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懸念(二)
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「以前にも申し上げましたが、長期のご用立てには慎重になられた方がいいと存じます。越前守様は俊才の聞こえの高いお方ですが、ご自身の才知を恃まれるあまり性急さが目立ちます。敵の多いお方ですから、いつお足元をひっくり返されてもおかしくございません。当店が大名貸しには手を出さぬことを家訓として参りましたのを、旦那様もご存知でございますね」
「わかっている。お前の言う通りにするよ」
紀堂は素直に頷いた。この男の探索力と洞察力は並ではない。全店を統率する立場の藤五郎の助言には、店主である紀堂も滅多と異議をはさむことはなかった。
「今回は旦那様の強いご意向がありましたし、旦那様はまだお若い。ご自分で商いにかかわろうとなさるのをお止めすることは致しませんでした。ですので敢えてお訊ねしませんでしたが……」
そこまで言って、藤五郎は紀堂の両目を覗き込むようにした。
「手前の目は節穴じゃございません。旦那様は勤勉なお方でいらっしゃいますが、これまで直接商いに手出しをなさることはなかった。それが、よりにもよってご老中様とお近づきになろうだなんて、まるで旦那様らしくございません。妙な色気を出されて、どういうおつもりなんで?」
「──色気といわれても、この顔は生まれつきだ」
下手な切り返しを黙殺し、大番頭が畳み掛ける。
「どうも、当店が大名家に接近しているという噂が広がっているようでございます。昨日も、薩摩島津家の勝手方役人を名乗るお方がお見えでございました」
「薩摩……」
紀堂は思わず眉根を寄せた。
薩摩は表高七十七万石を誇るが、実際の石高は三十五万石程度と言われており、深刻な財政難に喘いでいる国だ。文政末年には五百万両に達した巨額の債務を抱え、藩の存亡すら危ぶまれているほどだ。しかしながら、老中水野越前守によって、天保十年には貴重な収入源であった長崎商法が禁じられた上に、主力産品の砂糖の価格下落も相まって、財政の建て直しは遅々として進んでいない。
文化十年には、当時の藩主島津重豪は、大坂で百二十万両にのぼる藩債を焼き捨てて破棄するという強硬手段にも及んでいる。要するに借財を踏み倒したのだ。大坂商人たちは当然恐慌に陥り激しく反発した。以後、大坂の両替商は薩摩からの大名貸しの要請に応じなくなって久しかった。大坂船場に支店を持つ大鳥屋も、大名貸しは従来から行わないとはいえ、薩摩とのかかわりを持たぬように一層注意してきたのだった。
「やはり御用金の用立てをお望みでございました。丁重にお断り申し上げましたが、いや、押しが強い。旦那様を出せと執拗にご所望でした。あのご様子ではまた訪ねていらっしゃるかもしれません。旦那様、くれぐれもお一人でお使者様とお話しになることは避けてくださいまし」
「……わかった」
それに、と藤五郎は続けた。
「手前が根回しをしておいたとはいえ、両替商仲間の皆さんが不審に思っていらっしゃるのをご存知でしょう。大名貸しに今更手を広げるつもりかと」
大名家が相手の大名貸しは、特権や利益をもたらすかわりに巨額の融資を踏み倒される危険も伴う諸刃の剣だ。大鳥屋の初代はこれによって財の多くを築いたが、その後危うい大名貸しを禁じる家憲を残していた。代々の紀堂はこれを守って大名貸しにはほとんど手を出してはこなかった。反対に、これを盛んに行う本両替商仲間は、豪商の大鳥屋が大名貸しに加わらぬことで自身の得意先と権益とを守ってきた。互いの領分を侵さぬことは、両替商仲間の間のいらぬ緊張と摩擦を避ける上でも望ましいのだ。
それを、突如大鳥屋が反故にしようとしているのではないか。彼らが紀堂の行動を見てそう懸念を抱くのも無理はなかった。
「それもわかっている。大鳥屋は大名貸しを柱にすることは決してない。今度の寄合で旦那さん方にもよくよくお話ししておくよ」
「もうひとつ……」
藤五郎がなおも続けた。
「千川様の旧ご家臣の方々を、幾度もお訪ねになっていらっしゃいますね? ご用人様とことに頻々とお会いになっておられる。昨日も柳橋で密談なさっておいででしたね」
有里から知らせが届いたのか、と眉をひそめると、それを読み取ったように、
「手前の目はあちこちにございます」
