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大鳥屋五代目紀堂(二)
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捕方に斬り殺された千川家当主と嫡子の遺骸は、千川家の処遇が決定するまで塩漬にして保管され、改めて磔に処され衆目に晒されるのだという。
「藤五郎……手は、ないか。手立ては」
紀堂はがちがちと鳴る歯を噛み締めながら、呻いた。
「金ならいくらでも出す。どなたか、ご老中のどなたか……」
「──旦那様、懐柔は……難しいことと存じます」
大番頭が固い声で応じる。
「ことはもう、町人が介入できる段階にはございません。当店が下手に動けばかえって千川様への扱いが悪くなるかもしれません。しかし、あまりにも無残な思し召しであると、ご本家の大沢様をはじめとするご権門からの嘆願が相次いでいるそうでございます。千川様のご家臣方も、食を絶ってご寛恕を願っておられるそうです。……減刑のご下知を、待つ他はないかと存じます」
千川家は、後二条天皇の御子である邦良親王を始祖とする皇族の血脈なれば、遺骸を磔にする恥辱だけは赦されたい、と本家である高家大沢家当主右京太夫や他の高家からの歎願が相次いでいるという。また、千川家筆頭家老の境久右衛門をはじめ、監禁されている家臣らは、磔刑の知らせを受けて相次いで食を絶ち、無言の、しかし凄絶な抗議の意志を示していた。
「……何か、出来ることはないか……何か……」
苦痛に拉がれそうになりながら訊ねると、
「ございます」
藤五郎が即座に答える。
「残されたご家臣方へお力添えを致しましょう。まずは堀様に接触し、当店からご支援をさせていただけるか打診すべきかと。お武家様にお預かりとなった場合、ご処遇は各家のご裁量に任されます。中には丁重に扱うお家もございますが、罪に問われたお家のご家臣となれば、どのような扱いを受けるかわかりません。預かり先のお家にとっても負担の多いことでございますから、小藩の飯田にはできることに限りがございますでしょう。傷を負っておいでのご家臣方も多いはず。医者や薬が必要となれば、金はいくらあっても困りません」
平静な大番頭の声を聞くうちに、紀堂のぼやけていた意識は少しずつ焦点を結んでいた。
その通りだ。生きている者がいる。彼らを、まずは救えるだけ救わなくては……
「……わかった。やろう。他には」
「他にもございます」
大鳥屋きっての切れ者と言われる大番頭は、揺るぎなく応じる。
「皆様の拘禁が解けた暁には、どこかに受け入れる場所が必要となります。お取り潰しとなればお住まいもなくなりますし、処罰を受けた以上再仕官は困難でございましょう。大沢様のお立場からしても、ご宗家に受け入れるには限界がございますはず。そこで、当店の寮や町屋を準備しておくのはいかがでしょうか。まずはそこへお出でいただき、身の振りようをお考えいただきましょう」
最初の動揺から立ち直り、藤五郎はどこまでも落ち着き払っていた。
三十七という若さで全店の大元締を務めるだけあって、きりりとした眼光鋭い顔つきに、大店の大番頭という威厳が具わっている男だった。才長けている上に恐ろしく目端が利くので、頭の中に閻魔帳が入っているとか、店の見聞方を密かに用いて全店の奉公人の仕事ぶりを逐一把握しているのだとか、真実なのか誇張なのか判然としない噂がまことしやかに囁かれている。
道理を詰めて現実から目を逸らさない胆力が頼もしく、羨ましくも感じられる。
紀堂は深く嘆息し、顔を手のひらで擦った。
「そうか……そうだな」
気づいたら数日髭を当たっていなかった。髭の薄い性質だが、それでも肌がざりざりとする。黒羽織をきっちり纏い、泰然とした大番頭とは大違いの腑抜けた様だ。
千川家家臣は屋敷内の長屋に住居を与えられていたため、禁固が解けて放免されたとしても行き場がないことは明らかだ。昨今珍しく千川家には譜代の家臣が多かったから、渡りの武家奉公人はまだしも、罪を負って改易された家の家臣となれば、他家へ受け入れられる望みは少ない。いや、そもそも忠義に厚い家臣団であったから、「二君に仕えず」として、他家へ仕えることなど端から考えておらぬかもしれなかった。
「──お二人の後を追おうとなさる方も、おられるかもしれないな……」
