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たたり振袖(二)
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「ふーん、これは……」
黄金色の夕日が降り注ぎ、雨に濡れた鮮緑の楓が燃えるように輝く坪庭を望む座敷で、藤吉と向かい合った仙一郎は目を輝かせながら呟いた。膝の前には、藤吉が持参した風呂敷包が開いて置かれてある。中から現れたのは、目にも鮮やかな赤地に吉祥文様を描いた振袖だった。
「実に……野趣あふれる着物ですねぇ」
なるほど、うまいことを言うものだ、と茶を運んできたお凛は胸の内で呟いた。美しい、でもなく、艶やか、でもない。野趣あふれるとしか言い表しようがない。
なにしろ、袂と裾が黒と茶に焼け焦げているのだ。
「へぇ。こいつは、三月ほど前に、当店が仕入れた着物でございまして……」
藤吉がきっちりと正座して歯切れよく応じる。
『すえ吉』は、四谷伝馬町と富沢町にも店舗を持つ古着・太物商で、柳原土手の土手見世などとは異なり表店を構えている。木綿や麻などの反物はもちろん、比較的裕福な武家や町人向けの高価な古着も多く扱うのだという。
「古着といっても状態は文句なし、贅を尽くした逸品ですもので、すぐに売るのではなく、客引きのために店に飾っておこうと旦那様がおっしゃいましたんです」
小上がりの座敷の衣桁に飾った振袖は、それはそれは華やかで人目を引いた。赤い振袖は評判を呼び、お客の足は引きも切らず、店主も奉公人たちも拾い物をしたと喜んでいたという。
「……ところが、一月ほど経ったある晩」
急に、男の口調がもそもそと淀んだ。
「その振袖が、火を出したのでございます」
「……火、ですか?」
仙一郎が顔を上げるのを座敷の隅でうかがいながら、お凛も思わず聞き耳を立てた。
「はい」
藤吉の喉仏がこくりと動いた。
「夜中に、衣桁がぶすぶすと燻っているのを奉公人が見つけました。慌てて着物を外して火元を確かめようとしたところ、衣桁がぼうっと燃え上がりまして……」
火事だ、という叫び声に他の奉公人たちも飛び起きて、必死に水をかけたところ火は収まった。何が原因なのかと皆で懸命に調べたが、台所は遠いし、煙管が側にあったわけでもない。火事が何より恐ろしい江戸であるから、皆毎晩念を入れて、きっちり火の始末をして床についているのは言うまでもない。振袖は無傷であったし、衣桁が少々焦げた程度で済んだから、とりあえずはよかったと、皆不可解に思いながらも胸を撫で下ろしたそうだった。
「しかし……」藤吉の声が暗く翳った。
「……また、火が出たんですね」
男のかわりに続けた仙一郎を、藤吉は強張った顔で見上げた。
「その通りでございます」
二度目は、皆がその小火騒ぎを忘れかけた一月後に起こった。
「その振袖をいたくお気に召されたお客様がおられました。たいそうな高値をつけてくださいましたもので、旦那様もお売りすることにしましたのです。それで、解れや傷みがないか、もう一度隈なく検めようと、当店の職人が調べておりました」
その時、職人たちの仕事場に、店のお嬢さんで十九になるお菊が通りかかったのだという。普段から針仕事を好み、職人に習って自らも古着の繕いなどを手伝っていたというお菊は、その振袖をぜひ羽織ってみたいと言った。
「まぁ、着ていただいた方が仕立ての良し悪しも分かりやすいものでございますから、羽織っていただいたのです」
燃えるように赤い振袖は、若いお菊の白い肌によく映えた。よくよくいい品物だと皆で感心しながら眺めていたその時。
「お菊様が、大声で叫びはじめたのです」
熱い、熱い、と娘は突如悲鳴をあげてもがきだした。見れば、振袖の袂からぶすぶすと煙が立ち昇っているではないか。
何が起きたのかと呆気にとられる皆の目の前で、赤く透き通った炎がさあっと立ち上がったかと思うと、蛇のようにお菊の体に絡みつき、みるみる燃え上がった。
「それはもう、恐ろしい光景でございました」藤吉の額に汗が浮いた。
「皆でお嬢様の着物を叩き、水を取りに走り、泣き叫ぶお嬢さんに水をかけ、どうにかこうにか、消し止めました」
火が出た。それも、二度ともこの振袖から。
