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二人きりの晩餐?

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(どうしてこうなった…)

 それから私は、天敵のイケメンと執務室にあるソファに向かい合わせで座り、共に食事をしていた。ここに異動してから残業がなくなり三食きちんと食べるようになったせいか、時間になるとお腹が空くようになっていたのが仇になった。前の職場では、朝食べたらそれっきり…なんて事も珍しくなかったので、空腹を感じる事もなかったのに…

(…それでも、固辞して帰ればよかったかも…)

 いくら顔が好みでも二人きりの空間は決して心地よいとは言えなかった。私は逆に空腹を感じなくなって、無理やり食べている状態だ。勿体ない…それにこんな事がこいつのファンに知れたらマズいだろう。今度は刃物か毒物同封かもしれない…

(あ~あ、今日は月に一度のスペシャルメニューだったのになぁ…)

 そう、それに今日の寮の夕食は、大好きな魔獣肉のステーキだったのだ。それを楽しみに頑張っていただけに、逃した事が非常に残念だった。
 いや、今食べているサンドイッチも、これまで食べた事がない一級品ではあるのだ。ローストビーフも卵のゆで加減も絶品で、野菜だってシャキシャキ感が半端ない。スープも物凄く手の込んだものに思えるし、これはその辺の店で買えるものではないだろう…どこの…とは考えたくない。怖すぎて…
 そして、出されたワインも高級なものだろう。瓶には見た事もないラベルが貼られているし、飲んだ事のない嫌味のない爽やかな味で、貧乏貴族が口にできる代物ではないのは想像に難くなかった。美味しい。もしかしたら二度と口に出来ないかもしれないレベルで美味しいのだけど…

「意外にいける口だったんだな」
「まぁ…前の職場は男性ばかりでしたので」

 会話が…会話が続かない。振れる話題がないし、そもそも住む世界が違い過ぎて何を言えばいいのかもわからない…それでも奴は気にする事なく話しかけてくる。何故だ…

「そうか。でも、それだと危険じゃなかったか?男ばかりでは、その…」
「ああ、そこは心配無用です。いつも侍女達も参加していましたので」

 前の職場の飲み会は男ばかりだったので、侍女達を誘うのが定番だった。前髪は長め、髪はきっちりひっ詰めにして伊達眼鏡をかけておけば、地味で目立たない私の出来上がりだ。服も地味なデザインで身体のラインが出ないものにしたから、私に声をかける人はいなかった。

「そうか…」

 会話が続かないのが息苦しい事この上ない。食べ終わったんだし、もう帰ってもいいだろうか…そうは思うのだが、せっかくだから飲むのに付き合え、明日は休みだからと言われると、上司なだけに断る事も出来なかった。
 昔は学生でまだ対等に近い立場だったけれど、一歩社会に出ればそこは身分と地位がものを言うピラミッド社会。職を失いたくなければ嫌な酒も我慢して飲むのが社会人の務めだ。そう、悔しいかな、生殺与奪権は向こうの手の内にあるのだ。

「ああ、忘れてた。団長から伝言だ。執務室にあるワイン、好きなだけ飲んでいいそうだ」
「はぇ?」
「今日のお礼だってさ。団長、今日は王宮に詰めで手伝えなくてすまないって」
「いや、仕事なんで…残業代を規定通り頂ければ…」
「そうはいかないんだよ。団長、そういうところ煩い人だから」

 そう言うと天敵はちょっと待ってろと言って出て行って、暫くすると高そうなワインを何本か手にして戻ってきた。

「ほら、好きなの飲んでいいぞ。何なら持って帰るのもありだ」

 自分の物でもないのに軽いノリでそう言われても、社畜はそう簡単に頷ける筈もない。

「い、いや…本当に…ご遠慮…」
「お、これ、フェレール産のヴィンテージだ。団長、いい趣味してるなぁ」

 辞退しかけた私を無視して、天敵は勝手に団長のワイン、それもとんでもなく高そうな品の栓を開けた。

(待て待て待て―!そんなの後で弁償しろって言われたって出来ないんだけど!!!)

 いつも飲む奴の千倍、いやもしかしたら万倍も値がする物、後で弁償しろと言われても、貧乏人には到底無理なんですけど!!!そんな私の心の叫びを無視して、奴は私のグラスにそれを注いだ。


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