と藤五郎が先回りした。
「──いけないのか」
紀堂は声を固くして切り返した。
「ご家臣方をお見舞いしているだけだろう」
「ここまでなさるのはやり過ぎです。大鳥屋の店主が動けば目立つのです。尾形様らご旧臣にはご公儀の監視がついているかもしれません。大鳥屋へ下手な疑いがかかるようなお振る舞いは、お控えになっていただかねば困ります」
そこで藤五郎は一度口を噤んだ。
「……旦那様。千川様のご家門の再興をお考えなのですか?」
紀堂はちらりと目を上げた。
「ご権門に接近して、お許しをいただこうとなさっていらっしゃるんですか」
家門の再興は、むろん望んでいた。
千川家が大罪人の汚名を着せられて絶えるなぞ、許せるわけがない。仇を討ち取った暁には、幕閣に働きかけて千川家の名誉を回復し、宗家大沢家の子息を当主に立てるのだ。そのためには、自身の資産をすべて注ぎ込もうと構わないと考えていた。
……しかし、仇討ちを成すことはすべてに優先する。たとえ千川家の再興が先に許されようと、糸を引いている者に見えるまで、狩りをやめる気などない。
だが藤五郎は、父である千川広忠と弟の広衛が埋葬され、旧家臣が解放されたことで、千川家の一件はとりあえずの終結を迎えたと考えているのだ。千川家の再興は容易ではないが、大鳥屋の財力を用いて、千川に同情的な堀大和守や水野越前守らに根気よく働きかけ、大沢家の子息を当主に立てて千川家を再び興す。冷静に、根気強く。──理知的な大番頭が見据えているのは、この道筋なのだろう。
まさか紀堂が、千川家滅亡の首謀者を血祭りに上げようとして働いているなど、思いも寄らぬに違いなかった。町人の身で、おそらくは大身であろう武家を討とうなぞ、およそ正気の沙汰ではない。道理を詰めたら明らかなことだ。
だが、復讐に身分も道理もかかわりなどあるものか。
家門は必ず再興する。だが、その前に仇に償いをさせてやる。父や弟と同じように、切り刻んで塩漬けにしてくれる。
後のことも、己のことも、知らぬ、と心が吼え立てる。ただこの憎悪と狂気以外に、生きる目的はなかった。
文月の一件以来、突如剣の鍛錬をはじめた紀堂の様子が尋常でないことを、藤五郎に覚られているのはわかっていた。
紀堂は店主として店全体にゆったり目を配る一方で、若さから才気走って手腕を発揮しようと我を通すこともなかった。店主の役割を肝に銘じ、もっぱら重役の裁量に経営を委ねてきたのだ。だから、近頃の稀堂の行動はどういう心境の変化であろうかと、首をひねっている番頭衆も少なからずいるらしかった。
長く親交のあった千川家に援助を惜しまぬのはともかく、重役に任せていた実務に急に関心を示し、水野家への大名貸を言い出した若い店主の心境を訝しむのも無理はない。ただでさえ切れ者の藤五郎には、紀堂の行動など万事お見通しであろうとは思っていた。とはいえ、放蕩に耽るわけでもなければ番頭以下の仕事に口を挟むわけでもなく、顧客開拓に努める店主の働きは望ましいものだ。大番頭が全面的に紀堂の補佐に当たっていることもあり、重役たちは好意的にこの若い店主を見守っているのだ。
庭のどこかで鋭くキチキチと鳴く百舌の声が、耳を打つ。
根比べのような沈黙が、沈殿するように積もっていく。息苦しさに耐えかねて目を逸らしたのは、紀堂の方が先だった。
「……俺はただ、千川様のお役に立ちたいだけだ」
硬い声で呟くと、紀堂は短刀を構え直した。
上段から踏み込んで打ち下ろし、間髪入れずに横に薙ぐ。体を入れ替えざま膂力を込めて袈裟懸けに切り下ろすと、乳白色に明らんできた庭に、ひゅう、と鋭い唸りが響いた。
「奉公人たちが皆案じておりますよ。店主は店の顔、奉公人の拠り所なんでございます、旦那様」
藤五郎の静かな声が胸に刺さり、じわじわと痛みが広がっていく。
わかっている。わかっている。
武家であるが故の不条理と束縛を逃れ、ただの人としてささやかな幸福を掴んで欲しいと、父と義父が与えてくれた町人の暮らしだった。大鳥屋店主という分限者の地位までも与えられて、何の不足があるだろう。だが、どうしても忘れられぬと魂が叫ぶ。この痛みを、悲嘆と絶望をすべて押し殺し、何ごともなかったかのようにして生きることにどんな意味があるのかと、どれほど問うてみても答えが見出せない。
商人として懸命に生きてきた。大鳥屋と奉公人たちを大切に思ってきた。義父を実の父とも慕っていた。