今は監視の目がある上に、腹を切ろうにも差料すら腰にない。しかし、一旦刑が解けたならば、主君の後を追う者が次々出るかもしれなかった。いかに広忠と広衛への敬慕が深いといえど、千川家の家臣がことごとく死に絶えるなど、とても見過ごせることではない。
「大鳥屋の目の届くところにいていただくのが、安心か」
懐の笛を着物の上から押さえ、紀堂は唇を引き結び顔を上げた。
「飯田堀家を訪ねよう。重役にも根回しを頼む。必要なら金は俺が出す」
ある程度の大店の場合、店の資産と店主個人の資産は明確に切り離されているのが普通だった。清貧を重んじる大鳥屋の家憲を忠実に守り、代々の店主は放蕩に金を費やすこともなかったから、代を重ねるごとに資産は増える一方だった。今や紀堂個人の資産は金銀のみで数万両を越え、風光明媚な屋敷を江戸と大坂に所持している。また、長屋や町屋を購入しては貸し出して、さらに富を蓄積していた。不動産の評価額によっては総額はより膨大なものとなるだろう。
大鳥屋を動かさずとも、金で片のつくことであれば、およそ大抵のことで紀堂に出来ぬことはないのだ。
──金で片のつくことであったなら。
自分の無力さに拉がれそうだ。いつか千川家の役に立つこともあるだろうと、商いに励んできた挙句がこの有様だ。
「千川様と当店は長いお付き合いがございますから、反対する番頭はおりませんでしょう。それに、旦那様のご資金はいざという時のために残しておくべきかと存じます。この先何が起こるかわかりません」
「──わかった」
紀堂は努めて平静に頷いた。
「……わかった」
乾いた声で繰り返し、すべきことに集中しようと試みる。できるはずだ。お前は大鳥屋を背負う店主だろう。まず風呂を使ってしゃんとしろ。髪結いを呼んで、番頭衆に話を……話をして……それから……
障子の外で、悶えるような蝉声が鳴り響く。途端、思案が途切れた。
立ち上がろうと膝を起こしかけたまま、紀堂は塑像の様に固まった。
甲高い蝉の声が、切り裂くように谺する。人気の絶えた白壁の屋敷と、閉ざされた表門が陽炎の様に眼前に浮かぶ。
(……死んだ……)
ぐらりと体が傾いだ。全身から血の気が引いて、思考がばらばらに崩れ落ちる。混沌が押し寄せ、口まで泥濘を詰め込まれたように息が詰まる。絶望に埋もれて身動きが取れない。立ち上がることなどできない。ずぶずぶと、沈んでいく。
嘘だ。嘘だ。
頭を抱え、蹲ったまま紀堂は呻いた。
こんなことがあるわけがない。千川が絶えたなぞ、嘘だ。嘘だと言ってくれ……
うねりながら猛々しく砕ける鉛色の波頭が、突如眼前に浮かぶ。耳の奥に、吹き荒ぶ風の音が響き渡る。
海と空とが叫んでいた。
大波の轟きが聞こえる。雨粒まじりの風に煽られながら、紀堂は海を見つめている。このまま、嵐が自分を連れ去ってくれはしないかと、一心に思っていた。そんな馬鹿なことは起こるはずもないと知りながらも、ここから運んで行ってはくれないかと、ひとりぽっちで嵐の海を睨んでいた。
……あの幼い頃に、また戻ってしまった。
懐に納めた笛の、あまりにも軽い感触が耐え難かった。
二度とこの笛の音を聞くことはない。
もう……これを奏でてくださる方はいない。
地獄にいる。ここが地獄でないのだとしたら、他にどんな地獄があるというのか。
「広彬様」
両手で頭を抱えた紀堂を、藤五郎が鋭く呼んだ。
「広彬様、しっかりなさいませ」
蝉の声がぶつりと絶える。ざあざと不意の強い風が通り過ぎる。紀堂は放心したように藤五郎を見上げた。
「お父上様と弟君様のご無念、いかばかりでございましたでしょうか。旦那様のお嘆きは、お察しするに余りあります。まことに……まことに、口惜しくてなりません」
滅多に心の揺れを表さぬ男の低い声が、かすれている。
「しかし、広彬様……まだ、できることがございます。すべきことが、ございます。あなた様にしかできないのです」
大番頭の見開かれた両眼を虚ろに見返した。絶え間ない苦痛が全身を苛んでいる。裸で剣の山に投げ込まれたかのようなそれは、心だけでなく体をも突き刺す現実の痛みだった。それなのに、体中血にまみれ、断末魔の苦しみに息も絶えそうだというのに、この男は立てという。
涙が一筋、鼻の脇を伝い落ちていった。
「父と、弟を……失ってもか」
「はい。その通りです」
即座に答えが返ってきた。鋭い両眼が、逸らすことを許さぬように紀堂の視線を掴んでいる。
「今この時だからこそ、そうなさらねばならないのです」
広彬様、と厳しい声がもう一度繰り返した。
錦の袋に入った笛を、着物の上からふるえる手で掴む。