「……さすがに皆、原因はこの着物なのではないかと、恐れ始めたのです」
子供のように白く滑らかな顔に、無邪気な大きな瞳をした仙一郎が、喉で唸りながら腕組みをした。
「……まるで、梅乃の振袖のようなお話ですねぇ」
梅乃の振袖と言えば、丁酉火事の原因となったという伝説に登場するものだ。
麻布の質屋の娘であった梅乃は、本郷の本妙寺の小姓である美少年に恋をした。そして、少年がまとっていた着物と同じ柄の振袖をあつらえてもらい、それを掻き抱いて少年に恋い焦がれていたのだった。しかし、娘は叶わぬ恋に思い悩み、憔悴のあまり命を落としてしまう。
葬儀の際、梅乃の棺桶には件の振袖がかけられていたが、それは寺男の手から、上野の町娘であるきのの手に渡る。ところがきのもほどなく命を落とし、葬儀の際に再び棺桶にこの振袖がかけられた。寺男はまたもこの振袖を売り、今度は町娘のいくの手に渡る。そしてこのいくも、やはり病で命を散らすのである。
さすがに気味が悪くなり、寺男たちがこの振袖を焼いて供養しようとした時、振袖は火がついたまま舞い上がり、寺の屋根にふわりと舞い落ちて瞬く間に燃え上がった。かくて、江戸の大半を焼き尽くす丁酉火事の発端となったのである。
「手前どももそう噂しております。お嬢様はお気の毒にもお御足に火傷の痕が残り、決まりかけていたご縁談が流れてしまいました。
旦那様はこの振袖は祟られているとおっしゃって、すぐ処分しようとなさいました。ですが……」
お寺に炊き上げをお願いして、かつての大火のようなことになったらどうする、とはたと思い至ったのだという。
「とんだ思い過ごしであればよいのですが、江戸の大半を焼く火を当店の振袖が出すようなことになれば、取り返しがつきません。そこで、このお屋敷の旦那様であれば、と奉公人の一人が言い出したのでございます」
「ほほう」
仙一郎が面白そうに小首を傾げた。
「いわく因縁つきのものを集めていらっしゃる、千里眼のお方だと、もっぱらの噂だそうにございますね」
藤吉が上目遣いにこわごわと言う。
「天眼通の仙一郎様、と伺いました。その、祟りだとか憑き物だとかを、見分けてしまわれるとか……」
「まさか」「まさか」仙一郎の笑い声に被せてお凛も平たい声で呟いた。
「私はただの好事家でして……しかし、こう見えても見る目はある方だと、少々自惚れてはいますがね」
まんざらでもなさそうな主のしまりのない笑顔を、冷え冷えとした眼でお凛は眺めた。
「では、その……この振袖が本当に祟られているのか、おわかりになられますか?」
「もちろん」
飴玉のように丸い瞳をきらりとさせる仙一郎を、藤吉が凝然と見つめる。
「……皆目、わかりません」
ぐにゃりと脱力して手代が畳に両手をついた。「あ、左様ですか……」
「ですが、実に面白い品ではありませんか。ぜひとも手元に置きたい。譲っていただけますでしょうね」
「それはもう、願ってもないことでございます」
藤吉ががくがくと頭を上下させながら、力を込めて言った。
「……ただ、その……」
躊躇うように振袖と仙一郎の顔を交互に見る手代に、仙一郎は小さく笑った。
「ここで火を出すのではないかと、気にかかりますか。大丈夫、その心配は無用です。ここにはこの、お凛がおりますからね」
突然話を振られ、お凛はその場で目を剥いた。
「何を隠そう、このお凛ときたら、祟りも呪いも跳ね除けてしまう娘なんですよ。いや、祟りも呪いもこの子を避けて通ると申しましょうか。おまけにとんでもない力持ちときてますしねぇ。鬼も裸足で逃げ出すんですから、高僧の霊験あらたかなお札やお経よりも効果があるというもので。ま、例えて言えば樟脳みたいなものです」
花も恥じらう十五の乙女を捕まえて、鬼も逃げ出すとはどういう意味なのだ。おまけに言うに事欠いて樟脳とは何だ、人を虫除けみたいに。
手に持ったお盆を投げてやろうかと眉を吊り上げているお凛を、藤吉が半信半疑の表情で振り返った。
「ははぁ、樟脳……」
「そうそう。振袖に樟脳、丁度いいじゃありませんか」
仙一郎は、我ながらうまい例えだ、と自分で言って手を叩いている。おかずを一品減らしてやろう。お凛は心に決めた。
「そうおっしゃっていただけますのなら……どうぞよろしくお願い申し上げます」