けれど、千川の父と弟を、同じくらい愛していた。幸福であってほしいと祈っていた。
踏み躙られて血にまみれたその思いは、どこへ向かえばいい。
息があがり、喉と肺腑が燃えている。
斜めに投げかけられる朝日を断つように、紀堂は黙々と空に斬りつけ続けた。
「わかっている。お前の言う通りにするよ」
紀堂は素直に頷いた。この男の探索力と洞察力は並ではない。全店を統率する立場の藤五郎の助言には、店主である紀堂も滅多と異議をはさむことはなかった。
「今回は旦那様の強いご意向がありましたし、旦那様はまだお若い。ご自分で商いにかかわろうとなさるのをお止めすることは致しませんでした。ですので敢えてお訊ねしませんでしたが……」
そこまで言って、藤五郎は紀堂の両目を覗き込むようにした。
「手前の目は節穴じゃございません。旦那様は勤勉なお方でいらっしゃいますが、これまで直接商いに手出しをなさることはなかった。それが、よりにもよってご老中様とお近づきになろうだなんて、まるで旦那様らしくございません。妙な色気を出されて、どういうおつもりなんで?」
「──色気といわれても、この顔は生まれつきだ」
下手な切り返しを黙殺し、大番頭が畳み掛ける。
「どうも、当店が大名家に接近しているという噂が広がっているようでございます。昨日も、薩摩島津家の勝手方役人を名乗るお方がお見えでございました」
「薩摩……」
紀堂は思わず眉根を寄せた。
薩摩は表高七十七万石を誇るが、実際の石高は三十五万石程度と言われており、深刻な財政難に喘いでいる国だ。文政末年には五百万両に達した巨額の債務を抱え、藩の存亡すら危ぶまれているほどだ。しかしながら、老中水野越前守によって、天保十年には貴重な収入源であった長崎商法が禁じられた上に、主力産品の砂糖の価格下落も相まって、財政の建て直しは遅々として進んでいない。
文化十年には、当時の藩主島津重豪は、大坂で百二十万両にのぼる藩債を焼き捨てて破棄するという強硬手段にも及んでいる。要するに借財を踏み倒したのだ。大坂商人たちは当然恐慌に陥り激しく反発した。以後、大坂の両替商は薩摩からの大名貸しの要請に応じなくなって久しかった。大坂船場に支店を持つ大鳥屋も、大名貸しは従来から行わないとはいえ、薩摩とのかかわりを持たぬように一層注意してきたのだった。
「やはり御用金の用立てをお望みでございました。丁重にお断り申し上げましたが、いや、押しが強い。旦那様を出せと執拗にご所望でした。あのご様子ではまた訪ねていらっしゃるかもしれません。旦那様、くれぐれもお一人でお使者様とお話しになることは避けてくださいまし」
「……わかった」
それに、と藤五郎は続けた。
「手前が根回しをしておいたとはいえ、両替商仲間の皆さんが不審に思っていらっしゃるのをご存知でしょう。大名貸しに今更手を広げるつもりかと」
大名家が相手の大名貸しは、特権や利益をもたらすかわりに巨額の融資を踏み倒される危険も伴う諸刃の剣だ。大鳥屋の初代はこれによって財の多くを築いたが、その後危うい大名貸しを禁じる家憲を残していた。代々の紀堂はこれを守って大名貸しにはほとんど手を出してはこなかった。反対に、これを盛んに行う本両替商仲間は、豪商の大鳥屋が大名貸しに加わらぬことで自身の得意先と権益とを守ってきた。互いの領分を侵さぬことは、両替商仲間の間のいらぬ緊張と摩擦を避ける上でも望ましいのだ。
それを、突如大鳥屋が反故にしようとしているのではないか。彼らが紀堂の行動を見てそう懸念を抱くのも無理はなかった。
「それもわかっている。大鳥屋は大名貸しを柱にすることは決してない。今度の寄合で旦那さん方にもよくよくお話ししておくよ」
「もうひとつ……」
藤五郎がなおも続けた。
「千川様の旧ご家臣の方々を、幾度もお訪ねになっていらっしゃいますね? ご用人様とことに頻々とお会いになっておられる。昨日も柳橋で密談なさっておいででしたね」
有里から知らせが届いたのか、と眉をひそめると、それを読み取ったように、
「手前の目はあちこちにございます」
と藤五郎が先回りした。
「──いけないのか」
紀堂は声を固くして切り返した。
「ご家臣方をお見舞いしているだけだろう」
「ここまでなさるのはやり過ぎです。大鳥屋の店主が動けば目立つのです。尾形様らご旧臣にはご公儀の監視がついているかもしれません。大鳥屋へ下手な疑いがかかるようなお振る舞いは、お控えになっていただかねば困ります」
