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化け猫こわい(二)
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「その猫、いやお猫様だけではなく……?」
仙一郎が耳を疑うようにして尋ねた。
「左様。おみょうどのも共に頼みたい。存分に礼はする。ならんか」
「ええと……まぁ、おみょう様については大歓迎なんでございますが」と聞き捨てならぬ本音を漏らし、「しかし、私めは一介の町人でございまして……お武家様の御用を足せるものかと、甚だ心許なく存じますが」不思議そうに小首を傾げた。
うむ、と長岡が平静に相槌を打った。
「このおみょうどのは御家のご正室付きの奥女中を務めておるのだが、近頃あの猫に呪われているという噂が立っての。奥勤めをさせておくには不穏だということになり、猫共々お屋敷から出すことと相なったのだ」
「ははぁ、猫に呪われて……」
仙一郎は要領を得ない様子でおみょうと猫を眺める。
娘は陶器のような白い頬をかすかに強張らせ、悲しげに長い睫毛を瞬かせている。ご正室の奥女中であればお武家の出自なのであろう。姿勢の美しい凛とした佇まいをしているが、それでいて哀れを誘う儚さが纏わりついているように感じられた。手焙りにくっついている猫は……すっかり夢の中のようだ。この猫のどの辺りが化け猫なのか、とお凛は内心吹き出しそうになった。形こそ大きいが、この緩みきった顔と体で凄まれたところで、恐ろしくもなんともなかろう。怪異話には見境なしに飛びつくはずの仙一郎も、猫の祟りよりもおみょう様の美貌の方が気になる様子だ。けれども、お侍の表情は真面目も真面目の大真面目、おみょう様も今にも涙を零しそうな顔色だった。
「それはそれは、何とも一大事でございますねぇ。で……不躾とは存じますが、そのう、長岡様は、どちらのご家中でおいでで……?」
「故あって、それは申せぬ。詮索をすることは許さぬから左様に心得よ」
ぴしりと鼻面を打つような声に、お凛はどきりとした。長岡慎之介としか名乗っていないところを見ると、身分を明かすつもりもないようだ。徹底している。これはいよいよただごとではないらしい、とうなじの辺りがひやりとした。
「ーーと申すのも、ことはお家の大事に関わるからだ。……委細を聞けば断ることは許さぬが、聞くか?」
長岡がわずかに身を乗り出す。上背のある男の体がさらに背丈を増したように感じられ、腰の脇差の存在が急に不穏な空気を醸し出す。断ったら……どうなるのだろう。縁起でもない想像が頭を過った。
「いや、うーん……そうおっしゃられますと、好奇心が掻き立てられるんでございますが……迷いますねぇ。私も命は惜しいですし……」
聞こうか聞くまいか悶絶しながら悩んでいた仙一郎は、やがて飴玉みたいな目でお凛を見た。
「ーーま、いいか。お前も聞きなさい、お凛」といきなり振ってきた。
「えっ、いいえ、私は結構です。女中風情が恐れ多い……」お凛はぶんぶんかぶりを振って、じりじりと膝で後退る。
「自分だけ逃げる気か?ずるいぞ。お前だって聞きたいくせに」
「ちょっと、人を道連れにするのは止めて下さいよ!私は関係ありません」
「お前な、主人を見捨てる気か?」
「知ったこっちゃありません。私は人生まだまだ長いんです。何掴んでるんですか!放して下さいってば」
お凛の袖を掴む主にお盆を振り上げ、見苦しく言い争っていると、長岡の咳払いが響いたので慌てて小さくなった。
「……三月ほど前のことであった。我が殿が祝宴を催されたのだが……」
ちょっと、まだ聞くとは言っていないのに、というお凛の抗議の視線を無視して続ける。
