113 / 116
愛しの婚約者~アレクSide
しおりを挟む
それからの俺は、持てる力の全てを使ってエリーを囲い込むことに専念した。エリーの身が心配なのもあったが、周りから早く囲い込んで逃げられないようにしておかないと、またスキを見つけて逃げ出すと言われたからだ。そして、その言葉を否定できる材料がなかった。
真面目で堅物でどんくさいのに、俺からの逃げ足だけは速いのがエリーだ。酔った時にも思ったけれど、こいつは猫みたいだと思う。理屈面でも物理面でもスキが無いか、抜かりのないように囲い込んだ。場合によっては女性陣の押しの強さを借り、クラリス嬢にも協力を頼んで、逃げそうになるエリーを確保し続けた。
その甲斐あって、一月後には大々的に婚約を発表し、その後は王子妃教育と称して王宮に囲った。逃げられないためでもあるし、安全を考慮してでもある。次期王太子妃として目立ってしまった以上、外に出せば容易に狙われる。これからは側に置いて徹底的に守る事にした。んだけど……
「騎士団の引継ぎが出来ていない」
「はぁ?」
「エミール様一人じゃ、どう考えても無理だわ」
エリーの口から出たのは、まさかの前職への懸念だった。俺と騎士団長二人分の専属文官として多忙な日々を送っている最中で王宮に連れてきたが、落ち着いてくると仕事の心配を始めたのだ。真面目な王太子妃で何よりだが、今更騎士団に戻すわけにもいかない。こうなった以上、男ばかりのあそこにエリーを置くなど、絶対に無理だ。エリーからエミールの名前が出るのも面白くない。
騎士団にはエミールがいるし、彼だって優秀だ。少々苦労は掛けるが、会計監査局の人員不足を知った兄が増員をしたところだったので、二人をエミールの元に遣った。文官の専門家二人もいれば、引継ぎはどうにでもなるだろうし、どうにかさせるしかない。とにかくエリーを王宮から出すわけにはいかないのだ。
命令すればエリーは否やとは言えないが、出来ればそんなことはしたくない。絶対恭順のあの術は精神を病むこともあるだけに、些細なことだって命じたくなかった。
エリーとの婚約式の後の披露パーティーは見物だった。
「文官風情が次期王太子妃だなんて……」
「貧乏伯爵家の出で、しかも小太りの地味女って話じゃない」
「ええ?以前夜会に出た時は、中々の美女だったぞ」
「まさか! でも騎士団では……」
「マルスリーヌ殿の娘か。どんな令嬢か楽しみだな」
貴族共がエリーのことを好き勝手噂しているのは知っていた。まぁ、周りの雑音に負ける様な軟な女じゃないし、本来のエリーは美人な上にスタイル抜群だ。しかも王宮で機密を扱う会計監査局にいた才女なのだ。その辺のお洒落と恋愛にしか興味のない女共に負ける筈もない。
「ええっ!? あれが?」
「誰だよ、太っているって言ったのは……」
「滅茶苦茶美人じゃないか!」
俺がエスコートしたエリーは、今日もマーメイドラインのドレス姿が最高に似合っていた。俺の瞳の色と同じ深みのある青に金と白の刺繍を施したドレスは、露出は少ないが身体の線が綺麗に出て上品なのに艶めかしい。この一月近く、王宮の美容部隊に磨き上げられた彼女は、髪も肌も艶々で誰よりも美しく見えた。
俺を狙っていた女どもは一様に下を向き、男どもは食い入るように彼女を見つめていた。美しい彼女を自慢出来るのは楽しいが、男どもの不躾な視線は腹立たしい。静かに睨みつけて牽制した。
「アレク?」
俺が険しい表情をしたせいか、彼女が小首をかしげて俺を見上げた。
(おい! そんな表情するなよ……!)
