93 / 116
先王陛下の罪
しおりを挟む
新たな声の持ち主は、国王陛下よりも少し年上に見える男性だった。王妃様と同じ金色の髪と青い瞳で、堂々としたその姿はこの場にいる誰よりも強いオーラを放っているように見えた。そしてその姿は、どこか既視感を抱かせるものだったけれど…
(…っ!)
その後ろに続いて現れた人物に、私は息を呑んだ。そこにいたのは、騎士服ではない濃紺を基調とした正装を纏った副団長だったからだ。既視感を持ったのは、現れた人物が副団長に似ていたからだろうか…
「な…貴殿は…フランクールの…」
「久しいな、ヴィクトール前王陛下。フランクールの王、アルフォンスだ」
「な…こ、国王だと…」
先王陛下が動揺を露わにした。アルフォンス様は王妃様と同じ側妃腹の王子で、第二王子だったと聞いている。正妃腹の第一王子と対立していていると聞いていたけど…王と名乗ったということは、第一王子との戦いに勝たれたのだろうか。
「我が国の王女である妹に狼藉を働こうとしたそうだな。しかも…我が甥を亡き者にしようとしたとは…さすがに看過出来ぬな」
「そ、そんなことは…」
アルフォンス国王を前に、先王陛下が狼狽えた。親子ほどの年の差はあるが、大国の王ともなれば蔑ろになど出来る筈もない。彼の国から攻め入られれば我が国はひとたまりもないのだから。
「きっ!、貴様! アルフォンス陛下に余計な事を吹き込んだのか!」
突然、先王陛下が怒鳴り声を上げた。彼が指さしている先にいたのは…副団長だった。
「貴様は…二度と王宮に近づくなと命じただろう!なのにどうして…!」
「そりゃあ、俺の甥だからな。何か問題でも?」
その言葉に、会場がまたも騒めいた。ランベール公爵家の三男でブーランジェ伯爵を名乗る彼を、隣国の王が甥だと言ったのだ。
「まさか…ブーランジェ伯が王族の…?」
「まさか。だが…確かにアルフォンス陛下にそっくりだが…」
「第二王子殿下は幼い頃にお亡くなりになった筈だぞ…」
「瞳の色が違うだろう?王族には紫眼しか生まれない筈…」
貴族達は動揺からか思い思いにその言葉の真意を尋ねるように囁き合っていた。確かにアルフォンス様の甥となれば王妃様の実子といえる。つい先ほど先王陛下が入れ替えられた子だと陛下が暴露した直後だ。彼も…と思っても仕方がないだろう。
「アルフォンス殿、すまない。私が弱かったばかりに…」
「貴殿の事情は私も理解しているつもりだ。あの時はあれが最善だったと思っている」
「ご厚情に感謝します」
陛下がアルフォンス様に頭を下げられると、アルフォンス様がそれを止められた。そうなると国王ご夫妻の先王陛下からの扱いは、アルフォンス様もご存じだったのだろうか。それはこの場合、先王陛下にとってはマイナスにしかならないだろう。
アルフォンス様の向こうにいる副団長は、笑みはないけれど穏やかな表情だった。穏やかに見えるのはそう見せているだけで、その心情が表情とイコールではないのかもしれないけど。
自身の出自を隠してきたのに、今になって第二王子だと声を上げたのはなぜなのだろう…それは彼の本意だったのだろうか…王子としての立場を奪われ続け、子供を持つ未来すらも奪われた彼が、今王族に戻ったとしてどうするのだろう。
(…ぁ…)
一瞬だけ、彼と目が合ったような気がした。王子だと名乗り出たも同然の今、彼はもうしがない伯爵家の私には手が届かない人になってしまった。その事実が胸に刺さった。
「知らぬ存ぜぬは通用せん。これからじっくりと話を聞かせていただこうか」
「な…」
最初の国王陛下に対しての強気はどこへやら。今はアルフォンス様の前で動揺を露わにするだけだった。ご自身が先々代の陛下のお子ではなく繋ぎの王だった事や、フランクールの王族に手を掛けようとしたことは見逃される事はないだろう。国王陛下が騎士に先王陛下とサルドゥ前侯爵、アリソン様を捕らえるように命じ、彼らは茫然としながら会場から連れ出された。
(…っ!)
