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神様、詰め込み過ぎです!

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  あの後、アルノワ殿は鬼と化した団長に魂が抜けるほど叱られたあと、丸一日懲罰牢に入れられた。それから始末書と二度と暴力を振るわないとの誓約書の提出、そして三か月の減給処分となった。

「団長、アルノワ殿への処分、軽すぎませんか?」

憤ってくれたのはエミール様だった。天使の外見をした彼は性格も優しく、私の事なのにわが身の様に怒ってくれた。そしてアルノワ殿に強く言えなかった事を謝られてしまった。可愛い…そして尊い…

「俺としてももう少し重い処分を…と思ったんだが、騎士同士だとこんなもんだからな。それにああいうタイプは逆恨みするだろう?ミュッセ嬢の安全を思うとな…」
「それは…そうですけど…」

 なおも不満のエミール様だったけれど、そんな風に言って貰えただけでも私としては十分だった。前の職場では何かあっても誰も庇ってくれなかったから。
 それに団長の言う通りだった。ああいうタイプは無駄にプライドだけは高く、逆恨みするとしつこくて面倒くさいのだ。だからこの件は後で団長に相談するつもりだった。団長のお人柄なら、彼に気付かれない様に上手く対応してくれると思ったから。

「アルノワにもきつく言っておいたから、もう絡んでくることはないだろう。もし何かあったら俺に直ぐに言ってくれ」
「ありがとうございます」

 団長ってばイケメンだけど、中身もイケメンだった。頼りがいのある上司、なんて素敵な響きだろう。騎士団に異動になってよかった、と思えた瞬間だった。
 実際、団長に何を言われたのか、彼が私に絡んでくることもなくなった。平和で有難い。このまま絡む事なくどこかに行ってくれればいいのに、と思う。

 そして、もう一つ予想外な事があった。あの天敵が何かと私に構うようになったのだ。その始まりは、アルノワ殿に殴られた直後からだろうか…

「ほら、座って」
「は?」
「いいから。座ったらそのままじっとして」
「な、なにを…」
「何って、治療。女性が顔を腫らしたままなんてダメだろう?」
「ええっ?」

  アルノワ殿が懲罰牢に連れていかれた後、執務室で私はソファに座らされた。何かと思って見上げたら、奴の手のひらの前にほんのりと何かが光っているように見えた。

「…そ、それって…」
「ああ、治癒魔法。初めて?」
「…え、あ、はい…」

 こいつが魔力持ちだとは知っていたけれど、まさか治癒魔法が使えるとは思わなかった。この世界では魔力を持って生まれる者がいるけど、とても希少で珍しいのだ。我が国でも何人いるか…というレベルで、その中でも治癒魔法が使えるのはもっと貴重だと聞いた。そんなレアな力を、この男が…?

(どこまで神様は依怙贔屓してんのよ…!)

 顔も頭もよく、公爵家の出で剣の才能もあり、しかも魔法もって…神様、こいつに詰め込み過ぎだろう…ズルいなんて言うのは幼稚だとは思うけど、何も持たない身としてはやさぐれたくなるレベルだ…

「さ、出来た。これでもう大丈夫だ」
「……え?もう?」
「ああ。どうだ?痛みや違和感はないか?」

 私が心の中でこいつと神様に毒づいている間に、治療が終わったらしい。

「違和感、特には…え?あれ、痛く、ない?」

 恐る恐る頬に触れてみたけど、さっきまでの熱を持った痛みが引いている気がした。触るどころか軽く抓っても…痛くない。

「あ、ありがとう、ございます」

 ここはきちんとお礼を言うべきだろう。いくら天敵でもそれとこれとは話が別だし。

(でも…最近は女性との噂も聞かないし…本当にマシになった?)

 そう思ってしまうくらいには女性の影がなかった。浮ついた噂も聞かないし、見直してやってもいいのかもしれない…

「いや、でも治せるのは簡単なものだけなんだ。だから気にしないでくれ」
「な…」

 そう言って奴はふわっとした笑みを浮かべたが…心臓に悪かった、とだけ言っておこう。決して絆されたりなんかしていない。積年の恨み辛みは、そう簡単には消えないのだから…


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