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王女の凋落
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「放しなさいよ!私は王女なのよ!」
「放せぇ!俺たちは無関係だ!」
「痛ぇよ!何するんだ!」
ジョエルの終焉の横では、王女殿下達が見苦しく叫び声をあげていた。私を庇ってくれたジョエルに比べて、なんて醜悪なのだろう…その姿は王女殿下が副団長の姿に気付いた時に一層顕著になった。
「あ、アレク様っ!助けに来て下さったのですね!」
何をどうしたらその台詞が出てくるのだろう。いっそその変わり身の早さが羨ましいほどだ。
「…アリソン王女殿下」
「助けてアレク様!わ、私は、彼らに脅されて…私は何も…」
白々しくも助けを求め、無実を訴える声に、周りの男たちの表情が一転した。
「な、何を…殿下、私達は貴女様のご命令で…!」
「そ、そうです。協力すれば望みをかなえて下さると、そう仰ったではありませんか!」
男たちが一斉に王女殿下に詰め寄った。彼らは何かの餌につられて王女殿下に加担したのだろう。じゃ、ジョエルは?彼はどうして王女殿下に手を貸したのだろう…
「お黙りなさい!高貴な私があなた達に何を命じたというのです?!」
「何をって…この女を攫って地獄に落とせと仰ったのは殿下ではありませんか」
「煩いわね!私はそんな事は言っていないわ!」
内輪揉めのような罪の擦り付け合いに、私や副団長だけでなく、彼が連れてきた騎士たちも呆れ顔だった。醜悪過ぎて見るに堪えないとはこの事だろうか…お陰で尋問が要らないのではないかと思うほどだ。
「アレク様!助けて!私は何もしていませんわ!本当です、信じて下さい!」
泣きながらそう訴える王女殿下は、先ほどの醜悪さは嘘のように、今は可憐な美少女然としていた。私ですらきっとこの場面だけ切り取って見せられたら、王女殿下の言葉を信じただろうと思うほどの役者っぷりだった。
「こいつらを拘束して騎士団の牢に放り込んでおけ!あと怪我人の搬送を」
「はっ!」
「そんな!ア、アレク様!アレク様ァ―――!!!」
騎士たちが副団長の命令に返事をして、てきぱきと彼らを拘束していった。王女殿下は最後まで副団長の名を呼び続けていたが、副団長は視線すらも向ける事はなかった。男たちは観念したのか粛々と従い、王女殿下とは対照的だった。
「エリアーヌ嬢、怪我は?」
「怪我は…特には…」
「よかった。とにかく屋敷まで送ろう」
副団長が着ていたコートを私に着せ、馬車に乗せられて屋敷に向かった。聞きたい事がたくさんあるのに、今は頭が思うように動かなかった。それに…馬車が揺れるたびに…身体に熱が溜まっていくのを感じた。
(そう言えば…あの小瓶の中身…)
今頃になってあの中身が効いてきたのだろうか…即効性がなかったのは幸いだったけれど、じくじくと急速に膨れ上がる馴染みのない感覚に恐怖を感じた。思わず被っていたコートの前をぎゅっと握った。
「…エリアーヌ嬢?」
そんな私の態度に気付いたのだろうか。副団長が訝し気に私を呼んだが、私は何でもないです、としか答えられなかった。
「何かあったらすぐに言ってくれ」
「ありがとう、ございます…」
副団長にそう言われて謝意を示すと、ショックを受けているのだろうと思ったのか、それ以上は何も言われなかった。だが私は馬車が揺れる度に身体の熱が高まるのを感じて、俯いたまま耐えるしか出来なかった。ジョエルの容態が気になったが、もうその事を考える事すら出来ない。今が夜でよかったと、心からそう思った。
「放せぇ!俺たちは無関係だ!」
「痛ぇよ!何するんだ!」
ジョエルの終焉の横では、王女殿下達が見苦しく叫び声をあげていた。私を庇ってくれたジョエルに比べて、なんて醜悪なのだろう…その姿は王女殿下が副団長の姿に気付いた時に一層顕著になった。
「あ、アレク様っ!助けに来て下さったのですね!」
何をどうしたらその台詞が出てくるのだろう。いっそその変わり身の早さが羨ましいほどだ。
「…アリソン王女殿下」
「助けてアレク様!わ、私は、彼らに脅されて…私は何も…」
白々しくも助けを求め、無実を訴える声に、周りの男たちの表情が一転した。
「な、何を…殿下、私達は貴女様のご命令で…!」
「そ、そうです。協力すれば望みをかなえて下さると、そう仰ったではありませんか!」
男たちが一斉に王女殿下に詰め寄った。彼らは何かの餌につられて王女殿下に加担したのだろう。じゃ、ジョエルは?彼はどうして王女殿下に手を貸したのだろう…
「お黙りなさい!高貴な私があなた達に何を命じたというのです?!」
「何をって…この女を攫って地獄に落とせと仰ったのは殿下ではありませんか」
「煩いわね!私はそんな事は言っていないわ!」
内輪揉めのような罪の擦り付け合いに、私や副団長だけでなく、彼が連れてきた騎士たちも呆れ顔だった。醜悪過ぎて見るに堪えないとはこの事だろうか…お陰で尋問が要らないのではないかと思うほどだ。
「アレク様!助けて!私は何もしていませんわ!本当です、信じて下さい!」
泣きながらそう訴える王女殿下は、先ほどの醜悪さは嘘のように、今は可憐な美少女然としていた。私ですらきっとこの場面だけ切り取って見せられたら、王女殿下の言葉を信じただろうと思うほどの役者っぷりだった。
「こいつらを拘束して騎士団の牢に放り込んでおけ!あと怪我人の搬送を」
「はっ!」
「そんな!ア、アレク様!アレク様ァ―――!!!」
騎士たちが副団長の命令に返事をして、てきぱきと彼らを拘束していった。王女殿下は最後まで副団長の名を呼び続けていたが、副団長は視線すらも向ける事はなかった。男たちは観念したのか粛々と従い、王女殿下とは対照的だった。
「エリアーヌ嬢、怪我は?」
「怪我は…特には…」
「よかった。とにかく屋敷まで送ろう」
副団長が着ていたコートを私に着せ、馬車に乗せられて屋敷に向かった。聞きたい事がたくさんあるのに、今は頭が思うように動かなかった。それに…馬車が揺れるたびに…身体に熱が溜まっていくのを感じた。
(そう言えば…あの小瓶の中身…)
今頃になってあの中身が効いてきたのだろうか…即効性がなかったのは幸いだったけれど、じくじくと急速に膨れ上がる馴染みのない感覚に恐怖を感じた。思わず被っていたコートの前をぎゅっと握った。
「…エリアーヌ嬢?」
そんな私の態度に気付いたのだろうか。副団長が訝し気に私を呼んだが、私は何でもないです、としか答えられなかった。
「何かあったらすぐに言ってくれ」
「ありがとう、ございます…」
副団長にそう言われて謝意を示すと、ショックを受けているのだろうと思ったのか、それ以上は何も言われなかった。だが私は馬車が揺れる度に身体の熱が高まるのを感じて、俯いたまま耐えるしか出来なかった。ジョエルの容態が気になったが、もうその事を考える事すら出来ない。今が夜でよかったと、心からそう思った。
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