「その際に、いずこからかこの猫が迷い込んで参ってな」
猫は小鳥を追ってきたらしく、座敷を飛び回る小鳥を狙って暴れ回ったらしい。女たちは悲鳴を上げて逃げ惑い、男たちは右往左往。あげくに、恐れ多くも猫がお殿様のお背中に足をかけようとしたものだから、その場にいたおみょうは咄嗟に猫を抱え込んでお殿様をお守りしたのだそうな。
お殿様は、若い奥女中の行動にいたく感動なさり、褒美を取らせると仰せになった。するとおみょうは、
「この猫をお与え下さいませ」と慎み深く言ったのだった。
お殿様に無礼を働いた猫であれば、手討ちにされると恐れたのであろう。おみょうの無欲と心根のやさしさに、お殿様は心引かれ、じきに側妾にと望まれた。お玉と名づけられた猫は、おみょうに恩義を感じたのかすっかり懐いて、おみょうの行くところどこへでもついてまわるようになっていた。
だがしかし。他の奥女中たちは当然面白くない。まったく面白くない。案の定、おみょうに様々ないやがらせをしはじめたのである。
「すると、その者たちが次々に病や怪我を負ってな。その猫を見た後病を得た、あるいは怪我を負った、おみょうどのが猫に命じて祟らせたのだ、などという噂がまことしやかに囁かれるようになった」
「……何やら、聞いたことのあるお話ですな。有馬様の猫騒動を思い出します」
仙一郎が面白そうに言うと、長岡は額を曇らせた。
「いかにも。そう言ってこのおみょうどのに、よからぬ噂を立てはじめたのよ」
日の本には三大化け猫伝説なるものがあって、それぞれ佐賀鍋島、岡崎、そして江戸は芝赤羽の久留米有馬家江戸屋敷を舞台としている。中でも有馬家江戸屋敷の怪異伝は、こういうものだ。
ある日、奥御殿にて藩主らが酒宴を催していたところ、犬に追われて子猫が飛び込んできた。子猫は殿様の背後に隠れ、狂った犬は殿様に噛みつこうとした……ところがその時、奥女中である関屋が咄嗟に鉄柄杓にて犬を打ち据え、一撃の下に殺してしまったのであった。勇ましい話である。
大層感心なさった殿様が、何なりと褒美を遣わすと言ったところ、関屋は「どうぞ子猫をお許し下さいませ。その子猫を、私にお与え下さいませ」と答えた。
何という機転と清らかな心を持った娘であろうか、といたく心を動かされた殿様は、関屋を側妾にして寵愛し、名をお滝と改めさせたという。……ところが、お滝に嫉妬した他の奥女中や側妾は、陰惨ないじめを加え、お滝はあまりの苦しみに、自ら命を絶ってしまうのだ。
ーーそして、これに怒り狂ったお滝の女中と、命を救われた猫による、凄惨な復讐劇が繰り広げられるというのが筋書きだ。
「秋頃から立て続けに悪いことが続いたのだが、奥女中の中でもとりわけおみょうどのに辛く当たっていた、おいとという老女が、心ノ臓の病で急死してな。……もがき苦しみながら、怖い、化け猫が怖い、と言ったそうな」
長岡の低い声に、お凛は二の腕に鳥肌が立つのを感じた。
「それでご家中の方々が、おみょう様が有馬のお殿様の怪猫よろしく、化け猫に命じて人を祟らせていると、こうおっしゃるわけですか」
仙一郎が遠慮を忘れてずけずけと言うと、おみょうがさっと顔を上げた。
「私は……誓ってそのようなことはしておらぬ。このお玉も賢い猫で、人を襲ったり、屋敷内で暴れたりせぬようによくよく言い聞かせてからは、行儀よくしているのです」
苦しげに掠れた声に、憔悴のほどがうかがえる。よく見れば窶れた頬に血の気が薄く、目ばかりが大きく悲しげに光って見える。けれども、目を覚まして膝に寄ってきたお玉を見ると、慈愛を込めて体を撫でてやっている。自分に災厄をもたらしている元凶に他ならぬ猫だというのに、芯からやさしい人らしい。
