23 / 116
夜会ですか、そうですか…
しおりを挟む
あっという間に夜会の日になった。貴族の家に生まれたけれど夜会に出た事がなかったし、お茶会だって子供の頃に出たっきりだ。マナーは仕事をする上で最低限身に付けていればいいと思っていたから自信がないし、令嬢としての立ち居振る舞いはもっと自信がない。最初はやってやろうじゃないの!と思っていたけれど、その日が近づくにつれて段々そんな勢いもしぼみ、怖気づいていく自分がいた。
(…それでも、行くしかないのよね…)
その日は仕事があったけれど、昼過ぎには奴の家に連れてこられた。家っていうかお屋敷だけど…同じ伯爵家なのに我が家の倍は広いしお金もかかっているのが一目瞭然だ。副団長ってそんなに給料がいいのか…羨ましい…
「さぁ!始めますわよ!」
「「「はいっ!」」」
屋敷に入ると家令や侍女が待ち構えていて、私はあっという間に侍女たちに囲まれて連れていかれた。身包み剥がされて浴室に放り込まれ、そりゃあもう皮膚が擦り切れるかっていうくらいに磨かれた。その後もマッサージだ何だと揉みくちゃにされ、最後は奴が用意したと言うドレスに着替えさせられた。
「まぁ!お似合いですわ!」
「それになんて素晴らしいプロポーション!」
「お化粧がこんなに映えるなんて…普段何もしないのが勿体ないですわ!」
鏡の前にいるのは、私の知らない私だった。何の変哲もない茶色の髪は緩く結い上げられて所々にパールが散りばめられていた。普段は眼鏡で隠している新緑色の瞳はお化粧のせいでいつも以上にパッチリと目立ち、普段の私とは結びつかないだろう。化粧って凄い。詐欺だって言われそうだ…
ドレスは落ち着いた色合いの淡いグリーンだった。スカートの広がりは控えめて身体のラインが綺麗に出るけど、露出は少ないし生地がいいせいか上品に見える。まともにドレスを着たのは生まれて初めてだから、こんな時なのに心が躍った。ドレスってだけで気分が上がってしまうのは、私の心が完全に枯れていないせいだろうか…
そして既製品だとは聞いていたけど、サイズぴったりなんですけど…
(やっぱり…あの夜って…)
何もなかったと思いたい私だったけれど、誂えたようなぴったりサイズは私の願いを砕くには十分だった。もう深くは考えるまい…子供が出来なかっただけで良しとしよう…侍女さん達が盛り上がっている横で私はぐったりしていた。身体もだけど、心も疲れた…
「…へぇ、化けるもんだな」
ソファに座らされてお茶を頂いていると、正装に着替えた奴がやってきた。私の姿を見て驚きの表情を現しているけど、どこかわざとらしく見えるから半分は面白がっているのだろう。
「…どうも」
自分では買えそうもないドレスを贈って貰った事には感謝すべきなんだろうけど…行きたくないし、令嬢からの嫉妬も考慮するとマイナスにしか思えないから、素直にお礼を言うのも癪に障った。それに面白がっているのが丸わかりで腹立たしくすらあるんだけど…
(くそぅ、正装が似合いすぎじゃない…)
騎士の正装は白と黒の両方があってその時の状況で使い分けるらしいが、今日の奴は黒い方だった。見た目は爽やか系のイケメンだから白の方が似合うんだろうと思っていたけど、そんな先入観は大きな間違いだった。黒も似合う、物凄く…白は気品が増すけど、黒は精悍さが増して、悔しいがかっこよさが爆上がりだ…
(…冗談抜きで刺されるかもしれない…)
こんなイケメンにエスコートされて夜会なんかに出ただけでも危ない気がするのに、今日から専属文官だけではなく婚約者としての肩書が追加される。うん、明日生きて出勤出来るだろうか…夜会に向かう馬車の中の私の気分は…売られていく子牛だった。
(…それでも、行くしかないのよね…)
その日は仕事があったけれど、昼過ぎには奴の家に連れてこられた。家っていうかお屋敷だけど…同じ伯爵家なのに我が家の倍は広いしお金もかかっているのが一目瞭然だ。副団長ってそんなに給料がいいのか…羨ましい…
「さぁ!始めますわよ!」
「「「はいっ!」」」
屋敷に入ると家令や侍女が待ち構えていて、私はあっという間に侍女たちに囲まれて連れていかれた。身包み剥がされて浴室に放り込まれ、そりゃあもう皮膚が擦り切れるかっていうくらいに磨かれた。その後もマッサージだ何だと揉みくちゃにされ、最後は奴が用意したと言うドレスに着替えさせられた。
「まぁ!お似合いですわ!」
「それになんて素晴らしいプロポーション!」
「お化粧がこんなに映えるなんて…普段何もしないのが勿体ないですわ!」
鏡の前にいるのは、私の知らない私だった。何の変哲もない茶色の髪は緩く結い上げられて所々にパールが散りばめられていた。普段は眼鏡で隠している新緑色の瞳はお化粧のせいでいつも以上にパッチリと目立ち、普段の私とは結びつかないだろう。化粧って凄い。詐欺だって言われそうだ…
ドレスは落ち着いた色合いの淡いグリーンだった。スカートの広がりは控えめて身体のラインが綺麗に出るけど、露出は少ないし生地がいいせいか上品に見える。まともにドレスを着たのは生まれて初めてだから、こんな時なのに心が躍った。ドレスってだけで気分が上がってしまうのは、私の心が完全に枯れていないせいだろうか…
そして既製品だとは聞いていたけど、サイズぴったりなんですけど…
(やっぱり…あの夜って…)
何もなかったと思いたい私だったけれど、誂えたようなぴったりサイズは私の願いを砕くには十分だった。もう深くは考えるまい…子供が出来なかっただけで良しとしよう…侍女さん達が盛り上がっている横で私はぐったりしていた。身体もだけど、心も疲れた…
「…へぇ、化けるもんだな」
ソファに座らされてお茶を頂いていると、正装に着替えた奴がやってきた。私の姿を見て驚きの表情を現しているけど、どこかわざとらしく見えるから半分は面白がっているのだろう。
「…どうも」
自分では買えそうもないドレスを贈って貰った事には感謝すべきなんだろうけど…行きたくないし、令嬢からの嫉妬も考慮するとマイナスにしか思えないから、素直にお礼を言うのも癪に障った。それに面白がっているのが丸わかりで腹立たしくすらあるんだけど…
(くそぅ、正装が似合いすぎじゃない…)
騎士の正装は白と黒の両方があってその時の状況で使い分けるらしいが、今日の奴は黒い方だった。見た目は爽やか系のイケメンだから白の方が似合うんだろうと思っていたけど、そんな先入観は大きな間違いだった。黒も似合う、物凄く…白は気品が増すけど、黒は精悍さが増して、悔しいがかっこよさが爆上がりだ…
(…冗談抜きで刺されるかもしれない…)
こんなイケメンにエスコートされて夜会なんかに出ただけでも危ない気がするのに、今日から専属文官だけではなく婚約者としての肩書が追加される。うん、明日生きて出勤出来るだろうか…夜会に向かう馬車の中の私の気分は…売られていく子牛だった。
138
お気に入りに追加
3,749
あなたにおすすめの小説
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて
nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
【完結】彼の瞳に映るのは
たろ
恋愛
今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。
優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。
そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。
わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。
★ 短編から長編へ変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる