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あの夜の真相

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「まぁ、お前の事だ。俺が何を言っても信用しないだろうがな。だが安心しろ。何もしていないから」
「…え?」

 何もって…本当に?そんな事言っても、証人も何もいないのに信じられないんですけど…!

「あの後お前は眠ってしまって、何度呼んでも起きなかったんだ」
「そ、そんな…」

 それを信じろと?思わずそう叫んでしまいそうになったのを、何とか思い止まった。

「さすがに寝ている奴に手を出すほど困っちゃいない。まぁ、信用出来ないというなら医者にでも見て貰え。そうすればはっきりするだろう。お前が他の男と致していないならな」
「な…!」

 なんて事を言うのだ…!奴はまるで風邪をひいたみたいだから医者に行ってこい、みたいに軽く言ったけれど…

(い、医者って…医者に見せてわかるものなの?そ、その前になんて言って診て貰えばいいのよ…!)

 そんな恥ずかしい事は出来そうになかった。でも…本当に、何もなかった…?

「まぁ、男の俺にはわからんが、女性は初めてだとあちこち痛むと聞く。お前はどうだった?」
「え?」

 な、何て事聞くのよ…!いや、でも、痛むって…あれ?そう言えば、恋愛小説では致した翌朝は筋肉痛…で…?

「心配するな、これからも手を出すつもりはない」

 言い切られて何だかムッとした。それじゃ私に魅力が皆無みたいじゃない…

「ミュッセ伯爵にも手紙を出した。成人しているとはいえ婚約には当主の許可が必要だからな。望むなら俺からも事情を話すから遠慮なく言ってくれ」
「あ…ありがとうございます」

 私の戸惑いをよそに、奴は淡々と今後の事を話していった。確かに婚約は家同士の問題だから、私の一存では決められなかった。当主の許可がなければ何も出来ないのが貴族というもので、私の場合は母の許可が必要だ。ちなみに奴は既に伯爵家の当主だから親の承認は不要の筈。でも、いいのだろうか…

「何だ?」
「い、いえ…その、副団長のご両親はどうお考えなのかと…」
「ああ、それなら心配いらない。既に事情を話してあるし、多分殿下からも話が行くだろう」

 そうか、この婚約は殿下の暗殺計画を阻止するものだから、内々に話が行っていてもおかしくはない。奴の実家の公爵家は王太子殿下派だったはず。それに跡継ぎの長男といざという時のスペアの次男だったら難しいだろうが、その可能性が低い三男の扱いなんてそんなものかもしれない。

「あと、俺の事が気に入らないのは見ていてわかるけど、理由は何だ?俺、お前に何かしたか?」
「…え?」

 突然のその質問に、私は思わず息を飲んだ。そんな事を直球で聞かれるとは思わなかった…

「確かにお前とは同じ学園だった。だが話した事もなかったよな?」
「そ、それは…」
「違うか?」
「……その通り、です」

 そう、その通りで、私達は学園で話した事もなかった。私が一方的に敵認定していただけ、で…

「じゃぁ、なんでだ?」
「そ、それは…」
「一方的に敵意を向けられる俺の気持ち、考えた事があるか?」
「……っ」

 何も…答えられなかった。確かに奴の言う通りだ。私は一方的に天敵認定していたけど、それは首席の座をとれなかった事への逆恨みでしかなく…彼に何かされたわけでもなかった。ううん、そもそも接点すらなかったのだ。

「お前が何を思って俺を敵視していたのかを詮索する気はない。けどな、俺だって意味もなく敵意を向けられるのは気持ちのいいものじゃない。それは覚えておいてくれ」
「……」

 あの後、申し訳ありませんでした、と答えるのが精一杯だった。でも確かに奴の…いや、彼の言う通りだ。私のこれは単なる逆恨みでしかないから…同じような事をされて、どうでもいいと、気にせずにいられただろうか…

(…私、は…)

 自分の事しか考えていなかったのだと、もしかしたら傷つけていたのかもしれないと、初めてその事に思い至った。

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