 
 有里と共に座敷を出た紀堂は、大鳥屋店主の顔に戻り、すれ違う家士に丁重に頭を下げながら広縁を進んだ。
 広衛は、大丈夫だ。お永を支え、千川家当主として立派に家を守るだろう。
 そう安堵を覚えながらも、切ないものが胸のうちに広がった。
 新しい屋敷には、父の気配はもうない。
 だが、父の面影を強く残した弟の中に、父はいるのだ。それでいい。
──いつの間にか、足が止まっていた。
 聞き覚えのある音を、耳が捉えていた。

 龍笛が鳴り響いている。

 痺れるようなふるえが全身を駆け抜けた。あの音色を知っている。よく、知っている。
 父の笛が、命を吹き込まれたかのように再び鳴っていた。

「父上の、笛だ……」 

 紀堂は傍らの有里の手を強く握り、ふるえる声で絞り出した。
 全身を揺さぶる感情の波が、胸のうちで轟いていた。
 目を細め、紀堂に身を寄せて娘が聞き入っている。

「……美しい音色ですこと」

 有里が囁く。

「紀堂さんが、話して下さった通り」

 耳にやわらかな声を聞いた時、目の奥に熱が生まれ、視界が光で溢れた。

「そうだろう」

 手に力を込め、微笑んだ。
 目頭から伝うあたたかなものが唇を濡らし、音もなく零れ落ちる。 

「──美しいだろう」

 視界が眩い光で溢れている。正月の、白々と明るい朝だ。胸の奥まで冴え冴えとさせる空気は真新しく、澄みきっている。
 父の龍笛が聞こえる。祥雲を懐に大事に抱え、広之助となって間もない十五の紀堂は、はじめて耳にするその音色に聞き惚れている。隣には正装した四代目の義父がいる。懐かしい、茶目っ気のある笑みを浮かべている。
 誰かが庭をやってくる。凧を抱えたちっぽけな子供が誰であるのか、知っている。

「……父上の笛じゃ」

 六つの広衛が、広縁の奥を見上げて言う。

「どうだ。見事であろう」

 まん丸い頬を鬼灯みたいに真っ赤に染めて、生き生きとしたつぶらな瞳を輝かせ、得意気に言う。
 初めてまみえた弟を、紀堂ははにかみながら、痛いほどの喜びで胸を膨らませて見詰めている。
 義父が目を細めて、兄弟を見守っていた。
 寒ささえも幸いに思えるほど、世界は光に溢れていた。町人に変わっていく己さえも、嬉しく感じた日だった。
 龍笛が、神々しく、祝福するように歌っている。
 広彬、広彬、と繰り返し、繰り返し、呼んでいる。
 力の限りに、紀堂の心を照らそうとするように呼んでいる。
 響き続けるやさしい谺のように、まるで宝物を呼ぶかのように。
 いつまでも、いつまでも、絶えることなく。

「……有里さんに、聞いて欲しかった」

 滂沱と頬を濡らしながら、弟の笛の音に聞き入った。 
 昔、義父が言った言葉を思い出す。
 どんどん欲しがって手に入れろ、と言った。
 いつか報われる日は来る、とも言った。
 義父はやはり、大した商人だった。
 紀堂はくしゃりと泣き笑いながら、高く澄み渡った空を見上げた。
 あの日、世界は美しかった。胸が痛くなるほどに、美しかった。

──あの日、永遠に失うことのない喜びを、己は確かに、手に入れたのだ。
 
*** 

 四十年以上に渡り幕政を掌握し続けた大御所の死後、水野越前守は徹底した家斉側近の排除に乗り出した。林肥後守・水野忠篤・美濃部ら西丸派がことごとく免職あるいは左遷されたのはもちろん、中野石翁も登城禁止の上、屋敷の没収という厳しい処分が課された。向島の屋敷も、その例外ではなかった。
 大御台は落飾して広大院を名乗り、西丸大奥から本丸大奥へと移ったという。
 処分された旗本は六十八人、御家人は八百九十四人に上る。
 同年五月十五日、将軍徳川家慶は幕政改革の上意を発し、越前守は綱紀粛正と奢侈禁止を伴う改革に着手したのだった。 
 その年の神無月に、高輪の老公はひっそりと死んだ。
 正気を失い、無念を呟きながら息絶えたという。遂に故郷の薩摩への帰国を許されることはなく、江戸にて没した。六十九年の生涯であった。


 朝に小僧が掃き清めたばかりの庭が、数刻と経たぬ間に、展敷てんぷした錦繍のような金と紅とに覆われていた。
 秋風が吹き抜ける度、池にせり出した大きな紅葉が惜しげもなく葉を散らし、青天を映した水面を隠していく。
 池の畔に佇んで、紀堂は空を見上げていた。
 薄い雲のたなびく、高く冴えた空に、小さな白い月が浮かんでいる。
 儚く淡い、半月だった。