可愛すぎて身体に熱が走ったのは俺のせいではないだろう。こいつが悪い、誰が何と言おうとも、だ。
「アレク、むやみやたらと魔力を飛ばすな。寒くなるだろうが」
「殿下、冷気駄々洩れですよ……」
兄とサロモンがそう言って苦笑していたが、知ったことではなかった。こういうことは最初が大事なのだ。余裕がないなぁと笑ったが、当り前だ。やっと捕まえた彼女をここで逃がすわけにはいかない。そんなことになったら、連れ戻すだけだ。そのためにこの国がどうなろうと知ったことではない。
この夜会で俺はエリーを囲い込み、手を出そうとする輩に十分な牽制を与えた。今になってわかったが、俺は独占欲が強いというか、執着心が強い、らしい。兄がそう言うのだからそうなのだろう。
だが、子どもが出来ない俺にとってもエリーにとっても、それが障害になるとは思えない。子どもが出来ない分も存分にエリーを愛し倒すつもりだし、エリーも文句を言いながらもまんざらでもなさそうだから。そう思えたのは、あの女がフランクールから来るまでの間だった。
真面目で堅物でどんくさいのに、俺からの逃げ足だけは速いのがエリーだ。酔った時にも思ったけれど、こいつは猫みたいだと思う。理屈面でも物理面でもスキが無いか、抜かりのないように囲い込んだ。場合によっては女性陣の押しの強さを借り、クラリス嬢にも協力を頼んで、逃げそうになるエリーを確保し続けた。
その甲斐あって、一月後には大々的に婚約を発表し、その後は王子妃教育と称して王宮に囲った。逃げられないためでもあるし、安全を考慮してでもある。次期王太子妃として目立ってしまった以上、外に出せば容易に狙われる。これからは側に置いて徹底的に守る事にした。んだけど……
「騎士団の引継ぎが出来ていない」
「はぁ?」
「エミール様一人じゃ、どう考えても無理だわ」
エリーの口から出たのは、まさかの前職への懸念だった。俺と騎士団長二人分の専属文官として多忙な日々を送っている最中で王宮に連れてきたが、落ち着いてくると仕事の心配を始めたのだ。真面目な王太子妃で何よりだが、今更騎士団に戻すわけにもいかない。こうなった以上、男ばかりのあそこにエリーを置くなど、絶対に無理だ。エリーからエミールの名前が出るのも面白くない。
騎士団にはエミールがいるし、彼だって優秀だ。少々苦労は掛けるが、会計監査局の人員不足を知った兄が増員をしたところだったので、二人をエミールの元に遣った。文官の専門家二人もいれば、引継ぎはどうにでもなるだろうし、どうにかさせるしかない。とにかくエリーを王宮から出すわけにはいかないのだ。
命令すればエリーは否やとは言えないが、出来ればそんなことはしたくない。絶対恭順のあの術は精神を病むこともあるだけに、些細なことだって命じたくなかった。
エリーとの婚約式の後の披露パーティーは見物だった。
「文官風情が次期王太子妃だなんて……」
「貧乏伯爵家の出で、しかも小太りの地味女って話じゃない」
「ええ?以前夜会に出た時は、中々の美女だったぞ」
「まさか! でも騎士団では……」
「マルスリーヌ殿の娘か。どんな令嬢か楽しみだな」
貴族共がエリーのことを好き勝手噂しているのは知っていた。まぁ、周りの雑音に負ける様な軟な女じゃないし、本来のエリーは美人な上にスタイル抜群だ。しかも王宮で機密を扱う会計監査局にいた才女なのだ。その辺のお洒落と恋愛にしか興味のない女共に負ける筈もない。
「ええっ!? あれが?」
「誰だよ、太っているって言ったのは……」
「滅茶苦茶美人じゃないか!」
俺がエスコートしたエリーは、今日もマーメイドラインのドレス姿が最高に似合っていた。俺の瞳の色と同じ深みのある青に金と白の刺繍を施したドレスは、露出は少ないが身体の線が綺麗に出て上品なのに艶めかしい。この一月近く、王宮の美容部隊に磨き上げられた彼女は、髪も肌も艶々で誰よりも美しく見えた。
俺を狙っていた女どもは一様に下を向き、男どもは食い入るように彼女を見つめていた。美しい彼女を自慢出来るのは楽しいが、男どもの不躾な視線は腹立たしい。静かに睨みつけて牽制した。
「アレク?」
俺が険しい表情をしたせいか、彼女が小首をかしげて俺を見上げた。
(おい! そんな表情するなよ……!)
可愛すぎて身体に熱が走ったのは俺のせいではないだろう。こいつが悪い、誰が何と言おうとも、だ。
「アレク、むやみやたらと魔力を飛ばすな。寒くなるだろうが」
「殿下、冷気駄々洩れですよ……」
兄とサロモンがそう言って苦笑していたが、知ったことではなかった。こういうことは最初が大事なのだ。余裕がないなぁと笑ったが、当り前だ。やっと捕まえた彼女をここで逃がすわけにはいかない。そんなことになったら、連れ戻すだけだ。そのためにこの国がどうなろうと知ったことではない。
この夜会で俺はエリーを囲い込み、手を出そうとする輩に十分な牽制を与えた。今になってわかったが、俺は独占欲が強いというか、執着心が強い、らしい。兄がそう言うのだからそうなのだろう。
だが、子どもが出来ない俺にとってもエリーにとっても、それが障害になるとは思えない。子どもが出来ない分も存分にエリーを愛し倒すつもりだし、エリーも文句を言いながらもまんざらでもなさそうだから。そう思えたのは、あの女がフランクールから来るまでの間だった。
130
お気に入りに追加
3,749
あなたにおすすめの小説
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて
nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
【完結】彼の瞳に映るのは
たろ
恋愛
今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。
優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。
そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。
わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。
★ 短編から長編へ変更しました。
人質姫と忘れんぼ王子
雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。
やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。
お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。
初めて投稿します。
書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。
初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
小説家になろう様にも掲載しております。
読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。
新○文庫風に作ったそうです。
気に入っています(╹◡╹)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる