【完結】一夜を共にしたからって結婚なんかしませんから!

灰銀猫

文字の大きさ
上 下
61 / 116

王女の凋落

しおりを挟む
「放しなさいよ!私は王女なのよ!」
「放せぇ!俺たちは無関係だ!」
「痛ぇよ!何するんだ!」

 ジョエルの終焉の横では、王女殿下達が見苦しく叫び声をあげていた。私を庇ってくれたジョエルに比べて、なんて醜悪なのだろう…その姿は王女殿下が副団長の姿に気付いた時に一層顕著になった。

「あ、アレク様っ!助けに来て下さったのですね!」

 何をどうしたらその台詞が出てくるのだろう。いっそその変わり身の早さが羨ましいほどだ。

「…アリソン王女殿下」
「助けてアレク様!わ、私は、彼らに脅されて…私は何も…」

 白々しくも助けを求め、無実を訴える声に、周りの男たちの表情が一転した。

「な、何を…殿下、私達は貴女様のご命令で…!」
「そ、そうです。協力すれば望みをかなえて下さると、そう仰ったではありませんか!」

 男たちが一斉に王女殿下に詰め寄った。彼らは何かの餌につられて王女殿下に加担したのだろう。じゃ、ジョエルは?彼はどうして王女殿下に手を貸したのだろう…

「お黙りなさい!高貴な私があなた達に何を命じたというのです?!」
「何をって…この女を攫って地獄に落とせと仰ったのは殿下ではありませんか」
「煩いわね!私はそんな事は言っていないわ!」

 内輪揉めのような罪の擦り付け合いに、私や副団長だけでなく、彼が連れてきた騎士たちも呆れ顔だった。醜悪過ぎて見るに堪えないとはこの事だろうか…お陰で尋問が要らないのではないかと思うほどだ。

「アレク様!助けて!私は何もしていませんわ!本当です、信じて下さい!」

 泣きながらそう訴える王女殿下は、先ほどの醜悪さは嘘のように、今は可憐な美少女然としていた。私ですらきっとこの場面だけ切り取って見せられたら、王女殿下の言葉を信じただろうと思うほどの役者っぷりだった。

「こいつらを拘束して騎士団の牢に放り込んでおけ!あと怪我人の搬送を」
「はっ!」
「そんな!ア、アレク様!アレク様ァ―――!!!」

 騎士たちが副団長の命令に返事をして、てきぱきと彼らを拘束していった。王女殿下は最後まで副団長の名を呼び続けていたが、副団長は視線すらも向ける事はなかった。男たちは観念したのか粛々と従い、王女殿下とは対照的だった。

「エリアーヌ嬢、怪我は?」
「怪我は…特には…」
「よかった。とにかく屋敷まで送ろう」

 副団長が着ていたコートを私に着せ、馬車に乗せられて屋敷に向かった。聞きたい事がたくさんあるのに、今は頭が思うように動かなかった。それに…馬車が揺れるたびに…身体に熱が溜まっていくのを感じた。

(そう言えば…あの小瓶の中身…)

 今頃になってあの中身が効いてきたのだろうか…即効性がなかったのは幸いだったけれど、じくじくと急速に膨れ上がる馴染みのない感覚に恐怖を感じた。思わず被っていたコートの前をぎゅっと握った。

「…エリアーヌ嬢?」

 そんな私の態度に気付いたのだろうか。副団長が訝し気に私を呼んだが、私は何でもないです、としか答えられなかった。

「何かあったらすぐに言ってくれ」
「ありがとう、ございます…」

 副団長にそう言われて謝意を示すと、ショックを受けているのだろうと思ったのか、それ以上は何も言われなかった。だが私は馬車が揺れる度に身体の熱が高まるのを感じて、俯いたまま耐えるしか出来なかった。ジョエルの容態が気になったが、もうその事を考える事すら出来ない。今が夜でよかったと、心からそう思った。




しおりを挟む
感想 218

あなたにおすすめの小説

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

処理中です...