「そこで我が殿は、ほとぼりが冷めるまで、おみょうどのとお玉を安全なところに隠すようにと命じられたのだ」
そう言って、長岡はふとおみょうの顔をじっと見詰めた。
「そなたが国元へ去れば、このような醜聞も収まろうし、そなたもかように辛い思いをすることもなかろうが……それは承知できぬのだな?側妾の立場が惜しいわけでもなかろう」
返事をする代わりに、娘の顔が紅を刷いたように赤くなった。
「ーー長岡様にも大変なご迷惑をお掛けし、誠に心苦しく存じます。ですが」おみょうの、水のように静かだった面がはげしく波立っている。
「……身の程知らずとは存じますが、私は……殿のお側を、離れたくございません……」
ーーあら。とお凛は思わず目を瞬かせた。まるで恋する乙女を見ているようだ。
(てっきり好色な殿様が女中に手をつけた、なんて話かと思ったら、違うみたい……)
「そなたはなかなか、頑固な女子のようだからのう」
長岡がそっと嘆息するのを聞いて、おみょうは身を縮めて唇を噛み締めていた。
「なぁるほど。それならば、どうぞ心ゆくまで当屋敷にご滞在下さいまし。いやもう、そこまでお望みならば、私もひと肌もふた肌も脱がないわけには参りません。徹頭徹尾誠心誠意、おみょう様のお世話をさせていただきます。はい」
仙一郎が身を乗り出し、今すぐ着物を脱ぎ出すのではあるまいかという雰囲気で熱心に言う。まことに空気を読まぬ主である。長岡は心なしか白い目で仙一郎を見遣ると、
「猫も忘れるな」と冷やかに言った。
「あっ、はいはい、お猫様でございますね。もちろん忘れておりませんとも」
と、猫のことなどすっかり忘れた様子であった仙一郎は力強く頷いた。
「……よろしく頼みます」
綿のようなやわらかさの声が、耳を撫でた。
おみょうは冴え冴えとした光を浮かべた美しい目を、仙一郎とお凛にゆっくりと向けると、淡い月のようにそっと微笑んだのであった。
仙一郎が耳を疑うようにして尋ねた。
「左様。おみょうどのも共に頼みたい。存分に礼はする。ならんか」
「ええと……まぁ、おみょう様については大歓迎なんでございますが」と聞き捨てならぬ本音を漏らし、「しかし、私めは一介の町人でございまして……お武家様の御用を足せるものかと、甚だ心許なく存じますが」不思議そうに小首を傾げた。
うむ、と長岡が平静に相槌を打った。
「このおみょうどのは御家のご正室付きの奥女中を務めておるのだが、近頃あの猫に呪われているという噂が立っての。奥勤めをさせておくには不穏だということになり、猫共々お屋敷から出すことと相なったのだ」
「ははぁ、猫に呪われて……」
仙一郎は要領を得ない様子でおみょうと猫を眺める。
娘は陶器のような白い頬をかすかに強張らせ、悲しげに長い睫毛を瞬かせている。ご正室の奥女中であればお武家の出自なのであろう。姿勢の美しい凛とした佇まいをしているが、それでいて哀れを誘う儚さが纏わりついているように感じられた。手焙りにくっついている猫は……すっかり夢の中のようだ。この猫のどの辺りが化け猫なのか、とお凛は内心吹き出しそうになった。形こそ大きいが、この緩みきった顔と体で凄まれたところで、恐ろしくもなんともなかろう。怪異話には見境なしに飛びつくはずの仙一郎も、猫の祟りよりもおみょう様の美貌の方が気になる様子だ。けれども、お侍の表情は真面目も真面目の大真面目、おみょう様も今にも涙を零しそうな顔色だった。
「それはそれは、何とも一大事でございますねぇ。で……不躾とは存じますが、そのう、長岡様は、どちらのご家中でおいでで……?」
「故あって、それは申せぬ。詮索をすることは許さぬから左様に心得よ」
