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目が覚めました

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「……」

 何だろう、長くて変な夢を見ていた気がする。目が覚めた私が最初に感じたのはそんな事だった。夢の内容が思い出せないけど、あんまりいい内容じゃなかった気がする。覚えていないのに妙にリアルだった気もするし、何だかすっきりしない。
 体を起こすといつもの副団長の屋敷の私の部屋のベッドの上で、外は既に明るくて太陽が高い位置にあるのを感じた。

「エリアーヌ様?お、お目覚めになりましたか?」

 まだぼんやりしていたところで侍女に声を掛けられた。なんだろう、酷く慌てているように見えるけど、何かあっただろうか…

「大丈夫ですか?ずっと眠っていらっしゃったのでいきなり起き上がらないで下さい」
「ずっと、眠って?」
「はい。もう三日でしょうか」
「み、三日ぁ?」

 思わず大きな声が出てしまったけれど…三日も眠っていた?何で?どうして?熱が出たわけでもないのに寝ていたって…

「ど、どうして三日も…」

 呆然とする私だったが、侍女も詳しい事は…と戸惑っていた。誰か事情が分かる人はいないかと尋ねると、だったら旦那様が…と言う。旦那様って、この家では主の副団長の事だ。
 そう言えば寝込む前は何していたっけ、と記憶を掘り起こそうとして…一気に色んな事を思い出した。

「ふ、副団長は?怪我はどうなったの?」
「怪我…ですか?旦那様が?」
「そ、そうよ。確か脇腹を…」
「ああ、目が覚めたか?」

 刺された…と言おうとした私の言葉は音になる事はなかった。当の本人が姿を現したからだ。今は仕事着の騎士服ではなく、簡素な普段着だ。ここにいるという事は仕事は?今日は休みだっただろうか…

「あ、あの…」
「話をする前にその…着替えてくれないか?」
「…は?」
「さすがにその恰好では目のやり場に困る」
「…え?あ、ああっ!」

 わが身を見直して、私は慌ててシーツをかき集めた。そう言えば起きたばかりで夜着のままだった。この屋敷ではあの小太りコルセットは侍女に禁止されていたし、さすがに寝る時までアレを付ける事はなかったから身体のラインが丸見えだった…

(ちょっと…いきなり女性の部屋に入ってこないでよ…!)

 そりゃあ裸を見られた事もあったし、今更っちゃ今更だけど、それでも見せたいわけでも見られたいわけでもないのだ。



 着替えて軽く食事をした後、侍女が副団長を呼びに行った。目が覚めたばかりだから、まだ起き上がらない方がいいと言われたからだ。特に体調不良を感じていないけれど、副団長に止められたのだ。

「気分はどうだ?」
「特には…何も」

 そう、今のところ何か不調を感じている感じはなかった。熱もないしどこにも痛みはない。食事も美味しく頂けた。湯あみをした時にちょっとクラっと来たけど、これは三日も寝ていたせいだろう。だが、それよりも気になる事がある。

「副団長こそ、大丈夫なんですか?確か刺されていましたよね?」

 そうなのだ。私よりも副団長こそ動いていて大丈夫なのだろうか。あの時は顔色も悪く、最後の記憶では床に蹲っていた筈だ。もしかするとあの黒づくめの者に危害を加えられたかもしれない。あの時感じた重さは副団長のもので、私を庇ってくれた可能性もある。

「俺の方は心配無用だ」
「でも…」
「本当に問題ない。怪我も治癒魔法が使える部下に治して貰った」
「部下って…あの美人さんが?」
「美人…?ああ、まぁ…そうだな」

 何だろう、歯切れが悪い。もしかすると秘密の恋人だったりするのだろうか。呼べばすぐに来てくれたから、実は近くにいるのかもしれない。

「じゃ、怪我は…」
「ああ、問題ない。傷痕も残っていないから大丈夫だ」

 そう言われてほっとした。確かに目の前の副団長は顔色も悪くないし、治癒魔法で治して貰った時の事を思うと治っていると思ってよさそうだ。

「それよりも、話しておかなければならない事がある。今いいか?」

 急に真面目な表情でそう言われてしまった。何だろう…あまりいい話じゃないような気がするのだけど…そう思いながらも私は頷くしかなかった。




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