32 / 116
あの夜の真相
しおりを挟む
「まぁ、お前の事だ。俺が何を言っても信用しないだろうがな。だが安心しろ。何もしていないから」
「…え?」
何もって…本当に?そんな事言っても、証人も何もいないのに信じられないんですけど…!
「あの後お前は眠ってしまって、何度呼んでも起きなかったんだ」
「そ、そんな…」
それを信じろと?思わずそう叫んでしまいそうになったのを、何とか思い止まった。
「さすがに寝ている奴に手を出すほど困っちゃいない。まぁ、信用出来ないというなら医者にでも見て貰え。そうすればはっきりするだろう。お前が他の男と致していないならな」
「な…!」
なんて事を言うのだ…!奴はまるで風邪をひいたみたいだから医者に行ってこい、みたいに軽く言ったけれど…
(い、医者って…医者に見せてわかるものなの?そ、その前になんて言って診て貰えばいいのよ…!)
そんな恥ずかしい事は出来そうになかった。でも…本当に、何もなかった…?
「まぁ、男の俺にはわからんが、女性は初めてだとあちこち痛むと聞く。お前はどうだった?」
「え?」
な、何て事聞くのよ…!いや、でも、痛むって…あれ?そう言えば、恋愛小説では致した翌朝は筋肉痛…で…?
「心配するな、これからも手を出すつもりはない」
言い切られて何だかムッとした。それじゃ私に魅力が皆無みたいじゃない…
「ミュッセ伯爵にも手紙を出した。成人しているとはいえ婚約には当主の許可が必要だからな。望むなら俺からも事情を話すから遠慮なく言ってくれ」
「あ…ありがとうございます」
私の戸惑いをよそに、奴は淡々と今後の事を話していった。確かに婚約は家同士の問題だから、私の一存では決められなかった。当主の許可がなければ何も出来ないのが貴族というもので、私の場合は母の許可が必要だ。ちなみに奴は既に伯爵家の当主だから親の承認は不要の筈。でも、いいのだろうか…
「何だ?」
「い、いえ…その、副団長のご両親はどうお考えなのかと…」
「ああ、それなら心配いらない。既に事情を話してあるし、多分殿下からも話が行くだろう」
そうか、この婚約は殿下の暗殺計画を阻止するものだから、内々に話が行っていてもおかしくはない。奴の実家の公爵家は王太子殿下派だったはず。それに跡継ぎの長男といざという時のスペアの次男だったら難しいだろうが、その可能性が低い三男の扱いなんてそんなものかもしれない。
「あと、俺の事が気に入らないのは見ていてわかるけど、理由は何だ?俺、お前に何かしたか?」
「…え?」
突然のその質問に、私は思わず息を飲んだ。そんな事を直球で聞かれるとは思わなかった…
「確かにお前とは同じ学園だった。だが話した事もなかったよな?」
「そ、それは…」
「違うか?」
「……その通り、です」
そう、その通りで、私達は学園で話した事もなかった。私が一方的に敵認定していただけ、で…
「じゃぁ、なんでだ?」
「そ、それは…」
「一方的に敵意を向けられる俺の気持ち、考えた事があるか?」
「……っ」
何も…答えられなかった。確かに奴の言う通りだ。私は一方的に天敵認定していたけど、それは首席の座をとれなかった事への逆恨みでしかなく…彼に何かされたわけでもなかった。ううん、そもそも接点すらなかったのだ。
「お前が何を思って俺を敵視していたのかを詮索する気はない。けどな、俺だって意味もなく敵意を向けられるのは気持ちのいいものじゃない。それは覚えておいてくれ」
「……」
あの後、申し訳ありませんでした、と答えるのが精一杯だった。でも確かに奴の…いや、彼の言う通りだ。私のこれは単なる逆恨みでしかないから…同じような事をされて、どうでもいいと、気にせずにいられただろうか…
(…私、は…)
自分の事しか考えていなかったのだと、もしかしたら傷つけていたのかもしれないと、初めてその事に思い至った。
「…え?」
何もって…本当に?そんな事言っても、証人も何もいないのに信じられないんですけど…!
