上 下
106 / 116

王籍に復帰した理由

しおりを挟む
「まぁ、飲めよ」
「あ、ありがと…ございます…」

 あれから湯殿でしっかりと磨き上げられた私は、肌触りのいい夜着に着替えさせられた。そして案内された部屋はというと…

(…ここって、主の主寝室じゃない?)

 造りといい装飾といい位置といい、ここは屋敷の主の主寝室にしか思えなかった。というか間違いないだろう。呆然と立ち尽くしていると、この部屋に繋がるドアから彼―アレクが現れた。彼もまた湯あみを終えてガウン姿だった。ラフな格好もまた絵になって、ドキドキしてしまうのはこの状況のせいだろう。

(…な、何でこうなっているのよ?)

 叫びたくなる状況だったけれど、彼が柔らかい笑顔でソファに招くものだから彼の顔がドストライクの私に逆らえるはずもなかった。促されるまま隣に座ると液体が入ったグラスを手渡してきた。テーブルには既に軽食が並んでいたけれど…

(…この状況は、何?)

 戸惑いながらもグラスを受け取ると、当然のように肩を抱いてきた。その動作にドキドキする自分がいて、誤魔化すようにグラスに口を付けた。

「あ、あの…」
「まぁ、まずは飯にしよう。食べながら話す」

 この状況の理由が知りたくてそう言いかけると、そう提案された。室内に美味しそうな匂いが満たされて、身体が空腹だと訴えている。そう言えばお昼も簡単に済ませていたな、と思い出して、素直に食欲に従うことにした。

「…どこから何を話せばいいんだか…」

 そう前置きしてから彼は、これまでのことを話してくれた。彼が王子として王籍に復帰することは彼の本意ではなく、その計画も当初はなかったのだと言った。

「じゃ…王籍に戻ったのは…」
「アリソンが女王になろうとしたからだ」
「アリソン様が…」
「ああ。元々あいつは兄上のための保険だったんだ」
「保険?」
「王位継承権を持つ王族が兄上一人では、兄上を亡き者にして国を手に入れようとする輩に狙われる。アリソンはそれを抑えるために必要だったんだ」

 なるほど、確かに王太子殿下お一人だけと、他に王子王女がいるのでは雲泥の差だろう。

「それでも俺が王籍に戻るのは難しかったんだが…情況が変わった」
「情況?」
「フランクールの王が母上の実兄になられた」

 フランクール国では最近、第二王子が即位された。正妃が産んだ王太子が、側妃が産んだ第二王子を陥れようとしたことが発覚して廃籍され、それを助けた正妃も廃妃されたのだ。彼の国は王女が六人いるが王子は二人だけで、女性に継承権はなかった。

「王統が伯父上と母上の側に移って、俺と兄上のフランクールの王位継承権が上がった。要は俺の価値も上がって王籍に戻るのが可能になったんだ。俺はフランクールの王族の色だからな」

 そう言えばアレクの金髪と青い瞳は、フランクール王族の色だ。新たに国王となった王妃様の兄君も同じ色をしていた。

「アリソンが廃籍されても、俺が王籍に戻れば問題ない。女王が一般的でない分、俺の方が盾としては強くなるからな」
「それで、王籍に復帰を?」
「ああ。フランクールの伯父上には幼い王子がお一人だ。あちらも王位継承権を持つ者が少ないし、俺をこのまま地に置くわけにはいかなかったんだろう。フランクールでは青瞳が王家の色だしな」

 確かに彼がフランクールの王位継承権を持つと知られれば、本人の意思に反して利用する者が出てきてもおかしくはない。我が国よりあちらの方が大国で、利用価値も高いのだから。となれば、彼を一介の貴族のままにしておくのは危険だと思われても仕方がないだろう。
 それに、市井で流行っている小説の影響もあって、我が国の民の間では青瞳でも問題ないと思われているのだ。これで大国の王位継承権があれば、異議を唱えるのは難しいだろう。特に貴族は。

(いつの間にか…随分面倒な立場になっちゃった、のね…)

 我が国だけでも厄介だったのに、大国フランクールもだなんて…思いが通じたと喜んでいたけれど…もしかしてこの先にあるのって、いばらの道なんじゃないだろうか…話のスケールの大きさに、何だか頭が痛くなってきた。



しおりを挟む
感想 218

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて

nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

処理中です...