「……旦那様」

 雨のような風の音に、やわらかな女の声が混じった。

「何を見ていらっしゃるんですか?」

 背後に、落ち葉を踏む草履のひそやかで乾いた音を聞く。
 側に立った有里に微笑み、紀堂は西の空を見上げた。

「月を見ていたんだ」

 有里が白い頤を上げて紀堂の視線を辿り、あら、と呟いて目を細める。
 途端、雨のような黄金と紅が、月に見惚れる妻の上に降り注ぐ。

「寒くないか」

 袂に包むようにして肩を抱くと、有里は「いいえ」とはにかみながらこちらを見上げた。
 小春日和の日だが、風は初冬の冷たさで肌を撫でていく。有里は紀堂の胸にそうっと凭れ、月へと視線を戻す。
 腕の中の有里の体温を感じながら、紀堂もまた空を見詰めた。
 霞んだ真昼の月の下を、一縄いちじょう寒雁かんがんが渡っていく。
 乾いた微風が遠い潮騒のように響く中に、掠れた、途切れ途切れの弟の歌を聞いた気がした。 

 月もはや
 影傾きて明け方の
 雲となり雨となる……

「旦那様は、寒くはありませんか?」

 有里が問う。

「……いや」

 紀堂は月を見上げたまま微笑んで、腕に力を込めた。

「寒くないよ」

 有里のやわらかな手を、自分の手の中に包み込む。少し冷えた指が、応えるように握り返してきた。

 この光陰に誘はれて
 月の都に入り給ふ装……

 胸奥の痛みを有里ごと抱きしめるようにして、紀堂もいつしか胸の内で歌っている。

(──私の声が、聞こえますか)
 
 仄かに輝く白い月に、ほんの刹那、懐かしい面影を見たように思った。

 あら名残り惜しの面影や
 名残り惜しの面影……

 聞こえますか。私の声が、聞こえていますか。 
 月へと去っていった懐かしい人を思いながら、歌った。
             
              《了》
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感想 3

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みんなの感想(3件)

花 丸恵
2023.07.26 花 丸恵

読了しました。
読み応えがあって、ドラマチックで、登場人物に魅力があって…。
大番頭、藤五郎さん、素敵です!
私自身がこっそり物語の中に忍び込んで、お会いしたいと思うくらいかっこいい。
悪役たちも曲者揃い。誰が味方が敵かわからない恐ろしさ、とてもハラハラしました。紀堂さんはとても賢く素敵な方ですが、どんなに素敵で美しくても、一人では人は完全ではない。誰かに助けられ支えられなければ、人は完全にはなれないのだ。そんな当然のことをしみじみ感じました。
今、頭の中で、登場人物たちをどの役者さんを配役したら素敵なドラマになるか、妄想しています。紀堂さんは難しいですね! かっこいい俳優さんはたくさんいますが、美しいとなると、難しいですね!
もう一度、言いますが(何度でも言いたい)藤五郎さん、素敵でした!素敵だと思わせるキャラクターを生み出さることが、本当にすごい。
 これは個人的な話なのですが、紀堂さんが夏の暑さの中、行列に並ぶシーンがありますが、私も暑い中、行列に並んでいるときに、そのシーンを外で読んでいました。暑さにうんざりしていたのですが、物語とシンクロしたことが嬉しかったです。楽しく、胸躍る読書体験でした。ありがとうございました!

笹目いく子
2023.07.26 笹目いく子

わぁ、花様!
あたたかいご感想をいただきありがとうございます!(わざわざアカウントまで作ってくださり恐縮です 涙)
藤五郎が好きというご感想を他所でも聞くことが多いのですが、さすが大番頭、出来る男…私も好きなキャラです(^^)。
今回は陰謀コテコテのエンタメに振り切ろうと、美男子あり忍あり巨悪ありチャンバラあり…と書きたいものをこれでもかと詰め込みました。書いている時も大変楽しかったです。
自分とは何か、人との関わりでそれを作り上げていくのだと描きたかったので、花様のご感想をとてもありがたく拝見致しました。じっくり読み込んで下さり、本当にありがとうございます。
実写版を想像するのは楽しいですよね♪
紀堂役は男性は無理そうなので、いっそ宝塚からどなたか…(笑)

小説の場面と同じような場面に遭遇とは、驚きのシンクロですね!
暑さの不快さが少し紛れたら何よりです。
こちらこそ、長い物語にお付き合いいただき心から感謝申し上げます。

解除
2023.01.30 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

笹目いく子
2023.01.30 笹目いく子

渡瀬様、早速ご感想を下さりありがとうございます!
剣劇シーンをいかに格好良く書くか、いつも四苦八苦しておりますが、渡瀬様の『凛の風』が常に頭に浮かびます。あれを超える戦いの場面はなかなかないな、と密かに目標にしております…(戦い以外の場面ももちろん素晴らしいんですが!)。
どのキャラも書いていて楽しかったので、楽しんでいただけたら何よりに存じます♪
こちらこそ、お読み下さり本当にありがとうございます。
                          笹目いく子

解除
千田
2023.01.21 千田

新作!ありがとうございます!

笹目いく子
2023.01.22 笹目いく子

千田様、大変ご無沙汰申し上げました(遅筆につきやっと出来上がりました…^^;)。
こちらこそ、目に留めていただき大変ありがとうございます。
楽しんでいただけたら幸いです。 
                   笹目いく子

解除

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