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私が異動になった理由

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「ああ、そうだったね。懐かしくてつい、ね…」

 そう言って王太子殿下が微笑まれたけれど、奴の腹黒笑みとは比べ物にならないほどに清廉なものだった。モヤモヤした気分が癒される眼福の笑みだ…名実ともに尊い…
 座って話をしようと言われたので、殿下の向かい側に奴と並んで座った。

「すまないね、エリー。今回のエリーの異動は、私の暗殺計画のせいなんだよ」
「…ええっ?!」

 先ほどと変わらない笑顔でそう言われて、私は思わず声を上げてしまった。笑顔で言う事なの、それ?それに王太子殿下を暗殺しようなんて、一族郎党まとめて即刻処刑の大重罪なのに…

(そんな恐ろしい計画が…?)

 王宮は陰謀渦巻く魔窟とも言われているけど、しがない貧乏伯爵家の自分には縁がないと思っていただけに、もう驚きしかない。いやもう、今日はずっと驚きっぱなしなんだけど…

「面倒な事に巻き込んでしまって申し訳ない。ただ…既にエリーはその計画を立てている者達から狙われているんだ」
「…狙われているって、私が、ですか?そ、そんな、どうして…」

 王太子殿下のお言葉を疑うなんて不敬だとはわかっているけれど、とても直ぐには信じられなかった。私がそんな物騒な事を計画している連中に狙われている?どうして?

「やっぱりエリーは自覚がなかったんだね」
「え、ええ…」

 自覚も何も、そう言われた今だって信じられないんですけど…

「エリーは彼らの計画の邪魔をしていたんだ。それも何度もね」
「邪魔…って、そんな事…」
「ああ、エリーが何かをしたってわけじゃない。エリーが真面目に職務を全うしていた結果、そうなったと言うべきかな」

 私が一体何をしたというのだろう…でも、真面目に仕事をするのは当然だし、それで彼らの邪魔をしたって言われても…

「…もしかして…」
「心当たりが?」
「…不正を…領地からの書類の不正を、見つけた事、でしょうか…」

 思い当たるとしたらそれしかない。と言うかそれ以外に思い当たらない。でも、あれは計算間違いだと片づけられなかっただろうか…いや、上司に報告した後、どうなったのかまでは知らされていないけど。

「エリーが見つけた不正は、彼らの資金源だったんだ」
「…資金源。それでは…逆恨みを?」
「そういう事。だからアレクにエリーを保護するように命じたんだ。異動もその一つ。王宮よりも騎士団の方が安全だし、アレクの専属にしておけば人との接触も最小限に抑えられるからね」

 まさかあの異動が殿下絡みだったなんて…てっきり休んだせいで左遷されたのかと思っていた…

「エリーは既に彼らから邪魔な存在だと見られている。エリーが受け取った脅迫状の半分は、彼らの仕業だ」
「ええっ?」

 そう言えば最近、辞めなければ殺すとかいう内容が増えたなとは思っていたけれど…てっきり令嬢の嫉妬だと思っていただけに、驚きしかない…

「まぁ、守れと言ったのに婚約するとは思わなかったけど」

 そう言って殿下が苦笑された。うん、そこは私も同感なので頷いた。

「仕方ないでしょう、殿下。こいつには後ろ盾も伝もないんですから。婚約が一番手っ取り早いんですよ」

 天敵がぶっきらぼうにそう言ったけど…殿下にそんな言い方をして大丈夫なの?いや、さっきから二人はやけに気安いなぁとは思うけど。

「確かに時間もないし、アレクの言う通りだね。君を危険に巻き込んでしまって申し訳ない」
「い、いえ、殿下のせいではありませんので」

 殿下に頭を下げられてしまったけど、恐れ多い事この上ない。それに不正を見つけるのが監査局の仕事でもあるのだからこうなるのがおかしいのだ。殿下には何の非もない。

「まぁ、こういう事情だから、エリーも気を付けて欲しい。そうそう、団長の専属のアルノワも彼らの仲間の可能性があるんだ」
「ええっ?」
「まだ尻尾が掴めなくて泳がせているけどね。ああ、彼に殴られたんだって?」
「え、ええ…まぁ」
「女性の顔を殴るなんて、許し難いところなんだが、まだ暫くは奴を泳がしておきたくてね。処分が軽いものになってすまなかった」
「い、いえ、そういう事情でしたら…」
「いずれはきっちりけじめを付けさせるから。それまでは我慢して欲しい」
「はい」

 なんて事だ。彼も奴らの一味なのか。そう言えば団長が考えていた不正を防ぐ新しい仕組みに反対していたのも彼だった。それで書類を出さずに休暇を取ったんだったところをみると、彼は限りなく黒なのだろう。


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