ぴしりと鼻面を打つような声に、お凛はどきりとした。長岡慎之介としか名乗っていないところを見ると、身分を明かすつもりもないようだ。徹底している。これはいよいよただごとではないらしい、とうなじの辺りがひやりとした。
「ーーと申すのも、ことはお家の大事に関わるからだ。……委細を聞けば断ることは許さぬが、聞くか?」
長岡がわずかに身を乗り出す。上背のある男の体がさらに背丈を増したように感じられ、腰の脇差の存在が急に不穏な空気を醸し出す。断ったら……どうなるのだろう。縁起でもない想像が頭を過った。
「いや、うーん……そうおっしゃられますと、好奇心が掻き立てられるんでございますが……迷いますねぇ。私も命は惜しいですし……」
聞こうか聞くまいか悶絶しながら悩んでいた仙一郎は、やがて飴玉みたいな目でお凛を見た。
「ーーま、いいか。お前も聞きなさい、お凛」といきなり振ってきた。
「えっ、いいえ、私は結構です。女中風情が恐れ多い……」お凛はぶんぶんかぶりを振って、じりじりと膝で後退る。
「自分だけ逃げる気か?ずるいぞ。お前だって聞きたいくせに」
「ちょっと、人を道連れにするのは止めて下さいよ!私は関係ありません」
「お前な、主人を見捨てる気か?」
「知ったこっちゃありません。私は人生まだまだ長いんです。何掴んでるんですか!放して下さいってば」
お凛の袖を掴む主にお盆を振り上げ、見苦しく言い争っていると、長岡の咳払いが響いたので慌てて小さくなった。
「……三月ほど前のことであった。我が殿が祝宴を催されたのだが……」
ちょっと、まだ聞くとは言っていないのに、というお凛の抗議の視線を無視して続ける。
「その際に、いずこからかこの猫が迷い込んで参ってな」
猫は小鳥を追ってきたらしく、座敷を飛び回る小鳥を狙って暴れ回ったらしい。女たちは悲鳴を上げて逃げ惑い、男たちは右往左往。あげくに、恐れ多くも猫がお殿様のお背中に足をかけようとしたものだから、その場にいたおみょうは咄嗟に猫を抱え込んでお殿様をお守りしたのだそうな。
お殿様は、若い奥女中の行動にいたく感動なさり、褒美を取らせると仰せになった。するとおみょうは、
「この猫をお与え下さいませ」と慎み深く言ったのだった。
お殿様に無礼を働いた猫であれば、手討ちにされると恐れたのであろう。おみょうの無欲と心根のやさしさに、お殿様は心引かれ、じきに側妾にと望まれた。お玉と名づけられた猫は、おみょうに恩義を感じたのかすっかり懐いて、おみょうの行くところどこへでもついてまわるようになっていた。
だがしかし。他の奥女中たちは当然面白くない。まったく面白くない。案の定、おみょうに様々ないやがらせをしはじめたのである。
「すると、その者たちが次々に病や怪我を負ってな。その猫を見た後病を得た、あるいは怪我を負った、おみょうどのが猫に命じて祟らせたのだ、などという噂がまことしやかに囁かれるようになった」
「……何やら、聞いたことのあるお話ですな。有馬様の猫騒動を思い出します」
仙一郎が面白そうに言うと、長岡は額を曇らせた。
「いかにも。そう言ってこのおみょうどのに、よからぬ噂を立てはじめたのよ」
日の本には三大化け猫伝説なるものがあって、それぞれ佐賀鍋島、岡崎、そして江戸は芝赤羽の久留米有馬家江戸屋敷を舞台としている。中でも有馬家江戸屋敷の怪異伝は、こういうものだ。
ある日、奥御殿にて藩主らが酒宴を催していたところ、犬に追われて子猫が飛び込んできた。子猫は殿様の背後に隠れ、狂った犬は殿様に噛みつこうとした……ところがその時、奥女中である関屋が咄嗟に鉄柄杓にて犬を打ち据え、一撃の下に殺してしまったのであった。勇ましい話である。