そこで藤五郎は一度口を噤んだ。
「……旦那様。千川様のご家門の再興をお考えなのですか?」
紀堂はちらりと目を上げた。
「ご権門に接近して、お許しをいただこうとなさっていらっしゃるんですか」
家門の再興は、むろん望んでいた。
千川家が大罪人の汚名を着せられて絶えるなぞ、許せるわけがない。仇を討ち取った暁には、幕閣に働きかけて千川家の名誉を回復し、宗家大沢家の子息を当主に立てるのだ。そのためには、自身の資産をすべて注ぎ込もうと構わないと考えていた。
……しかし、仇討ちを成すことはすべてに優先する。たとえ千川家の再興が先に許されようと、糸を引いている者に見えるまで、狩りをやめる気などない。
だが藤五郎は、父である千川広忠と弟の広衛が埋葬され、旧家臣が解放されたことで、千川家の一件はとりあえずの終結を迎えたと考えているのだ。千川家の再興は容易ではないが、大鳥屋の財力を用いて、千川に同情的な堀大和守や水野越前守らに根気よく働きかけ、大沢家の子息を当主に立てて千川家を再び興す。冷静に、根気強く。──理知的な大番頭が見据えているのは、この道筋なのだろう。
まさか紀堂が、千川家滅亡の首謀者を血祭りに上げようとして働いているなど、思いも寄らぬに違いなかった。町人の身で、おそらくは大身であろう武家を討とうなぞ、およそ正気の沙汰ではない。道理を詰めたら明らかなことだ。
だが、復讐に身分も道理もかかわりなどあるものか。
家門は必ず再興する。だが、その前に仇に償いをさせてやる。父や弟と同じように、切り刻んで塩漬けにしてくれる。
後のことも、己のことも、知らぬ、と心が吼え立てる。ただこの憎悪と狂気以外に、生きる目的はなかった。
文月の一件以来、突如剣の鍛錬をはじめた紀堂の様子が尋常でないことを、藤五郎に覚られているのはわかっていた。
紀堂は店主として店全体にゆったり目を配る一方で、若さから才気走って手腕を発揮しようと我を通すこともなかった。店主の役割を肝に銘じ、もっぱら重役の裁量に経営を委ねてきたのだ。だから、近頃の稀堂の行動はどういう心境の変化であろうかと、首をひねっている番頭衆も少なからずいるらしかった。
長く親交のあった千川家に援助を惜しまぬのはともかく、重役に任せていた実務に急に関心を示し、水野家への大名貸を言い出した若い店主の心境を訝しむのも無理はない。ただでさえ切れ者の藤五郎には、紀堂の行動など万事お見通しであろうとは思っていた。とはいえ、放蕩に耽るわけでもなければ番頭以下の仕事に口を挟むわけでもなく、顧客開拓に努める店主の働きは望ましいものだ。大番頭が全面的に紀堂の補佐に当たっていることもあり、重役たちは好意的にこの若い店主を見守っているのだ。
庭のどこかで鋭くキチキチと鳴く百舌の声が、耳を打つ。
根比べのような沈黙が、沈殿するように積もっていく。息苦しさに耐えかねて目を逸らしたのは、紀堂の方が先だった。
「……俺はただ、千川様のお役に立ちたいだけだ」
硬い声で呟くと、紀堂は短刀を構え直した。
上段から踏み込んで打ち下ろし、間髪入れずに横に薙ぐ。体を入れ替えざま膂力を込めて袈裟懸けに切り下ろすと、乳白色に明らんできた庭に、ひゅう、と鋭い唸りが響いた。
「奉公人たちが皆案じておりますよ。店主は店の顔、奉公人の拠り所なんでございます、旦那様」
藤五郎の静かな声が胸に刺さり、じわじわと痛みが広がっていく。
わかっている。わかっている。
武家であるが故の不条理と束縛を逃れ、ただの人としてささやかな幸福を掴んで欲しいと、父と義父が与えてくれた町人の暮らしだった。大鳥屋店主という分限者の地位までも与えられて、何の不足があるだろう。だが、どうしても忘れられぬと魂が叫ぶ。この痛みを、悲嘆と絶望をすべて押し殺し、何ごともなかったかのようにして生きることにどんな意味があるのかと、どれほど問うてみても答えが見出せない。
商人として懸命に生きてきた。大鳥屋と奉公人たちを大切に思ってきた。義父を実の父とも慕っていた。
けれど、千川の父と弟を、同じくらい愛していた。幸福であってほしいと祈っていた。
踏み躙られて血にまみれたその思いは、どこへ向かえばいい。
息があがり、喉と肺腑が燃えている。
斜めに投げかけられる朝日を断つように、紀堂は黙々と空に斬りつけ続けた。
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