大鳥屋五代目紀堂、あるいは千川広彬という名を持つ青年は、ただそうして蹲まり、耳の奥に轟く風と波の咆哮を聞いていた。
「藤五郎……手は、ないか。手立ては」
紀堂はがちがちと鳴る歯を噛み締めながら、呻いた。
「金ならいくらでも出す。どなたか、ご老中のどなたか……」
「──旦那様、懐柔は……難しいことと存じます」
大番頭が固い声で応じる。
「ことはもう、町人が介入できる段階にはございません。当店が下手に動けばかえって千川様への扱いが悪くなるかもしれません。しかし、あまりにも無残な思し召しであると、ご本家の大沢様をはじめとするご権門からの嘆願が相次いでいるそうでございます。千川様のご家臣方も、食を絶ってご寛恕を願っておられるそうです。……減刑のご下知を、待つ他はないかと存じます」
千川家は、後二条天皇の御子である邦良親王を始祖とする皇族の血脈なれば、遺骸を磔にする恥辱だけは赦されたい、と本家である高家大沢家当主右京太夫や他の高家からの歎願が相次いでいるという。また、千川家筆頭家老の境久右衛門をはじめ、監禁されている家臣らは、磔刑の知らせを受けて相次いで食を絶ち、無言の、しかし凄絶な抗議の意志を示していた。
「……何か、出来ることはないか……何か……」
苦痛に拉がれそうになりながら訊ねると、
「ございます」
藤五郎が即座に答える。
「残されたご家臣方へお力添えを致しましょう。まずは堀様に接触し、当店からご支援をさせていただけるか打診すべきかと。お武家様にお預かりとなった場合、ご処遇は各家のご裁量に任されます。中には丁重に扱うお家もございますが、罪に問われたお家のご家臣となれば、どのような扱いを受けるかわかりません。預かり先のお家にとっても負担の多いことでございますから、小藩の飯田にはできることに限りがございますでしょう。傷を負っておいでのご家臣方も多いはず。医者や薬が必要となれば、金はいくらあっても困りません」
平静な大番頭の声を聞くうちに、紀堂のぼやけていた意識は少しずつ焦点を結んでいた。
その通りだ。生きている者がいる。彼らを、まずは救えるだけ救わなくては……
「……わかった。やろう。他には」
「他にもございます」
大鳥屋きっての切れ者と言われる大番頭は、揺るぎなく応じる。
「皆様の拘禁が解けた暁には、どこかに受け入れる場所が必要となります。お取り潰しとなればお住まいもなくなりますし、処罰を受けた以上再仕官は困難でございましょう。大沢様のお立場からしても、ご宗家に受け入れるには限界がございますはず。そこで、当店の寮や町屋を準備しておくのはいかがでしょうか。まずはそこへお出でいただき、身の振りようをお考えいただきましょう」
最初の動揺から立ち直り、藤五郎はどこまでも落ち着き払っていた。
三十七という若さで全店の大元締を務めるだけあって、きりりとした眼光鋭い顔つきに、大店の大番頭という威厳が具わっている男だった。才長けている上に恐ろしく目端が利くので、頭の中に閻魔帳が入っているとか、店の見聞方を密かに用いて全店の奉公人の仕事ぶりを逐一把握しているのだとか、真実なのか誇張なのか判然としない噂がまことしやかに囁かれている。
道理を詰めて現実から目を逸らさない胆力が頼もしく、羨ましくも感じられる。
紀堂は深く嘆息し、顔を手のひらで擦った。
「そうか……そうだな」
気づいたら数日髭を当たっていなかった。髭の薄い性質だが、それでも肌がざりざりとする。黒羽織をきっちり纏い、泰然とした大番頭とは大違いの腑抜けた様だ。
千川家家臣は屋敷内の長屋に住居を与えられていたため、禁固が解けて放免されたとしても行き場がないことは明らかだ。昨今珍しく千川家には譜代の家臣が多かったから、渡りの武家奉公人はまだしも、罪を負って改易された家の家臣となれば、他家へ受け入れられる望みは少ない。いや、そもそも忠義に厚い家臣団であったから、「二君に仕えず」として、他家へ仕えることなど端から考えておらぬかもしれなかった。
「──お二人の後を追おうとなさる方も、おられるかもしれないな……」
今は監視の目がある上に、腹を切ろうにも差料すら腰にない。しかし、一旦刑が解けたならば、主君の後を追う者が次々出るかもしれなかった。いかに広忠と広衛への敬慕が深いといえど、千川家の家臣がことごとく死に絶えるなど、とても見過ごせることではない。
「大鳥屋の目の届くところにいていただくのが、安心か」
