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この扱いは何?
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(さすがと言うべきか…最年少で副団長になっただけはあるわね…)
今私がいるのは、落ち着いたグレーベージュの壁紙の上品で落ち着いた雰囲気の部屋だった。寮の部屋の三倍は広いし、そこに置かれた家具の値段はもう比較対象外だ。高級で上質なそれらは、一つでも私の給料何か月分だろう…というレベル。部屋の奥には同じくらいの広さの寝室があり、そこには寮の三倍はあろう広さのベッドがあるし、別のドアを開けるとトイレや浴室まで揃っている。
そして先ほど案内された向かいにある部屋は、立派な執務机とソファなどが置かれた仕事用の部屋だった。そこには既に運び込まれた、大量の書類が積み上がっていた。
ここは上司で仮の婚約者の副団長の私邸だ。この話を聞いたのは昨日の朝なのに、翌日にはこの有様だ。前から予定していたのか?と思いたくなるほどに用意がいい。それともここの使用人が優秀なだけだろうか…仕事が早い、早すぎる…
(身一つでいいと言われたけど…)
どういう事なのか、部屋のクローゼットの半分は既に服で埋まっているし、侍女の話では下着なども全て揃えてあるという。チラっとしか見ていないけど、寸胴タイプのものではない。きっとサイズぴったり…だと思う。足りないものがあったら遠慮なく仰って下さい、と言われたけれど…足り直ぎてご辞退申し上げたいレベルだ…今すぐ返品して欲しい。
「こ、こんなにたくさん要りません。困ります…」
「ですが、旦那様のご命令ですので。もしお気に召さない様でしたら旦那様に仰って下さい」
侍女にそう言われたけれど…そんな事言えるはずもない。いや、ここは辞退申し上げた方がいいだろうか。ただ書類をチェックするためだけにこれって、おかしくない?
そもそも私は体型を誤魔化しているので、ここにある服を来て外には出られそうもない。事務官用の制服と、自宅にある私服が数枚あれば十分なのだ。
(ダメだ…何を考えてるのか、さっぱり理解出来ない…)
一方的に嫌っていた私に、ここまでする理由がわからない。間違いなく嫌われている筈なのにこの待遇、どう受け止めたらいいのか…世の中には自分の理解が及ばない世界があるのだと何かの本に書かれていたけれど、この状況がそうかもしれない。
だが、一つだけわかっている事がある。私に期待されているのは、あの書類の山から不正を見つけ出す事だ。それが出来れば、ここからも婚約者としての仮の肩書からも解放される筈だ。
「おい、何時までやっているんだ?」
「へ?」
声をかけられて顔を上げると、そこにいたのは彼だった。突然の出現に驚いて悲鳴が出そうになった。よく止めた自分。夜に他人の屋敷で大声を出さなくてよかった…
「あ、あの…」
「もう日付が変わっているぞ」
「ええっ?」
すっかり集中していたから気が付かなかったけれど、もうそんな時間だったのか…いや、その前に自分だって騎士服のままだけど…今帰ってきたのだろうか?
「急いで欲しいのは山々だが、ここまで根を詰める必要はないから」
「あ…はい」
「とにかく今日は寝ろ。明日の仕事に関わる」
「…申し訳ございませんでした」
「…謝って欲しいわけじゃない」
「…すみません」
他に答えようもなくそう言うと、彼は眉間のしわを深めたまま、とにかく今日は終われと言って出て行ってしまった。しまった、余計な気を使わせてしまった。そうは思うけど、終わった書類の量に対して残っている書類はあまりにも多く、この調子ではいつまでかかるか…というものだった。でも…
(…とりあえず、寝よう…)
明日も仕事なのには変わりない。途方もない量の書類に向かってため息をついて、部屋を後にした。
今私がいるのは、落ち着いたグレーベージュの壁紙の上品で落ち着いた雰囲気の部屋だった。寮の部屋の三倍は広いし、そこに置かれた家具の値段はもう比較対象外だ。高級で上質なそれらは、一つでも私の給料何か月分だろう…というレベル。部屋の奥には同じくらいの広さの寝室があり、そこには寮の三倍はあろう広さのベッドがあるし、別のドアを開けるとトイレや浴室まで揃っている。
そして先ほど案内された向かいにある部屋は、立派な執務机とソファなどが置かれた仕事用の部屋だった。そこには既に運び込まれた、大量の書類が積み上がっていた。
ここは上司で仮の婚約者の副団長の私邸だ。この話を聞いたのは昨日の朝なのに、翌日にはこの有様だ。前から予定していたのか?と思いたくなるほどに用意がいい。それともここの使用人が優秀なだけだろうか…仕事が早い、早すぎる…
(身一つでいいと言われたけど…)
どういう事なのか、部屋のクローゼットの半分は既に服で埋まっているし、侍女の話では下着なども全て揃えてあるという。チラっとしか見ていないけど、寸胴タイプのものではない。きっとサイズぴったり…だと思う。足りないものがあったら遠慮なく仰って下さい、と言われたけれど…足り直ぎてご辞退申し上げたいレベルだ…今すぐ返品して欲しい。
「こ、こんなにたくさん要りません。困ります…」
「ですが、旦那様のご命令ですので。もしお気に召さない様でしたら旦那様に仰って下さい」
侍女にそう言われたけれど…そんな事言えるはずもない。いや、ここは辞退申し上げた方がいいだろうか。ただ書類をチェックするためだけにこれって、おかしくない?
そもそも私は体型を誤魔化しているので、ここにある服を来て外には出られそうもない。事務官用の制服と、自宅にある私服が数枚あれば十分なのだ。
(ダメだ…何を考えてるのか、さっぱり理解出来ない…)
一方的に嫌っていた私に、ここまでする理由がわからない。間違いなく嫌われている筈なのにこの待遇、どう受け止めたらいいのか…世の中には自分の理解が及ばない世界があるのだと何かの本に書かれていたけれど、この状況がそうかもしれない。
だが、一つだけわかっている事がある。私に期待されているのは、あの書類の山から不正を見つけ出す事だ。それが出来れば、ここからも婚約者としての仮の肩書からも解放される筈だ。
「おい、何時までやっているんだ?」
「へ?」
声をかけられて顔を上げると、そこにいたのは彼だった。突然の出現に驚いて悲鳴が出そうになった。よく止めた自分。夜に他人の屋敷で大声を出さなくてよかった…
「あ、あの…」
「もう日付が変わっているぞ」
「ええっ?」
すっかり集中していたから気が付かなかったけれど、もうそんな時間だったのか…いや、その前に自分だって騎士服のままだけど…今帰ってきたのだろうか?
「急いで欲しいのは山々だが、ここまで根を詰める必要はないから」
「あ…はい」
「とにかく今日は寝ろ。明日の仕事に関わる」
「…申し訳ございませんでした」
「…謝って欲しいわけじゃない」
「…すみません」
他に答えようもなくそう言うと、彼は眉間のしわを深めたまま、とにかく今日は終われと言って出て行ってしまった。しまった、余計な気を使わせてしまった。そうは思うけど、終わった書類の量に対して残っている書類はあまりにも多く、この調子ではいつまでかかるか…というものだった。でも…
(…とりあえず、寝よう…)
明日も仕事なのには変わりない。途方もない量の書類に向かってため息をついて、部屋を後にした。
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