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あれから…

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 私がヴァルと本当の意味で番になってから、あっという間に五年が過ぎました。

 最初は身体の変化で怠さと眠気に襲われていた私も、半年を過ぎる頃には普通の生活が送れるようになりました。一番案じていたラウラの結婚式に無事出席出来た時は、本当に嬉しかったです。
 それから更に半年後、番ってから一年後に、やっと身体の変化が終わりました。変化が終わると確かに人族だった頃に比べると丈夫になり、体力もびっくりするほどに付きました。
 身体が丈夫になったのはいいのですが…獣人の体力の恐ろしさを本当の意味で知ったのは、身体が完全に出来上がった後でした。ええもう、最初の頃のヴァルがどれほど手加減してくれたか、嫌というほど思い知りました。え?何の事かって?わからなければそのまま流してしまって下さい。



 あれから色んな事がありました。どこから話しましょうか…

 まずラウラですね。彼女はとっても素敵な結婚式の後、無事レイフ様の番となりました。彼女は私とは逆に変化に馴染みやすい体質だったようで、半年経ったか経たないか…くらいで身体が出来上がりまして…それから程なくして赤ちゃんが出来ました。一人目はレイフの灰銀髪とラウラの水色瞳を持つ、とっても可愛い女の子です。レイフ様が溺愛しているのは言うまでもありません。

 レイフ様の妹のベルタさんは、番探しの真っただ中です。狼人なので五年経っても見た目は変わりなく、そろそろ番探しの旅にでも出ようかと言っています。獣人の多いこの国では、一年間の番探しのための休職制度があるのだそうで、外の世界を見て回るついでに番を探そうと考えているようです。

 一方のユリア先生は、三年前に結婚されました。先生のお相手は、王宮に勤める熊人の大柄で穏やかな文官の男性でした。熊人は番への執着が弱い方で、番と言うよりも先生の人柄に男性が惚れ込んでアプローチし、一年ほどの交際の末に結婚しました。今は男性がセーデンに赴任中なので、先生も同行してあちらにいらっしゃいます。時々お手紙が届きますが、仲良くお暮らしだそうです。


 マルダーンは、結婚式の一年後、父王が譲位して異母兄が即位しました。あの後、帰国した父王と異母兄は、王妃とカミラの他国への無礼を足がかりに、それまで好き勝手していた王妃とその実家の不正を徹底的に糾弾したそうです。王妃の実家は伯爵に降爵となり、王妃の力もなくなりました。
 王妃は、私とマリーア王女に無礼を働いた事をきっかけに、これまでの横暴や不正が明らかになり、病気療養のため王都近くの別宮で静養という名の幽閉になり、それから二年後、療養の甲斐なく死亡との発表がありました。

 カミラに関しては、ユリウス王子と共謀して私を害しようとした事がはっきりしたため、さすがに見逃す事は出来ませんでした。帰国後に伝染病に罹り離宮で療養すると発表があり、その三月後に亡くなったとの知らせが届きました。これも表向きの話で、実際には帰国後に直ぐ幽閉され、自死を賜ったそうです。

 王妃とカミラに関しては…長年の積もる思いもありましたが、さすがに死を賜る事になったと聞くと苦々しい気持ちになりました。いえ、その命を下した異母兄はもっと苦しかったでしょうね。実母と実妹だったのですから…
 でも、王族である以上、ここで温情をかける事は許されません。そういう意味では、あの穏やかな兄がよく決心したな…と感心したのが正直な気持ちでした。兄は案外、いい為政者になりそうな気がします。


 ユリウス王子は…あの後ルーズベールから兄である王太子が直々に引き取りに来ました。どうやら王太子は真っ当な神経をお持ちだったようで、ヴァルに謝罪した後、厳罰に処すと約束したそうです。ユリウス王子は帰国後に廃嫡となり、王家の罪人が幽閉される塔に入れられた後、程なくして病死したと聞きます。これも表向きの話で、多分自死を賜ったのでしょう。


 ユリウス王子の廃嫡を受けて、セーデンのマリーア様との婚約も解消されました。そのマリーア様ですが…

「ラウラさん、レイフ様がお迎えにいらっしゃいましたよ」
「ええ?もうそんな時間?!」

 庭でお茶を頂きながら、ラウラと世間話で盛り上がっていた私達に声をかけてきたのはマリーア様―いえ、今ではマリーアさん―でした。マリーアさんの母でもあるセーデン女王はユリウス王子の暴走について、ちゃんと手綱を握っていなかったマリーアさんも問題があったなどと言い出したため、マリーアさんは母王との関係改善を諦めたそうです。以前から種族差別の強い母王に嫌気がさしていたマリーアは勘当を願い出て、それが認められると直ぐに国を出て、私の侍女にして欲しいと言って来たのです。
 ちょうどその頃、ラウラの出産を控えて彼女の代わりを探していた私達は、渡りに船とばかりに彼女を専属侍女として雇う事にしました。元よりラウラやベルタさん達とも仲良くなっていたので、引き継ぎもスムーズで、大変助かったのは言うまでもありません。