納得したようなしないようなという風情で頷くと、藤吉は最後に深々と頭を下げたのだった。
黄金色の夕日が降り注ぎ、雨に濡れた鮮緑の楓が燃えるように輝く坪庭を望む座敷で、藤吉と向かい合った仙一郎は目を輝かせながら呟いた。膝の前には、藤吉が持参した風呂敷包が開いて置かれてある。中から現れたのは、目にも鮮やかな赤地に吉祥文様を描いた振袖だった。
「実に……野趣あふれる着物ですねぇ」
なるほど、うまいことを言うものだ、と茶を運んできたお凛は胸の内で呟いた。美しい、でもなく、艶やか、でもない。野趣あふれるとしか言い表しようがない。
なにしろ、袂と裾が黒と茶に焼け焦げているのだ。
「へぇ。こいつは、三月ほど前に、当店が仕入れた着物でございまして……」
藤吉がきっちりと正座して歯切れよく応じる。
『すえ吉』は、四谷伝馬町と富沢町にも店舗を持つ古着・太物商で、柳原土手の土手見世などとは異なり表店を構えている。木綿や麻などの反物はもちろん、比較的裕福な武家や町人向けの高価な古着も多く扱うのだという。
「古着といっても状態は文句なし、贅を尽くした逸品ですもので、すぐに売るのではなく、客引きのために店に飾っておこうと旦那様がおっしゃいましたんです」
小上がりの座敷の衣桁に飾った振袖は、それはそれは華やかで人目を引いた。赤い振袖は評判を呼び、お客の足は引きも切らず、店主も奉公人たちも拾い物をしたと喜んでいたという。
「……ところが、一月ほど経ったある晩」
急に、男の口調がもそもそと淀んだ。
「その振袖が、火を出したのでございます」
「……火、ですか?」
仙一郎が顔を上げるのを座敷の隅でうかがいながら、お凛も思わず聞き耳を立てた。
「はい」
藤吉の喉仏がこくりと動いた。
「夜中に、衣桁がぶすぶすと燻っているのを奉公人が見つけました。慌てて着物を外して火元を確かめようとしたところ、衣桁がぼうっと燃え上がりまして……」
火事だ、という叫び声に他の奉公人たちも飛び起きて、必死に水をかけたところ火は収まった。何が原因なのかと皆で懸命に調べたが、台所は遠いし、煙管が側にあったわけでもない。火事が何より恐ろしい江戸であるから、皆毎晩念を入れて、きっちり火の始末をして床についているのは言うまでもない。振袖は無傷であったし、衣桁が少々焦げた程度で済んだから、とりあえずはよかったと、皆不可解に思いながらも胸を撫で下ろしたそうだった。
「しかし……」藤吉の声が暗く翳った。
「……また、火が出たんですね」
男のかわりに続けた仙一郎を、藤吉は強張った顔で見上げた。
「その通りでございます」
二度目は、皆がその小火騒ぎを忘れかけた一月後に起こった。
「その振袖をいたくお気に召されたお客様がおられました。たいそうな高値をつけてくださいましたもので、旦那様もお売りすることにしましたのです。それで、解れや傷みがないか、もう一度隈なく検めようと、当店の職人が調べておりました」
その時、職人たちの仕事場に、店のお嬢さんで十九になるお菊が通りかかったのだという。普段から針仕事を好み、職人に習って自らも古着の繕いなどを手伝っていたというお菊は、その振袖をぜひ羽織ってみたいと言った。
「まぁ、着ていただいた方が仕立ての良し悪しも分かりやすいものでございますから、羽織っていただいたのです」
燃えるように赤い振袖は、若いお菊の白い肌によく映えた。よくよくいい品物だと皆で感心しながら眺めていたその時。
「お菊様が、大声で叫びはじめたのです」
熱い、熱い、と娘は突如悲鳴をあげてもがきだした。見れば、振袖の袂からぶすぶすと煙が立ち昇っているではないか。
何が起きたのかと呆気にとられる皆の目の前で、赤く透き通った炎がさあっと立ち上がったかと思うと、蛇のようにお菊の体に絡みつき、みるみる燃え上がった。
「それはもう、恐ろしい光景でございました」藤吉の額に汗が浮いた。
「皆でお嬢様の着物を叩き、水を取りに走り、泣き叫ぶお嬢さんに水をかけ、どうにかこうにか、消し止めました」
火が出た。それも、二度ともこの振袖から。
「……さすがに皆、原因はこの着物なのではないかと、恐れ始めたのです」
子供のように白く滑らかな顔に、無邪気な大きな瞳をした仙一郎が、喉で唸りながら腕組みをした。