大層感心なさった殿様が、何なりと褒美を遣わすと言ったところ、関屋は「どうぞ子猫をお許し下さいませ。その子猫を、私にお与え下さいませ」と答えた。
何という機転と清らかな心を持った娘であろうか、といたく心を動かされた殿様は、関屋を側妾にして寵愛し、名をお滝と改めさせたという。……ところが、お滝に嫉妬した他の奥女中や側妾は、陰惨ないじめを加え、お滝はあまりの苦しみに、自ら命を絶ってしまうのだ。
ーーそして、これに怒り狂ったお滝の女中と、命を救われた猫による、凄惨な復讐劇が繰り広げられるというのが筋書きだ。
「秋頃から立て続けに悪いことが続いたのだが、奥女中の中でもとりわけおみょうどのに辛く当たっていた、おいとという老女が、心ノ臓の病で急死してな。……もがき苦しみながら、怖い、化け猫が怖い、と言ったそうな」
長岡の低い声に、お凛は二の腕に鳥肌が立つのを感じた。
「それでご家中の方々が、おみょう様が有馬のお殿様の怪猫よろしく、化け猫に命じて人を祟らせていると、こうおっしゃるわけですか」
仙一郎が遠慮を忘れてずけずけと言うと、おみょうがさっと顔を上げた。
「私は……誓ってそのようなことはしておらぬ。このお玉も賢い猫で、人を襲ったり、屋敷内で暴れたりせぬようによくよく言い聞かせてからは、行儀よくしているのです」
苦しげに掠れた声に、憔悴のほどがうかがえる。よく見れば窶れた頬に血の気が薄く、目ばかりが大きく悲しげに光って見える。けれども、目を覚まして膝に寄ってきたお玉を見ると、慈愛を込めて体を撫でてやっている。自分に災厄をもたらしている元凶に他ならぬ猫だというのに、芯からやさしい人らしい。
「そこで我が殿は、ほとぼりが冷めるまで、おみょうどのとお玉を安全なところに隠すようにと命じられたのだ」
そう言って、長岡はふとおみょうの顔をじっと見詰めた。
「そなたが国元へ去れば、このような醜聞も収まろうし、そなたもかように辛い思いをすることもなかろうが……それは承知できぬのだな?側妾の立場が惜しいわけでもなかろう」
返事をする代わりに、娘の顔が紅を刷いたように赤くなった。
「ーー長岡様にも大変なご迷惑をお掛けし、誠に心苦しく存じます。ですが」おみょうの、水のように静かだった面がはげしく波立っている。
「……身の程知らずとは存じますが、私は……殿のお側を、離れたくございません……」
ーーあら。とお凛は思わず目を瞬かせた。まるで恋する乙女を見ているようだ。
(てっきり好色な殿様が女中に手をつけた、なんて話かと思ったら、違うみたい……)
「そなたはなかなか、頑固な女子のようだからのう」
長岡がそっと嘆息するのを聞いて、おみょうは身を縮めて唇を噛み締めていた。
「なぁるほど。それならば、どうぞ心ゆくまで当屋敷にご滞在下さいまし。いやもう、そこまでお望みならば、私もひと肌もふた肌も脱がないわけには参りません。徹頭徹尾誠心誠意、おみょう様のお世話をさせていただきます。はい」
仙一郎が身を乗り出し、今すぐ着物を脱ぎ出すのではあるまいかという雰囲気で熱心に言う。まことに空気を読まぬ主である。長岡は心なしか白い目で仙一郎を見遣ると、
「猫も忘れるな」と冷やかに言った。
「あっ、はいはい、お猫様でございますね。もちろん忘れておりませんとも」
と、猫のことなどすっかり忘れた様子であった仙一郎は力強く頷いた。
「……よろしく頼みます」
綿のようなやわらかさの声が、耳を撫でた。
おみょうは冴え冴えとした光を浮かべた美しい目を、仙一郎とお凛にゆっくりと向けると、淡い月のようにそっと微笑んだのであった。
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