懐の笛を着物の上から押さえ、紀堂は唇を引き結び顔を上げた。
「飯田堀家を訪ねよう。重役にも根回しを頼む。必要なら金は俺が出す」
ある程度の大店の場合、店の資産と店主個人の資産は明確に切り離されているのが普通だった。清貧を重んじる大鳥屋の家憲を忠実に守り、代々の店主は放蕩に金を費やすこともなかったから、代を重ねるごとに資産は増える一方だった。今や紀堂個人の資産は金銀のみで数万両を越え、風光明媚な屋敷を江戸と大坂に所持している。また、長屋や町屋を購入しては貸し出して、さらに富を蓄積していた。不動産の評価額によっては総額はより膨大なものとなるだろう。
大鳥屋を動かさずとも、金で片のつくことであれば、およそ大抵のことで紀堂に出来ぬことはないのだ。
──金で片のつくことであったなら。
自分の無力さに拉がれそうだ。いつか千川家の役に立つこともあるだろうと、商いに励んできた挙句がこの有様だ。
「千川様と当店は長いお付き合いがございますから、反対する番頭はおりませんでしょう。それに、旦那様のご資金はいざという時のために残しておくべきかと存じます。この先何が起こるかわかりません」
「──わかった」
紀堂は努めて平静に頷いた。
「……わかった」
乾いた声で繰り返し、すべきことに集中しようと試みる。できるはずだ。お前は大鳥屋を背負う店主だろう。まず風呂を使ってしゃんとしろ。髪結いを呼んで、番頭衆に話を……話をして……それから……
障子の外で、悶えるような蝉声が鳴り響く。途端、思案が途切れた。
立ち上がろうと膝を起こしかけたまま、紀堂は塑像の様に固まった。
甲高い蝉の声が、切り裂くように谺する。人気の絶えた白壁の屋敷と、閉ざされた表門が陽炎の様に眼前に浮かぶ。
(……死んだ……)
ぐらりと体が傾いだ。全身から血の気が引いて、思考がばらばらに崩れ落ちる。混沌が押し寄せ、口まで泥濘を詰め込まれたように息が詰まる。絶望に埋もれて身動きが取れない。立ち上がることなどできない。ずぶずぶと、沈んでいく。
嘘だ。嘘だ。
頭を抱え、蹲ったまま紀堂は呻いた。
こんなことがあるわけがない。千川が絶えたなぞ、嘘だ。嘘だと言ってくれ……
うねりながら猛々しく砕ける鉛色の波頭が、突如眼前に浮かぶ。耳の奥に、吹き荒ぶ風の音が響き渡る。
海と空とが叫んでいた。
大波の轟きが聞こえる。雨粒まじりの風に煽られながら、紀堂は海を見つめている。このまま、嵐が自分を連れ去ってくれはしないかと、一心に思っていた。そんな馬鹿なことは起こるはずもないと知りながらも、ここから運んで行ってはくれないかと、ひとりぽっちで嵐の海を睨んでいた。
……あの幼い頃に、また戻ってしまった。
懐に納めた笛の、あまりにも軽い感触が耐え難かった。
二度とこの笛の音を聞くことはない。
もう……これを奏でてくださる方はいない。
地獄にいる。ここが地獄でないのだとしたら、他にどんな地獄があるというのか。
「広彬様」
両手で頭を抱えた紀堂を、藤五郎が鋭く呼んだ。
「広彬様、しっかりなさいませ」
蝉の声がぶつりと絶える。ざあざと不意の強い風が通り過ぎる。紀堂は放心したように藤五郎を見上げた。
「お父上様と弟君様のご無念、いかばかりでございましたでしょうか。旦那様のお嘆きは、お察しするに余りあります。まことに……まことに、口惜しくてなりません」
滅多に心の揺れを表さぬ男の低い声が、かすれている。
「しかし、広彬様……まだ、できることがございます。すべきことが、ございます。あなた様にしかできないのです」
大番頭の見開かれた両眼を虚ろに見返した。絶え間ない苦痛が全身を苛んでいる。裸で剣の山に投げ込まれたかのようなそれは、心だけでなく体をも突き刺す現実の痛みだった。それなのに、体中血にまみれ、断末魔の苦しみに息も絶えそうだというのに、この男は立てという。
涙が一筋、鼻の脇を伝い落ちていった。
「父と、弟を……失ってもか」
「はい。その通りです」
即座に答えが返ってきた。鋭い両眼が、逸らすことを許さぬように紀堂の視線を掴んでいる。
「今この時だからこそ、そうなさらねばならないのです」
広彬様、と厳しい声がもう一度繰り返した。
錦の袋に入った笛を、着物の上からふるえる手で掴む。
大鳥屋五代目紀堂、あるいは千川広彬という名を持つ青年は、ただそうして蹲まり、耳の奥に轟く風と波の咆哮を聞いていた。
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