「……まるで、梅乃の振袖のようなお話ですねぇ」
梅乃の振袖と言えば、丁酉火事の原因となったという伝説に登場するものだ。
麻布の質屋の娘であった梅乃は、本郷の本妙寺の小姓である美少年に恋をした。そして、少年がまとっていた着物と同じ柄の振袖をあつらえてもらい、それを掻き抱いて少年に恋い焦がれていたのだった。しかし、娘は叶わぬ恋に思い悩み、憔悴のあまり命を落としてしまう。
葬儀の際、梅乃の棺桶には件の振袖がかけられていたが、それは寺男の手から、上野の町娘であるきのの手に渡る。ところがきのもほどなく命を落とし、葬儀の際に再び棺桶にこの振袖がかけられた。寺男はまたもこの振袖を売り、今度は町娘のいくの手に渡る。そしてこのいくも、やはり病で命を散らすのである。
さすがに気味が悪くなり、寺男たちがこの振袖を焼いて供養しようとした時、振袖は火がついたまま舞い上がり、寺の屋根にふわりと舞い落ちて瞬く間に燃え上がった。かくて、江戸の大半を焼き尽くす丁酉火事の発端となったのである。
「手前どももそう噂しております。お嬢様はお気の毒にもお御足に火傷の痕が残り、決まりかけていたご縁談が流れてしまいました。
旦那様はこの振袖は祟られているとおっしゃって、すぐ処分しようとなさいました。ですが……」
お寺に炊き上げをお願いして、かつての大火のようなことになったらどうする、とはたと思い至ったのだという。
「とんだ思い過ごしであればよいのですが、江戸の大半を焼く火を当店の振袖が出すようなことになれば、取り返しがつきません。そこで、このお屋敷の旦那様であれば、と奉公人の一人が言い出したのでございます」
「ほほう」
仙一郎が面白そうに小首を傾げた。
「いわく因縁つきのものを集めていらっしゃる、千里眼のお方だと、もっぱらの噂だそうにございますね」
藤吉が上目遣いにこわごわと言う。
「天眼通の仙一郎様、と伺いました。その、祟りだとか憑き物だとかを、見分けてしまわれるとか……」
「まさか」「まさか」仙一郎の笑い声に被せてお凛も平たい声で呟いた。
「私はただの好事家でして……しかし、こう見えても見る目はある方だと、少々自惚れてはいますがね」
まんざらでもなさそうな主のしまりのない笑顔を、冷え冷えとした眼でお凛は眺めた。
「では、その……この振袖が本当に祟られているのか、おわかりになられますか?」
「もちろん」
飴玉のように丸い瞳をきらりとさせる仙一郎を、藤吉が凝然と見つめる。
「……皆目、わかりません」
ぐにゃりと脱力して手代が畳に両手をついた。「あ、左様ですか……」
「ですが、実に面白い品ではありませんか。ぜひとも手元に置きたい。譲っていただけますでしょうね」
「それはもう、願ってもないことでございます」
藤吉ががくがくと頭を上下させながら、力を込めて言った。
「……ただ、その……」
躊躇うように振袖と仙一郎の顔を交互に見る手代に、仙一郎は小さく笑った。
「ここで火を出すのではないかと、気にかかりますか。大丈夫、その心配は無用です。ここにはこの、お凛がおりますからね」
突然話を振られ、お凛はその場で目を剥いた。
「何を隠そう、このお凛ときたら、祟りも呪いも跳ね除けてしまう娘なんですよ。いや、祟りも呪いもこの子を避けて通ると申しましょうか。おまけにとんでもない力持ちときてますしねぇ。鬼も裸足で逃げ出すんですから、高僧の霊験あらたかなお札やお経よりも効果があるというもので。ま、例えて言えば樟脳みたいなものです」
花も恥じらう十五の乙女を捕まえて、鬼も逃げ出すとはどういう意味なのだ。おまけに言うに事欠いて樟脳とは何だ、人を虫除けみたいに。
手に持ったお盆を投げてやろうかと眉を吊り上げているお凛を、藤吉が半信半疑の表情で振り返った。
「ははぁ、樟脳……」
「そうそう。振袖に樟脳、丁度いいじゃありませんか」
仙一郎は、我ながらうまい例えだ、と自分で言って手を叩いている。おかずを一品減らしてやろう。お凛は心に決めた。
「そうおっしゃっていただけますのなら……どうぞよろしくお願い申し上げます」
納得したようなしないようなという風情で頷くと、藤吉は最後に深々と頭を下げたのだった。
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