その後ろに続いて現れた人物に、私は息を呑んだ。そこにいたのは、騎士服ではない濃紺を基調とした正装を纏った副団長だったからだ。既視感を持ったのは、現れた人物が副団長に似ていたからだろうか…
「な…貴殿は…フランクールの…」
「久しいな、ヴィクトール前王陛下。フランクールの王、アルフォンスだ」
「な…こ、国王だと…」
先王陛下が動揺を露わにした。アルフォンス様は王妃様と同じ側妃腹の王子で、第二王子だったと聞いている。正妃腹の第一王子と対立していていると聞いていたけど…王と名乗ったということは、第一王子との戦いに勝たれたのだろうか。
「我が国の王女である妹に狼藉を働こうとしたそうだな。しかも…我が甥を亡き者にしようとしたとは…さすがに看過出来ぬな」
「そ、そんなことは…」
アルフォンス国王を前に、先王陛下が狼狽えた。親子ほどの年の差はあるが、大国の王ともなれば蔑ろになど出来る筈もない。彼の国から攻め入られれば我が国はひとたまりもないのだから。
「きっ!、貴様! アルフォンス陛下に余計な事を吹き込んだのか!」
突然、先王陛下が怒鳴り声を上げた。彼が指さしている先にいたのは…副団長だった。
「貴様は…二度と王宮に近づくなと命じただろう!なのにどうして…!」
「そりゃあ、俺の甥だからな。何か問題でも?」
その言葉に、会場がまたも騒めいた。ランベール公爵家の三男でブーランジェ伯爵を名乗る彼を、隣国の王が甥だと言ったのだ。
「まさか…ブーランジェ伯が王族の…?」
「まさか。だが…確かにアルフォンス陛下にそっくりだが…」
「第二王子殿下は幼い頃にお亡くなりになった筈だぞ…」
「瞳の色が違うだろう?王族には紫眼しか生まれない筈…」
貴族達は動揺からか思い思いにその言葉の真意を尋ねるように囁き合っていた。確かにアルフォンス様の甥となれば王妃様の実子といえる。つい先ほど先王陛下が入れ替えられた子だと陛下が暴露した直後だ。彼も…と思っても仕方がないだろう。
「アルフォンス殿、すまない。私が弱かったばかりに…」
「貴殿の事情は私も理解しているつもりだ。あの時はあれが最善だったと思っている」
「ご厚情に感謝します」
陛下がアルフォンス様に頭を下げられると、アルフォンス様がそれを止められた。そうなると国王ご夫妻の先王陛下からの扱いは、アルフォンス様もご存じだったのだろうか。それはこの場合、先王陛下にとってはマイナスにしかならないだろう。
アルフォンス様の向こうにいる副団長は、笑みはないけれど穏やかな表情だった。穏やかに見えるのはそう見せているだけで、その心情が表情とイコールではないのかもしれないけど。
自身の出自を隠してきたのに、今になって第二王子だと声を上げたのはなぜなのだろう…それは彼の本意だったのだろうか…王子としての立場を奪われ続け、子供を持つ未来すらも奪われた彼が、今王族に戻ったとしてどうするのだろう。
(…ぁ…)
一瞬だけ、彼と目が合ったような気がした。王子だと名乗り出たも同然の今、彼はもうしがない伯爵家の私には手が届かない人になってしまった。その事実が胸に刺さった。
「知らぬ存ぜぬは通用せん。これからじっくりと話を聞かせていただこうか」
「な…」
最初の国王陛下に対しての強気はどこへやら。今はアルフォンス様の前で動揺を露わにするだけだった。ご自身が先々代の陛下のお子ではなく繋ぎの王だった事や、フランクールの王族に手を掛けようとしたことは見逃される事はないだろう。国王陛下が騎士に先王陛下とサルドゥ前侯爵、アリソン様を捕らえるように命じ、彼らは茫然としながら会場から連れ出された。
115
お気に入りに追加
3,749
あなたにおすすめの小説
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて
nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
【完結】彼の瞳に映るのは
たろ
恋愛
今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。
優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。
そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。
わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。
★ 短編から長編へ変更しました。
人質姫と忘れんぼ王子
雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。
やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。
お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。
初めて投稿します。
書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。
初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
小説家になろう様にも掲載しております。
読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。
新○文庫風に作ったそうです。
気に入っています(╹◡╹)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる