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先王陛下の罪

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 新たな声の持ち主は、国王陛下よりも少し年上に見える男性だった。王妃様と同じ金色の髪と青い瞳で、堂々としたその姿はこの場にいる誰よりも強いオーラを放っているように見えた。そしてその姿は、どこか既視感を抱かせるものだったけれど…

(…っ!)

 その後ろに続いて現れた人物に、私は息を呑んだ。そこにいたのは、騎士服ではない濃紺を基調とした正装を纏った副団長だったからだ。既視感を持ったのは、現れた人物が副団長に似ていたからだろうか…

「な…貴殿は…フランクールの…」
「久しいな、ヴィクトール前王陛下。フランクールの王、アルフォンスだ」
「な…こ、国王だと…」

 先王陛下が動揺を露わにした。アルフォンス様は王妃様と同じ側妃腹の王子で、第二王子だったと聞いている。正妃腹の第一王子と対立していていると聞いていたけど…王と名乗ったということは、第一王子との戦いに勝たれたのだろうか。

「我が国の王女である妹に狼藉を働こうとしたそうだな。しかも…我が甥を亡き者にしようとしたとは…さすがに看過出来ぬな」
「そ、そんなことは…」

 アルフォンス国王を前に、先王陛下が狼狽えた。親子ほどの年の差はあるが、大国の王ともなれば蔑ろになど出来る筈もない。彼の国から攻め入られれば我が国はひとたまりもないのだから。

「きっ!、貴様! アルフォンス陛下に余計な事を吹き込んだのか!」

 突然、先王陛下が怒鳴り声を上げた。彼が指さしている先にいたのは…副団長だった。

「貴様は…二度と王宮に近づくなと命じただろう!なのにどうして…!」
「そりゃあ、俺の甥だからな。何か問題でも?」

 その言葉に、会場がまたも騒めいた。ランベール公爵家の三男でブーランジェ伯爵を名乗る彼を、隣国の王が甥だと言ったのだ。

「まさか…ブーランジェ伯が王族の…?」
「まさか。だが…確かにアルフォンス陛下にそっくりだが…」
「第二王子殿下は幼い頃にお亡くなりになった筈だぞ…」
「瞳の色が違うだろう?王族には紫眼しか生まれない筈…」

 貴族達は動揺からか思い思いにその言葉の真意を尋ねるように囁き合っていた。確かにアルフォンス様の甥となれば王妃様の実子といえる。つい先ほど先王陛下が入れ替えられた子だと陛下が暴露した直後だ。彼も…と思っても仕方がないだろう。

「アルフォンス殿、すまない。私が弱かったばかりに…」
「貴殿の事情は私も理解しているつもりだ。あの時はあれが最善だったと思っている」
「ご厚情に感謝します」

 陛下がアルフォンス様に頭を下げられると、アルフォンス様がそれを止められた。そうなると国王ご夫妻の先王陛下からの扱いは、アルフォンス様もご存じだったのだろうか。それはこの場合、先王陛下にとってはマイナスにしかならないだろう。
 アルフォンス様の向こうにいる副団長は、笑みはないけれど穏やかな表情だった。穏やかに見えるのはそう見せているだけで、その心情が表情とイコールではないのかもしれないけど。
 自身の出自を隠してきたのに、今になって第二王子だと声を上げたのはなぜなのだろう…それは彼の本意だったのだろうか…王子としての立場を奪われ続け、子供を持つ未来すらも奪われた彼が、今王族に戻ったとしてどうするのだろう。

(…ぁ…)

 一瞬だけ、彼と目が合ったような気がした。王子だと名乗り出たも同然の今、彼はもうしがない伯爵家の私には手が届かない人になってしまった。その事実が胸に刺さった。

「知らぬ存ぜぬは通用せん。これからじっくりと話を聞かせていただこうか」
「な…」

 最初の国王陛下に対しての強気はどこへやら。今はアルフォンス様の前で動揺を露わにするだけだった。ご自身が先々代の陛下のお子ではなく繋ぎの王だった事や、フランクールの王族に手を掛けようとしたことは見逃される事はないだろう。国王陛下が騎士に先王陛下とサルドゥ前侯爵、アリソン様を捕らえるように命じ、彼らは茫然としながら会場から連れ出された。



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