【完結】一夜を共にしたからって結婚なんかしませんから!

灰銀猫

文字の大きさ
上 下
84 / 116

再び異動?

しおりを挟む
 今頃になって副団長への思いを自覚した私だったけれど、じゃあ何か行動するかと言えば、何も出来ていなかった。というか、どうしたらいいのか全く分からなかったからだ。
 これまでも恋愛に関する事は悉く避けてきた。結婚しないし出来ないのなら、そういう事に近づくのは危険だと思っていたからだ。衝動に突き動かされるまま思いがけない行動に走る姿を見て、怖いなぁと思ったのもあるだろう。文官志望だった私には感情をコントロール出来ないなんて恐怖でしかなかったのだ。それに…

(肝心の副団長に会えない…)

 そう、殿下が騎士団を視察したあの日から、再び副団長が騎士団に顔を出さなくなったのだ。副官のオブラン殿が代わりに指示や書類を運んでくるけど、本人の姿はない。しかも…

「ええ?私が団長の専属に?」

 それから五日後、団長から新たな辞令を渡された。副団長から団長の専属文官に異動というものだった。というのも、団長の専属文官のアルノワ殿が、ラドン伯の不正の一端を担っていたのが判明して投獄されたため、それからは団長の専属文官は不在だったのだ。だから私とエミール様でアルノワ殿の代わりを務めていたのだけど…

「ミュッセ嬢は優秀でどんな書類にも精通していると聞く。私も書類仕事が苦手だから頼まれてくれないだろうか?」

 上司にそう言われてしまえば、否やと言えるはずもない。副団長との縁が一つ切れてしまう事実を前に、仕事ぶりを評価された事よりも喪失感の方が勝った。副団長の専属文官、つまり私の代わりはこれから人選に入るために、異動は一、二カ月先になるらしい。

「凄いや、エリアーヌ様!」
「ありがとうございます。私はエミール様が選ばれると思っていました」
「そんな事ないよ!エリアーヌ様の方が書類には詳しいし、改善策もたくさん出しているんだから。むしろ当然の人事だと思うよ」

 エミール様がそう言って喜びを露わにしてくれたけど、今はその天使の笑顔が酷く色褪せて見えた。一般的には昇進だけど、私の心情は傷心だ。そりゃあ、アルノワ殿がああなったから誰かが団長の専属文官にならなければいけないのだけど、職歴の長いエミール様になると思っていたからこの人事は想定外だった。

(好きだと自覚したら異動なんて…)

 つくづく自分の運のなさというか、間の悪さに笑いが込み上げてきた。




 そんな状況の中、副団長の屋敷に戻ると母と公爵夫人、そして侍女たちが何だか賑わっていた。何かと思ったらすぐにある部屋に連れていかれた。そこには…何とも豪華なドレスと礼服が並んでいた。

「お母様、これは…」
「今度の舞踏会の衣装よ」
「舞踏会って…」
「何よ、まさか忘れていたんじゃないでしょうね?」
「それはありませんが…」

 私が驚いたのはドレスの質であって、予定を忘れるほど呆けてはいない。これでも職場ではスケジュール管理には定評があるし、締め切りを破った事もほぼない。あってもそれは上司が忘れていた場合だけだ。

「ほら、エリーはあの子とお揃いよ」

 そう言って見せてくれたのは、青空色のマーメイドラインのドレスだった。シンプルだけど身体のラインが出るタイプで、でも露出が少ないのが救いだ。ところどころに金糸の見事な刺繍が施されている。これまでもこの屋敷の皆さんは私にこの手のドレスを着せるのを楽しんでいたから、こうなるだろうなぁ…とは思っていたけれど…いや、今はそうじゃなくて!

「お母様、近々婚約は白紙にする予定ですし、さすがにお揃いはやり過ぎではありませんか?」

 そう言うと母と公爵夫人、侍女さんのまとう空気がピシリと固まった。えっと…?

「何を言っているの、エリー?白紙だなんて、そんな事、この母が許しません」
「そうよ、私だって許さないわ!」

 母と公爵夫人の眉がつり上がったけど、私も譲れなかった。副団長がその考えに否定的だから、私まで母達の押しに乗る気にはなれなかったのだ。



しおりを挟む
感想 218

あなたにおすすめの小説

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

本日より他人として生きさせていただきます

ネコ
恋愛
伯爵令嬢のアルマは、愛のない婚約者レオナードに尽くし続けてきた。しかし、彼の隣にはいつも「運命の相手」を自称する美女の姿が。家族も周囲もレオナードの一方的なわがままを容認するばかり。ある夜会で二人の逢瀬を目撃したアルマは、今さら怒る気力も失せてしまう。「それなら私は他人として過ごしましょう」そう告げて婚約破棄に踏み切る。だが、彼女が去った瞬間からレオナードの人生には不穏なほつれが生じ始めるのだった。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーレットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。 そんなシャーレットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。 実はシャーレットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーレットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーレットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。 悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。 しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーレットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーレットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーレットは図々しく居座る計画を立てる。 そんなある日、シャーレットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...