「あの後お前は眠ってしまって、何度呼んでも起きなかったんだ」
「そ、そんな…」
それを信じろと?思わずそう叫んでしまいそうになったのを、何とか思い止まった。
「さすがに寝ている奴に手を出すほど困っちゃいない。まぁ、信用出来ないというなら医者にでも見て貰え。そうすればはっきりするだろう。お前が他の男と致していないならな」
「な…!」
なんて事を言うのだ…!奴はまるで風邪をひいたみたいだから医者に行ってこい、みたいに軽く言ったけれど…
(い、医者って…医者に見せてわかるものなの?そ、その前になんて言って診て貰えばいいのよ…!)
そんな恥ずかしい事は出来そうになかった。でも…本当に、何もなかった…?
「まぁ、男の俺にはわからんが、女性は初めてだとあちこち痛むと聞く。お前はどうだった?」
「え?」
な、何て事聞くのよ…!いや、でも、痛むって…あれ?そう言えば、恋愛小説では致した翌朝は筋肉痛…で…?
「心配するな、これからも手を出すつもりはない」
言い切られて何だかムッとした。それじゃ私に魅力が皆無みたいじゃない…
「ミュッセ伯爵にも手紙を出した。成人しているとはいえ婚約には当主の許可が必要だからな。望むなら俺からも事情を話すから遠慮なく言ってくれ」
「あ…ありがとうございます」
私の戸惑いをよそに、奴は淡々と今後の事を話していった。確かに婚約は家同士の問題だから、私の一存では決められなかった。当主の許可がなければ何も出来ないのが貴族というもので、私の場合は母の許可が必要だ。ちなみに奴は既に伯爵家の当主だから親の承認は不要の筈。でも、いいのだろうか…
「何だ?」
「い、いえ…その、副団長のご両親はどうお考えなのかと…」
「ああ、それなら心配いらない。既に事情を話してあるし、多分殿下からも話が行くだろう」
そうか、この婚約は殿下の暗殺計画を阻止するものだから、内々に話が行っていてもおかしくはない。奴の実家の公爵家は王太子殿下派だったはず。それに跡継ぎの長男といざという時のスペアの次男だったら難しいだろうが、その可能性が低い三男の扱いなんてそんなものかもしれない。
「あと、俺の事が気に入らないのは見ていてわかるけど、理由は何だ?俺、お前に何かしたか?」
「…え?」
突然のその質問に、私は思わず息を飲んだ。そんな事を直球で聞かれるとは思わなかった…
「確かにお前とは同じ学園だった。だが話した事もなかったよな?」
「そ、それは…」
「違うか?」
「……その通り、です」
そう、その通りで、私達は学園で話した事もなかった。私が一方的に敵認定していただけ、で…
「じゃぁ、なんでだ?」
「そ、それは…」
「一方的に敵意を向けられる俺の気持ち、考えた事があるか?」
「……っ」
何も…答えられなかった。確かに奴の言う通りだ。私は一方的に天敵認定していたけど、それは首席の座をとれなかった事への逆恨みでしかなく…彼に何かされたわけでもなかった。ううん、そもそも接点すらなかったのだ。
「お前が何を思って俺を敵視していたのかを詮索する気はない。けどな、俺だって意味もなく敵意を向けられるのは気持ちのいいものじゃない。それは覚えておいてくれ」
「……」
あの後、申し訳ありませんでした、と答えるのが精一杯だった。でも確かに奴の…いや、彼の言う通りだ。私のこれは単なる逆恨みでしかないから…同じような事をされて、どうでもいいと、気にせずにいられただろうか…
(…私、は…)
自分の事しか考えていなかったのだと、もしかしたら傷つけていたのかもしれないと、初めてその事に思い至った。
121
お気に入りに追加
3,749
あなたにおすすめの小説
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて
nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…
私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。
ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。
しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。
もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが…
そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。
“側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ”
死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。
向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。
深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは…
※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。
他サイトでも同時投稿しています。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
【完結】彼の瞳に映るのは
たろ
恋愛
今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。
優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。
そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。
わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。
★ 短編から長編へ変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる