上 下
63 / 116

目覚めと現状把握

しおりを挟む
(疲れた…)

 目覚めた私が最初に感じたのは、そんな事だった。物凄く深い眠りだった気がする。夢すらも見なかったし、深い水底まで届くような眠りだったと思うのに、最初に感じたのは言いようのない疲労感だった。

「…っ」

 身体を起こすと、全身が筋肉痛になったような痛みと、高熱を出した後のような強烈な倦怠感を感じた。頭も動かないし、ぼ~っとする。辺りを見渡すと、副団長の屋敷の自分の部屋で、窓の外の陽はかなり高い様に思えた。

(え?ち、遅刻っ?)

 いつもの条件反射で出勤時間がとうに過ぎたと感じて慌てて跳ね起きたけど…私はそのまま床にへたり込んだ。足に力が入らないし、腰も痛い…そして…今まで感じた事のない痛みが足の間にあった。

(こ、これって…まさか…?)

 考えたくないけれど、これはもしかして…思い当たった予感に軽く絶望していると、ドアが開いた。

「エリアーヌ様?」

 私がへたり込んだ音を聞きつけたのか、侍女が慌てた様子でやってきた。見知った顔にホッと安堵する自分がいた。

「まだ起き上がらないで下さい。さ、ベッドへ」

 侍女に支えられてベッドに戻った私は、そこでようやく事情を聞き、現状を理解した。帰宅途中に馬車の事故に遭った事、替わりの馬車に乗って意識を失った事、廃墟に連れ込まれて襲われそうになった事、そしてジョエルが私を庇って…

「ジョエルは?ねぇ、彼の傷は…」
「エリアーヌ様。今、旦那様に遣いをやりますわ。詳しい事は旦那様にお聞きください」

 侍女にそう言われて、私はそれ以上尋ねる事は出来なかった。きっと彼女も詳しい事は知らされていないだろう。幸いにも仕事は休暇申請を出してあると言われてホッとした。無断欠勤は私の信条に反するから。

 それから何とか簡単に湯あみをして軽い食事をした後、私は一人でこれまでの事を思い返していた。色んな事があり過ぎてまだ混乱している自分がいた。
 アリソン王女殿下の事は驚きしかなかった。彼女がラドン伯の残党と言われていた事、ジョエルに私の純潔を散らした後で地獄を見せるように命じていた事は、全く想定していなかった。彼女はラドン伯の孫との結婚を嫌がっていたから、彼と手を組むなど考えられなかったのだ。
 それに、高貴な王女殿下がジョエル達と一緒にいた事もだ。ジョエルは騎士だけど今は平民だし、一緒にいたほかの二人も似たような感じに見えた。更に後で現れた男たちはどう見ても平民の、それも破落戸と呼ばれる質の良くない連中だろう。そんな男たちと一緒にいたなんて、一体彼女に何があったのか…

 そしてもう一つ、ジョエルの事もだ。彼が伯爵家の跡取りから外されたのは私への暴言が原因だと聞いていた。だから私の事を恨んでいると、ずっとそう思っていた。そう思わせるくらいには、あの時の彼の言い分は失礼で非常識だったからだ。
 なのに彼は私に謝りたいと言っていた。少し前に騎士団の前で会ったけど、何かを言いたげだったようにも思う。それが謝罪だったのだろうか…そして彼はその言葉を証明するように、私を庇ってくれた。その結果は…

(どうして…)

 特に親しくもなかったし、私はこの前会うまではその存在すら忘れていた。なのに彼は命がけで私を助けてくれた。先入観で彼が私を恨んでいると思い込んでいた事に、言い知れぬ後悔に襲われた。
 思えば副団長の事だって、私は何も知らずに一方的な思い込みで逆恨みしていたのだ。自分が出来た人間だとは思わないけれど、それなりに常識は持っていると思っていた。なのに現実は随分と狭量で思い込みが激しく、そんな自分にこれまでに感じた事のない嫌悪感が湧いた。

(それに…この痛みって…)

 考えたくなかったけれど、飲まされた怪しい液体とその後身体に起きた異変、そして心当たりのない普通ならあり得ない場所の痛み。そこから思いつく過程に、私は一層頭を抱えた。

しおりを挟む
感想 218

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて

nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

処理中です...