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何がどうなって…

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「副団長!?」

 目の前でいきなり倒れ込んできた副団長に、私は慌てて声を掛けたけれど…彼が私に覆いかぶさるように倒れたため、身動きがとれなかった。いきなり現れたのも驚いたけれど、倒れたのはもっと想定外だ。一体どうやってここに来たのかもわからないし、どうして男性二人が一瞬で吹っ飛んだのもわからなかった。

「…だ、誰か!誰かいませんか!?」

 副団長の身体が重くて身動きも取れないし、あの二人が目を覚ますのではないかと気が気ではなかった。この状況を何とかしたくて声を張り上げた。

「はぁい?呼んだ?」

 ドアの反対側から声がして、私の身体がびくりと震えた。私と副団長、そしてあの二人以外にこの部屋にはいないと思っていたからだ。視線の先にいたのは…

「サ、サラ、さん…?」

 見間違えるはずもない、あの美貌と人懐っこい話し方をするのは、以前ラドン伯一派の暗殺者に襲撃された時に助けてくれた人だった。相変わらず綺麗なお姉さんという感じだけど…

(この人、確か男の人って…)

 王太子殿下の言葉を思い出して、まじまじと見つめてしまった。改めてみると確かに背は高いし声も低めだけど…やっぱり男性には…見えない。

「ちょっとボス、いきなり飛んでいかないでよね!」

 そう言ってサラさんが窓から部屋の中に入ってきたけど、そこは施錠してあったはず…

「やだ!いきなりいなくなったと思ったら、なにやってんのよ!」
「え?」

 私達の姿を認めたサラさんがその綺麗な顔を歪めて、その迫力に私は思わず身震いした。

「ちょっと!女の子を襲おうなんて…って、あれ?」
「あ、あの…」
「えっと…もしかして…意識、ない?」
「え?ええ、そう、みたいです」

 サラさんが副団長を厳しく詰ったけれど、副団長が全く反応しないのに気が付いたらしい。迫力に負けてドキドキしながらそう答えると、サラさんが私達に近づいてきて副団長の顔を覗き込んだ。私がわかる範囲でサラさんに説明すると、サラさんは眉を顰めた。

「本当に意識ないわ…魔力切れを起こしたみたいね」
「魔力…切れ?」

 初めて聞く言葉と、何がどうなっているのかさっぱりわからなかったのもあって、おうむ返しになってしまった。

「魔力切れはそのまんま魔力を使い切ったせいで起きる意識障害よ。暫く目を覚まさないわね、これは」
「ええっ?」
「もう。突然移転魔術なんて使うから当然よね」
「いてん…まじゅつ?」
「そ、移転魔術。魔術での瞬間移動よ。かなりの魔力を使うから滅多に使わないんだけど…」

 そう言ってサラさんが私をじっと見てから、にっこりと笑みを浮かべた。

「まぁ、貴女だったら納得だわ」

 サラさんがそう言ったけれど…私は全く納得出来なかったし、ついでに早くこの体勢を何とかして欲しかった。

 それからサラさんが副団長を担ぎ上げて、執務室の奥にある仮眠室のベッドへと運んだ。その軽々とした様子からサラさんが本当に男性なのだと理解した。細そうな腕にはしっかり筋肉がついているのが見えて、本当に男性だったのだ…としみじみ思った。
 その後私は予備の制服を渡された。どこからこんなものが…と思ったけれど、それを突っ込む余裕はなかった。

「ほら、仮眠室で着替えていらっしゃい」
「ええ?でも…」
「ボスは当分目を覚まさないから大丈夫。それともここで着替える?」
「ご、ご遠慮します!」

 さすがに執務室は遠慮したかった。サラさんもいるし、あの二人もまだ転がったままなのだ。それにこの状況じゃいつ誰が入って来るかわからない。
 そっと仮眠室に入ると、ベッドに副団長が眠っていた。かなり眠りが深いのか、私が部屋に入ってもぴくりとも反応しなかった。念のために起きても見られないよう、背を向けてさっさと着替えた。

「あら、早かったわね」

 執務室に戻ると、騎士が数人であの男性二人を連れ出すところだった。彼らはまだ気を失っているらしく、腕はだらりと下がったままだった。顔などに血が付いたままで、かなりの衝撃を受けたのだろう。

「さて、私は報告しに戻るわ。ボスの側にいてやってね」
「…は?」
「一応魔力切れ用の薬は飲ませたし、そのうち目を覚ますと思うわ」

 そう言ってサラさんが今の副団長の状態を説明してきた。いや、私に言われても困るのだけど…

「じゃ、よろしくね!」

 私の返事も聞かず、サラさんは綺麗な笑みを浮かべて颯爽と部屋を出て行った。



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