 何と言いますか…以前私とラウラが目指していた「平民になって自由を手に入れる」を、そのまんまマリーアさんがやっている感じです。美人で気品のあるマリーアさんに憧れる男性は多いのですが…彼女は今の生活が楽し過ぎると、軒並みお断りしているのだとか。最近は侍女仲間たちと一緒に、街で買い物やカフェ巡りを楽しんでいるそうです。正直に言いましょう…羨ましいです。いえ、今の生活が不満というわけではないのですが…

「ラウラ!迎えに来た!」
「ええ~いいところだったのに~」

 満面の笑みを浮かべて迎えに来たレイフ様ですが…ラウラは塩対応でした。覚悟はしていましたが、やはり束縛がキツい獣人にラウラは辟易気味で、今では嫌な顔も隠さなくなっています。お陰でレイフ様の家庭は、典型的なかかあ天下だとすっかり有名になりました。ラウラも子どもが出来てからは言いたい事はハッキリ言うようになって、何だかレイフ様のお母様に似てきた気がします。

「きゃ!レ、レイフ様、危ないですって」
「だって、大事な身体なんだから当然だろう」

 急にお姫様抱っこされたラウラが抗議の声を上げましたが…レイフ様は嬉しそうな愛おしそうな甘い笑みを浮かべるばかりです。今、ラウラは二人目を妊娠中なので、余計に過保護なのですよね。

「エリィ、ここにいたか」
「ヴァル」

 レイフ様に少し遅れてやってきたのは、私の番のヴァルでした。どうやら今日の執務は終わったようですわね。今は国も安定しているので、執務が早めに終わる日もあります。

「ああ、少し風が出てきた。そろそろ中に入ろう。今は大事な時期だから…」

 そう言ってヴァルはレイフ様同様、私を抱き上げました。そうです…実は私も…一人目を妊娠中なのです。今日は母親の先輩でもあるラウラから、出産に向けての心構えなどを教えて貰っていたのです。

「ラウラからは話が聞けたのか?」
「ええ、色々参考になりましたわ」

 レイフ様に劣らず、いえ、もしかしたらそれ以上に過保護で心配性なヴァルが、笑みを浮かべながら目を細めました。番ってから五年経ちましたが、中々子供が出来なくて気になっていたのです。竜人は子が出来にくく、出来ても一人が殆どなので、もしかしたらこれが最初で最後の妊娠・出産になるかもしれません。それでも…ヴァルとの子が出来るのはとても嬉しいです。

 子が出来にくいと言えば…宰相様のところもそうでしたが、一年前にやっと子が生まれました。あちらは三十年も子が出来なかったそうですが、それは宰相様が二人だけの時間を楽しみたいから…と密かに避妊薬を飲んでいたからだそうです。
 でも、レイフ様とラウラの子を見たアルマ様が、私も子供が欲しいと言ったのを人伝に聞いて、宰相様は直ぐに薬をやめて子作りに勤しんだとか。アルマ様を逃がすまいと執念を燃やしている宰相様としては、子どもで繋ぎ留めたかったのでしょうね。
 しかし、アルマ様に並々ならぬ執着を持つ宰相様です。実の息子だというのに早くも焼きもちを焼いてアルマ様を困らせているのだとか。それでも息子さんをアルマ様以外が触れるのも面白くないとかで、複雑なお気持ちなのでしょうね。周囲は息子さんが宰相様に謀殺されないかと心配しています。

「ね…ヴァル」
「どうした?」
「あのね…私、凄く幸せよ」
「……」

 何だか今、物凄く幸せだと感じた私がそう告げると、ヴァルの歩みが止まりました。

「ヴァル?」
 
 そこは俺もだ、と言ってくれると確信していたのですが…言葉が帰って来なくて不安になってきました。恐る恐るヴァルを見上げると…ヴァルは珍しく耳まで赤くなっていました。え?どうしてここでそんなに照れているのでしょうか…

「…エリィ…今のは反則だ…」

 そう呟いたヴァルが可愛くて、私はその胸に頬をすり寄せました。束縛の強さに辛くなる事がないと言えば嘘になります。時には理解出来なくて喧嘩になる事も。種族の違いは今でも、時折私たちの間に壁として現れます。
 それでも…この腕の中が私の居場所だと、その束縛を嬉しいと思うのも本当です。たくさん話をして、お互いに言いたい事を言い合っていけば、きっと迷う事はないでしょう。今この瞬間が幸せだと思えるように、そしてその気持ちを持ち続けていれば、きっとこれから先の長い未来も大丈夫な筈です。
 最期のその時に、いい人生だったと、そう言えるように―

 

  【完】

- - - - - - - - 
ここまで読んでくださってありがとうございます。
このお話はここで区切りをつけて終わりとなります。後日談が数話入る予定です。
5/23 宰相の子供を娘から息子に変更しました(この世界では竜人は男しかいない設定のため)
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